〜小山若犬丸の乱〜 祇園の城を目指して。9

私達は、ついに悲願の祇園の城を取り戻した。




その後、私はすぐに手当てを受けた。



思った程に大事には至らなかったけども、斑鳩にこっ酷くお説教を受けた。



私もついかっとなって反論して喧嘩してしまった。



斑鳩の意見はごもっともだけど、私の気持ちも少しは分かってよ!



それに、幾らなんでもあんなに怒らなくても良いじゃないっ!



そしてそれから何ヶ月か経って、やっと怪我も良くなった。



あれから、敵が攻めて来たらしいが斑鳩が出陣して敵を倒したらしい。



祇園の城を取り戻してからの斑鳩はとても忙しく、あの喧嘩して以来会ってはいなかった。




私も意地になって斑鳩に会いに行こうとはしなかった。




『斑鳩ってば、あの日以来何やってるんだろう……。

少し位、顔見せてくれたっていいのに……。』



せっかく祇園のお城に戻って来たのに、これじゃ嬉しさが半減だな。



そんな事を考えていたら、なんだかまたいらいらして来た!




『ふんだっ! 絶対会いになんか行くもんかっ!』



斑鳩が会いに来るまで行ってやるもんかっ!




『わっ!!』



急に視界が暗くなった!



『どうした百面相。』



『なんだ花月かぁ……。

もう、びっくりしたなぁ。』



『アンタ、珍しく斑鳩と喧嘩したんだって?』




『だって、斑鳩。

あんなに言わなくたって……。』




『それだけ心配したんでしょ? 許してあげなよ。』



『わ、私は別に怒ってなんか……。』




『あはははっ! アンタ達って……!』




『えっ?』




『いやごめんごめん。

この前斑鳩と会った時に言ってたのさ。

私は別に怒っておるのではない! ただ心配なだけだ!

……ってさ。』



『斑鳩が……。』



『会いに行ってあげなよ。

アイツ今、戦後処理や鎌倉の軍との戦で忙しいだろう?

こう言う時は女から言った方が丸く収まるもんだよ。』



『う、うん……。』



『それに脚の怪我も心配してたよ。

花月! あの傷は残ってしまわぬか? ?

立たなくなったりはしないか??

その様な事になってしまったらサクラが可哀想だ! ……ってね。』



『わ、私……、斑鳩の所に行って来る!』



『……あいよ。』




私は居ても立っても居られずに、斑鳩の元へ走り出した。




『……い、斑鳩??』



そうして斑鳩の部屋に着くと、襖越しに声を掛けた。



返事が無い。



やっぱり、忙しいからいないかな。



『……。』



でも部屋から気配を感じた。




『斑鳩……。

あの、私……。』



やっぱりまだ怒ってるのかな?



そう思うながら下を向いてると、障子が開いた。




『……脚は、大丈夫か?』



立ったまま、横を向いてぼそっと呟いた。




『う、うん。傷も殆ど消えたし、もう大丈夫。』



『そうか……。』





『『……………。』』



長い沈黙が二人の間で流れた。





『『あの!!』』


二人で同時に呼んでしまった。




『あ、あの斑鳩……。』



『すまなかった! サクラっ!』



私の声を押し殺して斑鳩が叫んだ。



『あの様に強く言うつもりでは無かったのだ。

サクラを失う怖さ、美しいサクラに傷が残ってはと思ってつい……。

それに、もしかしたら歩けなくなのではと。

だから、思わずあの様な口調で……。』




ああ、私は本当に愛されているんだ。



『私こそごめんね。

あんなにきつく言い返しちゃって……。』



『いや、仕方の無い事だ。』



『せっかく祇園のお城に戻って来たのに斑鳩がいないと嫌だよ。私、仲直りしたい……。』



『そうだな。もう仲直りしよう。』



斑鳩はそう言って私を抱きしめてくれた。



『もう桜の花は散ってしまったが、新緑に溢れる思川を見に行こう。』




『うん!』





あっ!そうだ!!




