〜小山若犬丸の乱〜 広がる戦火。6
私達は、平城の小田の城も大軍からの攻撃に耐えられないと判断して、北に在る筑波山の麓にある小田の城の詰めの城である男体の城へと退いた。
斑鳩の各地へ送った陣触れにより、続々と小山の人達も男体の城へとやって来た。
この追い込まれている様な雰囲気……。
あの時の記憶が蘇る……。
何か、岩櫃城を思い出して嫌だな。
そして数日後。
男体の城に籠る小山小田の連合軍と、攻め寄せる鎌倉方との戦が始まった!!
鎌倉方の軍は数に任せて力攻めで攻め寄せる。
そして敵は、一斉に城への入り口となる道を挟む様に存在する二つ曲輪目掛けて一斉に攻めて来た。
斑鳩がその手前の前線となる小さな二つの曲輪で、五郎さんは二つの曲輪が見下ろせる、大きな二の丸で指揮をしている。
そして私は、戦には参加させて貰えずに、花月と本丸にいた。
本丸にも戦の怒号が聞こえて来た。
『怯むなーー!』
鎌倉方は斑鳩の守る二つの曲輪を攻め様とするが、斑鳩は果敢に戦い次々と敵を押し返して行く!
だが、数で負ける斑鳩は次第に押されはじめて行く。
そして、頃合いを見計らって斑鳩が叫ぶ!
『ひっ、引けぇーーっ!!』
斑鳩達が怯んで、二の丸へと退いたと思った鎌倉の軍は、一斉に斑鳩達を追って二の丸へと突撃して来る。
それと別に、空になった小さな二つの曲輪を占領しようと雪崩込む者と三手に分かれた!
しかしこれこそが、斑鳩と五郎さんの狙い。
五郎さん達は、敵が二つの曲輪に突入するのを狙って二の丸から矢や石でも熱湯でも何でもかんでも投げつける!
それこそ汚物でも。
敵は頭上に在る二の丸からの攻撃で大混乱に陥る。
それを見た、斑鳩達を追って二の丸の前まで来た敵の隊の動きが一瞬止まった。
『今だっ! 続けぇ〜〜っ!』
『『『おおぉっ!!』』』
その隙を逃さずに斑鳩達は一気に反転し、五郎さんの率いる部隊も二の丸の門を開き、総出で鎌倉方に襲い掛かる!
鎌倉方は必死で応戦するものの、大混乱に陥り慌てふためいて一目散に逃げて行った。
『よしっ! 勝鬨を上げよ!』
『『『えいっ!えいっ!おおっ!!』』』
その日の戦は私達の大勝利で終わった。
『若犬丸殿っ!
なかなかの戦上手! 感服致しました!』
『いえいえ。
鎌倉の方が腰抜けなだけです。』
斑鳩と五郎さんは楽しそうにお酒を飲む。
『凄かったわ! 斑鳩、五郎さん! 大勝利ね!!』
『嫌々、この堅牢な城が在ればこそだ。
そして、真壁殿や他の豪族達からの兵糧の調達が有ればこの戦は勝てるな。』
『そうね、明日も頑張ってね! でも無理は駄目よ。』
『分かっておる。』
斑鳩は笑顔で私を見つめてくれた。
私も笑顔で斑鳩を見つめた。
『では私も若犬丸殿に負けず、頑張らないといかんな!』
『五郎さんも無理はしないで下さいね。』
『分かっております。
サクラ殿の為に頑張りますぞ!』
まじまじと私を見つめる五郎さん。
きっと酔っ払ってるのね。
『あれ? サクラ、アンタは飲まないの?』
『何言ってるのよ花月。私は……。』
お酒ってあんまり良い思い出が無いからな。
『おっ! サクラ殿も飲まれるのかっ! ささっ!』
『え、えぇ〜っと……。』
『サクラ、良いでは無いか。
五郎殿も進められてる事だし。』
『あ、は、はい……。
で、では頂きますわ。』
『花月殿もどうぞどうぞ!』
また始まってしまったか……。
それから延々と酒の席が続いた。
『おおっ! そうでしたか!!
