〜小山若犬丸の乱〜 広がる戦火。8

『なっ、なんだと!!』



『それは誠に御座いますかっ!』



『やはりそうだったか……。』



忙しくてなかなか会えない斑鳩の顔を、ふと見たくなった私は、斑鳩の部屋の前に来ると、部屋の中から何やら斑鳩と五郎さんの声が聞こえた。



『あの〜〜……。

斑鳩、五郎さん?』



『 サクラか!?

丁度いい入ってくれ。』




部屋の中には斑鳩と五郎さんと花月が座り込んでいた。



花月、無事に帰って来てくれたのね。




『花月っ!! 無事だったのね!

お帰りなさい!!』




私は花月の無事な姿を見て安心して、笑顔で花月を見つめた。





『アンタ、そんな呑気な顔してる場合じゃ無いのよ。』




な、何よっ!



呑気って失礼ね。私は花月が無事で安心してるのに!



プンスカした表情の私に構わず花月が喋り出した。




『突然佐竹が真壁殿とその他の豪族達に攻め込んで来たの! 皆、壊滅的な状況よ!』



『えっ!?』



『これで情勢は厳しくなったな。』



『サクラ殿、これで兵糧の補給は絶望的になりました。』




た、確かに、花月が帰って来る前から食料や武器の補給が途絶え気味だった。





『ど、どうするの? 何か策はあるの?』




……長い沈黙が続いた。




だが皆、何も有効な策など考えられなかった。





それから打開する策なども見当たらず、何日も虚しく時間だけが過ぎて行く。




その間にも何度か小競り合いが続いた。




負けはしなかったが、日を追うごとに味方の士気が下がっているのが手に取る様に分かる。




そう、ついに備蓄している食料が底をついて数日が経っていたからだ。




矢の数も残り限られて来た。




『お手上げだな……。』



『如何致しますか、五郎殿。』



『打つ手なしかね。』



『何か手は無いの?』




四人共まともな意見も出ずに沈黙する。






ぐぅぅ〜〜……。





誰かのお腹が鳴った。






『しかし、腹がへったな……。』






『『『『……。』』』』





五郎さんの一言に沈黙する。





その時、沈黙を破る様に小田の家中の人が、どたどたと慌ててやって来た。




『い、一大事に御座いますっ!』




『どうしたのだ!』



『鎌倉方の総攻撃ですっ!』



『な、何だと!? 直ぐに参るっ!!

直ちに備えを固めよ!!』



『はっ!』



『若犬丸殿っ!!』



『何としても鎌倉方を押し返して、この事態を打開する策を見つけねば!』



『な、ならアタシはサクラを守るから安心して!

公方さんの狙いはサクラでも有るんだから!!』



『頼む! 花月っ!』




斑鳩と五郎さんは、急いで戦場に向かって行った!




だが鎌倉の軍の怒涛の猛攻に、食料を断たれた味方の兵は力なく敗れて行き、既に二つの小さな曲輪は攻め堕とされてしまい、二の丸まで攻めかかられていた。





もはや成すすべがない……。





『若犬丸殿っ! この二の丸は何としても守り抜くのだ!』




『この二の丸を堕とされれば残すは本丸のみっ!

五郎殿! ここが正念場ですぞ!』





かろうじて防いでいるが、このままでは時間の問題だ。




『し、しかし敵がっ!』




『ええいっ! そこを何とかするのだっ!』



『しかし、このままでは持ち堪えられませぬ!』



『何としてでも持ち堪えるのだっ!!』




二人は味方の兵に檄を飛ばしながら、必死に戦う。



だが、必死に抵抗するものの、敵は人海戦術で次々と二の丸の門へと迫る!




『良いかっ!!

絶対にこの門は開けさせるな!』




門を叩き割ろうとする丸太の音が城中に響き渡り、私達に緊張と焦りを与える。




大勢の兵が門を破られぬ様に、身体で必死に押さえつけていた。




しかし、必死に門を守る味方の不意を突いて、鎌倉の兵達が土塁をよじ登って来る!




敵の侵入を許してしまった!





一気に乱戦にもつれ込んで行く!!




一度侵入されると、次から次へと止めどもなく敵が二の丸へと土塁を上って攻め込んで来きた!




そして、門を守っていた味方の兵は次々と討ち取られて行く!



『ご、五郎殿! 門がっ!』



『門が打ち破られる!』




数少ない兵達は必死に門を破られんと抵抗するが、味方の兵達を吹き飛ばしながら、門は丸太で強引に破られてしまった!




そして一斉に敵が怒涛の如く雪崩れ込んで来る!




『かかれぇ〜〜!』



怒号と共に一斉に襲い掛かって来る!



そして一気に敵が雪崩れ込むと、味方の兵は飢えのせいで本来の力を発揮出来ずに次々と倒れて行く!