喧嘩の事で頭がいっぱいで、すっかりと忘れてた!




『斑鳩、思川よりも別に行きたい所があるの!』




『ん?? 一体、何処へだ?』





そう破邪の剣の秘密を少しでも解き明かさなきゃ!!





『須賀神社っ!!』






そうして、喧嘩の事なんて頭の中からもうすっかりと消えてしまった私は、斑鳩と共に須賀神社へ向かった!



相変わらず神々しい雰囲気で満ち溢れてる。



やっぱり、この場所は別格だ。



全てが張り詰めていて、空気が澄んでいる。





『どうしたのだ、急に須賀の社へいくなどと。』



『何か手掛かりが有ると思うの!』



『??』



『この破邪の剣の事よっ!』



『私もサクラと出逢う前から色々と調べたが、それらしき物は無かったぞ?』



『分からないでしょ?

それに二荒山神社の時みたいに、舞姫にしか見る事の出来ない何かが有るかもしれないしね!』



そう言って、急いで境内へ向かった。



須賀神社に着くと、私達は久々に宮司さんと再会した。



『これはこれは舞姫様。

お久しゅう御座います……。』



宮司さんは深々と頭を下げる。



『いえいえ、そんな畏まらないで下さいっ!』



『宮司殿、久方ぶりだな。息災か??』



『おお、殿っ!

お元気そうで、何よりで御座います。

それにしても今日はお二人で何用で?』



『宮司さん、舞姫に関する書物を読みたくて参った次第です。』



『それならば、殿は幼き頃から読んでおいででは?』



『そうなのだ。

だから言ったであろう?』



『そんなの分からないわよっ!

まだ何か斑鳩の読んで無い書物や発見が有るかもしれないでしょ?』




もう既に破邪の剣と言う、ゲームに出て来そうな剣が有る位だから、舞姫しか見られないとか、破邪の剣に導かれて、初めて発見出来る物も有るかもしれない!




実際に、二荒山神社でもそんな事が起こったし。



とりあえず、古い書物が沢山有ると言う書庫へ向かった。




『……やはり、何も無いな。』


斑鳩は本を読み返しながら呟いた。




『まだ分からないわよ!

それに、諦めた気持ちで探しても何も見つからないわ!』



『そう言われてもなあ。』



『斑鳩、絶対見つからないと思ってるでしょ!?』



『あ、いや……。』



『もーーいいっ!

私はあの奥の棚を探してみるわっ!』




そして、大量の書物が納められた部屋の片隅に、無造作に一冊だけ置かれた書物を見つけた。




『びっしりと本が有ったのに、何でこの棚には一冊だけしか置かれていないの?』




『ああ、その本か。』



私がその本を見つけると、斑鳩はいつの間に私の直ぐ後ろにやって来て、私の一人語を意味深に答えた。




『開いて見れば分かるさ。』



私は、その本を手に取った。




『私もここの書物は一通り目を通したが、それには何も書かれてない、まっさらな書物だ。

多分誰かが書こうとして何も書かずに放置されていたのだろう。』




何も書いていない??



何でそんな本が……。




私は何かを感じ、おもむろに手に取った。




『えっ!』



『ん、どうしたのだ?』



『斑鳩! 何言ってんの??

何も書かれていないなんて……。

こんなに沢山書いてあるじゃない!』



『な、何っ!?

間違い無く何も書かれて無かった筈……。』



『ほら見て!』




私が本を斑鳩に見せると斑鳩は不思議な顔をした。



『何を言ってるのだ?

やはり何も書かれていないではないか』



『え??

斑鳩、この文字が見えないの?』



『うむ、ただの白紙だな。』



『もしかして……!

私だけが、破邪の剣の舞姫だけが読める書物……。』



『っ!!

誠かっ!何て書いてあるのだ!』



『ち、ちょっと、急かさないでよ!