サクラ殿と花月殿はそんなにお強いのか!』
『二人はこう見えても、並みの武士では太刀打ち出来ませんぞ! あの時だって……。』
『な、なんと! 誠かっ!』
何か二人共、だいぶ酔って来てるなぁ。
とか言う私もだけど。
『五郎様、この子の剣は本当に舞いを舞うかの様な剣なのですよ。』
『サクラ殿は誠の剣の舞姫なのですな!』
私はお酒を飲んで、ほろ酔いにながらも照れて顔を下に背けてしまう。
『花月殿の薙刀は、まるで月の弧を描くかの如く美しいとの事ですな!』
『なぁ〜〜に言ってんですか。』
花月も照れ臭い様だった。
『うむ!
サクラ殿も花月殿も名前の通りのお方なのですな。』
『それに、私とサクラは花月に本当に助けられております。』
『斑鳩がアタシの事を褒めるなんて珍しいわね。』
花月が意地悪く言う。
『そうか? いつも思ってたのだがな? 言ってなかったか。』
『言って無いわよ! アンタ、もっとアタシに感謝しなさいよ。』
何か、こんなやり取りが好きだな。
絆を感じる。
『羨ましい……。
三人には主従を超えた絆が有るのですな。』
『五郎さんだってもう、私達の仲間ですからねぇ〜〜!!』
私は立ち上がって、五郎さんの元へと向かった。
『サ、サクラ?』
『ありゃ、始まったわ……こりゃ。』
そして、私は瓶子を握り締めながら、五郎さんの前に座り込んだ。
『私は仲間だって思ってますよ!
五郎さんはとっても良い人だし、私の事も気遣ってくれたり、私達を見捨てずに一緒に戦ってくれたり〜〜!
でも何か最近私によそよそしくて悲しいんです!』
『よそよそしい? 私が??』
『そぉ〜ですよ!
前にお城の外を案内して貰った後から!
何かしたのかな? って思って五郎さんを訪ねたら、戦になっちゃって聞けなかったんですぅ〜〜!』
『あ、ああ。そう言われると……。』
『私、何かしたんですかっ!』
『嫌々! サクラ殿は何もしておらん!』
『じゃあ何故ぇ〜〜!?』
『あっちゃぁ〜〜。
この子の鈍感さには恐れいるよ。』
『ほら、五郎殿も困惑しておるだろう。
サクラ、その位に……。』
『すまぬっ! 斑鳩殿……!』
その時、五郎さんが後退りしながら頭を下げた。
『へっ??』
突然の事で何が何だか分からずに、五郎さんの勢いに負けてのけぞってしまった。
『サクラ殿、私は貴女に若犬丸殿がいると知っているのにも関わらず、貴女に想いをよせております。
あの時、つい口走ってしまった事で貴女に気が付かれてしまったと思い、まともに話せなかったのです!』
『え、ええっ!?』
私の事を!?
自分の顔がお酒も後押しして一気に真っ赤になって行くのが分かった。
『あ、あ、あ、あの、あの……。』
『すまない、五郎殿。
その様な事を言わせてしまって。』
『嫌々、私こそ申し訳ない。
私も言ってすっきりしました。
それに横取りしようなどとは毛頭考えておりません。
ただただ二人の幸せを願っておりまする。』
『五郎殿、有難う御座います。』
『って、あれ? サクラ殿??』
『サ、サクラ??』
『あちゃあ……。
鈍感で免疫も無いからのぼせて倒れちゃったよ……。』
『何と純粋なお方なのだろう。』
『そうですね、五郎殿。』
斑鳩と五郎さんは笑顔で見つめ合い、そのまま眠ってしまった私を二人で見つめていた。
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