一旦侵入されると、門から次々と敵が押し寄せて来た!





『わ、若犬丸殿……! 最早これまで!! 本丸へ!』




『い、致し方ない!』




『ひっ、引けぇ〜〜!』



そうして、もう後の無い私達は本丸に立て篭もって必死に抵抗した。




だが、明らかに男体の城はもう落城は時間の問題だった。




『皆んな、どうするの? このままじゃ!』





斑鳩も五郎さんも、何も言わずに顔を沈めたままだった。




『そうね、今回は事情が事情だから私達も逃げる事なんて出来ないしね……。

でも何かあったらアンタだけでも必ず逃すからね!』



『そうだな……。』



『せめてサクラ殿だけは何とか。』




えっ? 私だけ?



斑鳩は?



花月は?



五郎さんは?





『アンタの斑鳩への思い分かるけど、アンタだけでも逃げて、その破邪の剣の力で未来に帰りなさい。』



『い、嫌だよ。

皆んなを見捨てて私だけなんて……。』



『サクラ、最早どうしようもないのだ……。』



『サクラ殿、せめて貴女だけは。』



『そ、そんな……。』



『アタシ達が命に代えても、最後までアンタを逃す為に守るから。』




『そ、そんなの嫌だよ。』




斑鳩も花月も五郎さんもここで死んじゃうの?



そんな歴史じゃない筈よ!



貴方が死んでしまうかもしれない、もう一つの歴史の最後は会津でしょ??



だけど、未だに破邪の剣の力を使う方法は分からないし、一体どうしたら良いの!?





私達がそしている間にも、この本丸も敵の侵入を許してしまった。





落城は刻一刻と迫っていた……。




そして、炎に包まれた男体の城は最期の時を迎えようとした。



私達は無言でうつむいていた。



『……花月。

最早猶予は無い……! サクラを頼んだぞ!』



『あいよ……。

斑鳩、またいつか……。』



『うむ、花月もな。

くれぐれもサクラの事を頼む……。

願わくばサクラと一緒に城を出て、未来へ帰るまで見守ってて欲しい。』



『わ、分かったよ。』



花月は悲しそうな目をしながら笑顔で斑鳩を見つめていた。



『い、嫌よ……。

斑鳩も五郎さんも死んじゃうの?』



『最早これまで……。

サクラ殿、どうかご無事で…。』



『サクラ……。さらばだっ!』



二人は一気に立ち上がると、私が掴もうとした腕を振り払う様に部屋を出て行った。



『えっ??

ま、待ってよ! お願いっ!』



私は花月に抱き締められ、身動きが取れないまま斑鳩と五郎さんを見送った。




必死で花月を振り解こうとするが、花月も必死に私を抱き締めた。




『嫌っ! 離して!』



『駄目よ! アンタは生きるのよ!』




長い沈黙が私達を支配した。



私は涙が溢れて、力無く崩れた。




『……サクラ。』



『……。』



応える気力も無かった。




何でこうなの?



私はただ平和に暮らしたいだけなのに。



歴史も変わってしまって、愛する人も守れない。




『私は無力よ。歴史までもが変わってしまって……。』



『歴史?? そうか、ここは未来でアンタが見て来た斑鳩の生死の分かれ道では無いんだね。

もしかして、歴史が変わってしまったのかね?』





……そうだ!




今まで、私の存在が歴史を導いて来たんじゃないっ!



ここで私が二人を助けてなきゃ!!



貴方の歴史は会津から二つに別れるの!




絶対にここで死なせはしない!




私がもう一つの歴史に、生きる歴史にしてみせる!




それに五郎さんも死なせはしない!






『花月、その手を離しなさい……。

私が正しい歴史に戻すのよ。』





『だっ、駄目よ! 逃げるのよ!!』




私は花月の眼を見つめた。




『……。』




『……。』




二人で見つめ合って長い沈黙が支配した。




私はここで二人を見捨てて逃げる訳にはいかない。




そう思いを込めて。




『……ったく、アンタには負けるよ。』



『花月?』



『アンタの目を見ていると、普段はそんな事無いのに、こう言う時は、アンタの破邪の剣の舞姫として神々しさが伝わるよ。』



『わ、私が神々しい??』



『アタシも正直、こんな結末は後味悪いし、アンタの見て来た斑鳩の正しい歴史とは違うんでしょ?

ったく、仕方ない! お二人さんを助けに行きますか!』




『か、花月っ!!』



私は笑顔になって花月を抱きしめた。




『ただし、絶対に死ぬんじゃ無いよ!

アタシ達の歴史は分からないんだからっ!』




私は無言で頷いた。




『行こうっ! 花月っ!』




私達は斑鳩と五郎さんの後を追った。



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