どれどれ……。』




パラパラと捲ると、そこには何か意味深な一文があった。




『この書物を読む事の出来る者は破邪の剣の舞姫のみ。

そして、全てを知り導く者。

その思いに降り掛かる邪を滅する為に永遠の時を過ごす。』



『どう言う意味だ??』



『導くってのは分かるけど、永遠の時を過ごすって?』



『分からん。

だが、きっと何か重要な事なのは間違いなさそうだな。』



『須賀の社に降臨した破邪の剣の舞姫。

その巫女の物語はお……。』



私は咄嗟に口を止めて、頭の中で読んだ。



『(須賀の社に降臨した破邪の剣の舞姫。

その巫女の物語は奥州会津の地が始まりでもあり、終わりでもある。)』

※会津、今の福島県会津若松市。



この会津の地こそ、斑鳩の歴史が別れる場所。



でも私の始まりの地でも有り、終わりの地でも有るって一体……。




それにしても、まるで未来を知っている様な本だ……。



私は怖くて仕方が無かった。





『サクラ、どうしたのだ?』



斑鳩と宮司さんが、心配そうに私を見つめる。




はっ、と斑鳩に振り向く。





『……ゴメンなさい。

これ以上は、ぼやけてて何が書いて有るのか分からない。』




斑鳩だけには二つの歴史がある。



そしてその事に、私や破邪の剣も何か関係しているのだけは良く分かった。




『斑鳩は必ず私が守るから……。』



改めて誓った。




『それと宮司さん。』



『どうなされました?』



『神威の剣の舞姫って知ってますか??』



もしかしたら宮司さんなら、何か知っているかもしれない。



神威の剣や神威の剣の舞姫の事を。




『なっ! か、神威の剣の舞姫っ!!

