〜小山若犬丸の乱〜 祇園の城を目指して。3
朝。
『ううーん……。』
久しぶりにぐっすり寝られて、寝坊しちゃったな。
『おはよう……。サクラ。』
目を開くと、目の前に斑鳩の優しい顔があった。
『うん、おはよう。斑鳩……。』
私も笑顔で返した。
『……………!』
あっ!
そっ……。そそそ! そうだっ!!
私、昨日は斑鳩と……。
恥ずかしくて斑鳩の顔が見れない。
『何を赤くなっている?
さあ、そろそろ起きねばな。』
優しく頭を撫でてくれる斑鳩。
幸せだなぁ。
って!
私たち裸じゃない!!!
咄嗟に布団の中に顔を隠す!
あのまま寝ちゃったって事〜〜??
『今、着物を取ってやろう。』
『う、うん。有難う……。』
私は恥ずかしくて布団の中で無理矢理羽織り、前が見えない様に立ち上がってさっさと帯を締める。
『どうだ? サクラ……。』
急いで着替えていたから、何を言ったのか聞き取れなかった。
『何がどうだよ! 斑鳩のエッチ!』
『えっち、とは何だ? 海の事を言うのか??』
『えっ? う、海??』
『そうだ。海を見に行こうと申したのだ。』
『……。』
また顔が真っ赤になった。
全く、私って……。
『嫌か??』
悲しそうな顔をする斑鳩。
その表情が妙に愛おしく思える。
『ううん。一緒に行こう。』
そっと斑鳩を抱きしめた。
私達は、別々に二人で馬に乗って海まで遠駆けした。
『だいぶ馬術の腕前が上がったな!』
正直、馬の腕はまだまだだったけど、斑鳩の教え方が上手かったのか、私の馬術は随分と上達した。
『斑鳩っ! 競争よ!』
『望む所だ!』
懐かしなぁ。
こんな平和な時間。
この時代の小山に迎えられた頃以来だなぁ。
そして、この地には平和な時が流れている。
まるで太陽が私達を見守ってる様。
まるで山々が私達を包み込んでくれる様。
まるで海が私達を癒してくれている様。
この菊田の地は、とても素敵な所だった。
いつの間にか海が見えて来る。
この時代に来て初めて見たな。
『小山にはない景色だな。』
『うん、大きいね。』
私達は海岸に馬を止めて海を見つめた。
『あの先には何があるのだろうな……。』
『あっ、そうか。
斑鳩は知らないんだ!』
『何っ!?
サクラ、知っておるのか? あの広大な海の先を!』
『うん、多分ここは波が穏やかだから太平洋。
だからその先は……。』
『太平洋??』
まあ、この位は教えても歴史は変わらないでしょ。
変わらない程度でいい。
斑鳩にも私の時代を少しで良いから伝えたい。
『そう、私の時代では太平洋って言うの。
そして、とても広大で、世界で一番大きな海。』
『そうなのか。
どれ程大きいのか想像もつかぬな……。
確かに、反対側の海はすぐ明国だしな。』
『明国??
ああ、この時代の中国の事ね。
そう、この果てしなく広い海の先には、この時代にはまだ無いけど自由の国があるの。』
『自由の国?』
『私の時代の日本は自由の国に習って出来たの。』
『出来た?』
『うん、私が生まれるよりも前の話だけど。
一度、自由の国とこの日本が太平洋を挟んだ、世界の半分を戦場にしたの。
そして日本は負けた。
そして自由の国は、日本がより良い国になる為に力を貸してくれた。
日本中から皆んなに選ばれた人達が意見を出し合ってより良い国にする為に。』
『素晴らしい時代だな。
今の時代とは大違いだ……。』
『そして、自由の国の先にはまた海があるの。
その先は西洋、騎士の国。』
『騎士?』
『武士の様に規律を守る騎士団が護る国よ。その先がインド……えぇっと、この時代で言う天竺、そして明国。』
『そうか、きっと気高く誇り高い者達なのだろうな。
ん??
天竺からまた明へ戻る?? どう言う事だ?? それではこの日の本にまた戻るではないか?
何故なのだ?? 全く分からん……。』
『この世界が丸いからよ。』
『ま、丸いのか!?
ならば何故我等は滑り落ちない?』
『あ、あははっ!』
思わずおかしくなっちゃった。
『重力って力があるからよ。
だから自分にも重さを感じるでしょ?』
『何だか良く分からなくなるが、サクラの時代は素晴らしいのだな。』
『うん。
どんなに離れた所の人ともお話し出来るわ。』
『ど、どんなに離れてもかっ!?』
『飛行機って言う空飛ぶ物に乗って、あっと言う間に世界を旅出来る時代なの。』
『な、なんと! 空を!!』
『そして、月にも行くわ。』
『あ、あの月へかっ!?』
『……でも私は思うの。
確かに便利だし、日本は平和だけど、やっぱり国どうしの戦はいつの時代も変わりは無い。』
『どの時代も変わらんのだな……。』
『うん。私が生まれる前に世界を巻き込んだ大きな戦が二回も有った。
さっき言った自由の国との世界の半分を戦場にした戦もその大きな戦の中の一つでしか無かった。
何千万人って、考えられない位の沢山の人が犠牲になったわ……。』
『……便利になった分、戦の規模も大きくなるのだな。』
『そうね……。』
だから私は思うの。
小さな平和でも良い。
私の守れる範囲だけでも良い。
この思いよ……。
この願いよ……。
どうか……。
『サクラ。』
『何? 斑鳩。』
『まだ暫くは小田殿からの返事も来ないであろう。
束の間かもしれんが、またサクラと平和な時を過ごせる。』
そう言いながら、斑鳩は満面の笑みで私を見つめた。
『斑鳩……。』
私も満面の笑みで斑鳩に応えた。
こうして平和なまま、時が流れてくれれば良いのに。
そう思いを込めながら……。
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