〜小山若犬丸の乱〜 広がる戦火。1

そんなこんなで色々と有ったけど、祇園の城を取り返してから数ヶ月。



今の祇園の城には活気と勢いが満ち溢れている。




『殿っ! 鎌倉の軍も大した事は御座いませぬな!』



『それに我等には破邪の剣の舞姫様がおるしなっ!』



斑鳩は先日、木戸と言う鎌倉の大将の一人が小山に侵攻して来たと知らせを受け、小山の地と足利の地の境目に在る小枝山で撃退した。

※小枝山、場所不明。




『だが、油断は禁物だぞ。』



『そ、そうですな!』



斑鳩はそう言うけど、小枝山の戦でも圧勝だったしな。




本当に正しく歴史は進んでるのかな?




だけど、私はここからの記憶が曖昧でどれが正しい歴史なのか分からなかいからなぁ。



油断は禁物ね。



だけど、このまま平和に祇園のお城で皆んなと暮らしたいな。



でも、そうしたら未来は変わってしまうか。



何だか複雑な気分だな。




そして、それから一ヶ月位過ぎた頃だった。




『サクラっ!』




ぼんやりとお城の庭を眺めていると、斑鳩が慌てた様子で私の所へやって来た。





『小田殿からの知らせで、鎌倉公方の本体が何やら出陣の動きを見せておるらしい!

今まで鎌倉に居座っていたが、やっと鎌倉の本軍が重い腰を上げるぞ!』



遂に鎌倉の軍の本体がこの祇園の城に攻めて来るのね。



『小田さんにも密かに援軍の連絡をして、今すぐ迎え討つ準備をしないとねっ!』



『ああ、だが先ずは鎌倉公方がこの地へ来る前に、南西に4里半程に在る鎌倉公方の拠点の古河の城を落とす。』

※古河城、現在の茨城県古河市。



『え、なんで?』



『此度は鷲の城はまだ修復もままならず、使い物にならん。

鎌倉公方としても、足利荘の鎌倉方は先の小枝山での敗北で当分は立ち直れないから、在地の味方と合流する事が出来ん。

それに、足利荘の隣の太田荘は既に鎌倉公方の手に落ちたから、わざわざ迂回する必要も無い。

ならば鎌倉公方は、古河にいる鎌倉方と合流し、古河城を拠点とする筈だ。』



『成る程ね。

鎌倉公方が到着する前に、私達が古河の城を落とし前線の城として待ち構えていたら……。

敵の士気は下がり、幾ら大軍であろうとも必ず勝てる。』

※古河、現在の茨城県古河市。




『祇園の城を奪われて、小枝山でも負けている敵は焦っている筈。

それに、先発隊は側近の武将を総大将に立てて来るだろうから鎌倉公方本人は、後からゆっくりと来る筈だ。』




『なら、私達がさっさと古河の城を奪って、それを見て慌てる先発隊を討ち破らないとね!』



『そうだ。

慌てふためく間に先発隊を討ち滅ぼす!』



『鎌倉公方はきっと動揺する筈ねっ!』



『そして、私のあの策が実れば一気に我等が有利となる!!

既に小田殿が着々と進めている筈だしな。

後は、我等の強さを示すだけだ!』




そう言えば、前に言ってた斑鳩の策って何なんだろ?



だけど「まぁ、楽しみにしてろ」と言うばかりで、教えてはくれなかった。




『だが、この古河の城攻めは賭けでも有る。』



『えっ?』



『古河の城の兵の数は少ないが、とても堅牢な城だ。

全周囲を渡良瀬川に囲まれた浮かぶ城。』



『河に浮かぶ城……。』



『そうだ。

この城を落とせるかに、この戦の全てが掛かっている。』



『な、なら今回は私も行くわっ! 無理しないからっ!!』



『駄目だ……。

と、言っても聞かないだろう?』




斑鳩はにやにやと意地悪そうに言う。



ったく、こう言う時の斑鳩は本当に子供みたい。




『どーーせ頑固者よっ!』



『まあ、そう怒るな。』



『斑鳩っ!!

あの鎌倉公方にぎゃふんと言わせてやりましょ!!』



『ああ! そうだな!!

我等三人が力を合わせれば何とかなるっ!

だが、決して油断してはならぬぞ。』



『うん!』



大丈夫よ、きっと勝てるわ。



『では私は色々と準備せねばならぬ。

サクラも準備しておけ!』



そう言って斑鳩は急ぎ去って行った。



大丈夫、きっと今回も勝てるよ。



そう言って斑鳩の背中を見送った。





『……あのね、サクラ。

こう言う時こそ油断しちゃ駄目よ……。』




『ひ、ひいっ!!』



いつの間にか私の背後から花月が声を掛けて来た。



『び、びっくりしたなぁ。

驚かさないでよ……。

でもね、この雰囲気ならきっと大丈夫よ。』



『甘いっ!!

こんな時だからこそよ。

斑鳩も油断するなって言ってたでしょ?

もしもの為にアンタも呑気にしてない事よ。』




まあ、それはごもっともだと思うけど。




そして翌日、私達は軍を率いて古河の城を取り囲んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る