ま、まさか、お会いになされたのですかっ!』




『宮司殿、何か知っておるのか?』



『え、ええ。

正に、光在る所に闇もまた在るのです……。

そして光と闇は表裏一体。』




確かにあの時のツバキは深い闇そのものだった。




『この須賀の社に古くから伝わる伝承です。

遥か昔、聖剣を我が者としようとした邪悪なる者がおりました。

聖剣を体内に取り込んで、比類なき力を手に入れたその邪悪は、一人の勇者に倒された。

体内より出し聖剣こそが破邪の剣の元の姿。

そして、邪悪なる者は怨霊となり、その魂を剣へと変えた。』



『そ、それが神威の剣……。』



『何か聞いた事のある様な話しだな。』



『ああ、斑鳩。

その邪魔はきっと八岐大蛇やまたのおろちよ。

そして、破邪の剣は、天照大神あまてらすおおみかみが余りの霊力の為に天叢雲剣あめのむらくもを二つに割った片割れよ。



『なっ!!』



『た、確かに八岐大蛇の倒したのは須佐之男命すさのおのみこと

この社は須佐之男命を祀ってある……。

合点が行きました。』



『前に二荒山神社で豊城入彦とよきいりひこみことに教えて貰ったわ。』



『そうだったのか……。

では、破邪の剣の片割れとは。』



草薙の剣くさなぎのつるぎよ。

草薙の剣には天照大神の力を宿し、この国を統べる力を、破邪の剣には須佐之男命の力を宿し、邪悪を滅ぼす力を持った。』



『そ、そこまでの力を持っていたのか……。』



『だから、藤原秀郷も草薙の剣を持つ帝から命を受けて、破邪の剣の舞姫と共に、この国の平和を乱す平将門を討った。』



『この国の和を乱すか……。

まさに今の鎌倉公方では無いか。』



『やっと分かったわ。

きっと、平和を乱す者の側には神威の剣の舞姫がいる。

多分、平将門にも神威の剣の舞姫がいたのよ。

光と影……。

余りの霊力の為に二つに割ったって言ってたけど、それ以上に、神威の剣を滅ぼす為に破邪の剣は生まれたのよ。

きっと、平和を守る者と邪魔を滅ぼす者、二人が必要だったのよ。

だから、私は破邪の剣の舞姫として、神威の剣を滅ぼさないといけない。

私の思い願う斑鳩の歴史の為にも……。』




そんな剣にツバキは取り込まれてしまったんだ。




『舞姫様、神威の剣は、一破邪の剣の舞姫を最も怨む者の魂を憑代にするとも伝わっております……。』




た、確かにツバキは私に見殺しにされたと恨んでいた。




『そして、神威の剣の力を解放し、その願いを叶える為には破邪の剣の舞姫の魂が必要だと。』



『な、何だとっ……!?』



『……それはツバキと再開した時に言っていたわ。

願いを叶えるには、破邪の剣の舞姫の血と命を神威の剣が浴びなければならないって。』



『だが、何の為に願いを叶えるのか!?』



『ツバキは確かに言っていた。

あの方の為って……。』



『鎌倉公方かっ!!

ちっ、何処までも強欲なのだな。

きっと我等の元に破邪の剣の舞姫のが居る事を知った鎌倉公方は、何処からか神威の剣の存在を知り、神威の剣を手に入れたのだろうな。

そして、憑代となる者を探している内にツバキの存在を知った。』



『それに生前、ツバキは私や斑鳩や花月の関係に憧れていたわ。

私と同じで天涯孤独なのに、自分だけは孤独だって……。

でもツバキは別れの時に、いつか自分もそんな仲間を見つけるって言って希望に満ちていた。』



『正に打って付けな存在だな……。

希望に満ちて旅立つツバキを、私達の関係を逆手に取って、サクラの為に自分が犠牲になったと、ツバキに怨みを抱かせながら命を堕とさせ、ツバキの魂に神威の剣をさせ自分の欲の為に使う魂胆だろうな。』



『……あっ!! ま、まさか!?』



お、思い出した……。




『茂原の戦で横田何とかって宇都宮の将が計画がって言ってた……。

それにあの娘は死んだか? とも聞いていた……。』



『当時、ツバキは一座の者達と上三川に居た筈だ。

鎌倉公方からの命で、横田はツバキに我等が負けそうだと言って、サクラの元へと向かわせ様と仕組んだ。

勿論、監視を付けてな……。

そして、サクラの目の前でサクラを怨む様に殺した。』



『でも何故、鎌倉公方が私はともかく、ツバキの事まで知っていたの!?』



『きっと、神威の剣が導いたのだろう。

この時代の依代はツバキだとな。

それを鎌倉公方が基綱に伝え、横田が実行した。』



『そ、そんな……。

私がツバキと出逢わなければ、ツバキはこんな事にならなかった。』



『……以前、サクラは自分の存在が、正しい歴史に導いていると言ったな。』



『え、ええ。

ま、まさかっ!! ツバキが神威の剣の舞姫になる事も正しい歴史なのっ!?』



『分からぬが、可能性は大いに有る。』



『そ、そんな……。』



『破邪の剣の舞姫が現れ神威の剣の舞姫が生まれた。

そして、正しい歴史では死ぬ事になる父上は、破邪の剣の舞姫を庇って神威の剣の舞姫に討たれた。

全ては正しい歴史なのでは無いのか??』




私はそれ以上何も言えなかった。




あんなに優しかったツバキが、神威の剣の舞姫として私の大切な人を奪った。



神威の剣と、鎌倉公方の欲の為に騙されているとはいえ。



だけど、私がツバキを神威の剣の舞姫にしたんだ。



そして、ツバキが神威の剣の舞姫になった事で、確かに全ては歴史通りに動いている……。




そして、ツバキは今後も私の大切な人達を狙うのだろう。



私への憎しみの為に。







『ツバキ、貴女は神威の剣の舞姫になって本当に幸せ……??

あなたは愛されているの??』




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