〜小山若犬丸の乱〜 束の間の平穏。2





『あっ。

お、おはよう……、花月……。』




私は朝から何だか吐き気に襲われて、廊下を壁に寄りかかる様に歩いていた。



何かどうしようもない位に気持ち悪い……。



『あ、アンタ、どうしたのよっ!? 顔色悪いわよ!』



『分からないの……。

熱も無いし、何かに当たったのかな?』




『どうしたのだ?』



すると、斑鳩がやって来た。



『ちょっと、サクラの体調がおかしいのよ!

斑鳩、藤井様に頼んで医者呼んで貰って!』




『なっ、何だとっ!

だっ、大丈夫かっ!?』




『あ、あはは。大丈夫よ……。』




心配掛けまいと思い、空元気で答えたが正直辛い……。




『いいから早く医師呼んで!』



『わ、分かった!

花月、早くサクラを寝所へ!』



斑鳩は慌てながら藤井さんにの所に向かって、医者を呼んで貰った。




花月は私に布団を掛けてくれた。




『さっ、アンタはここに寝てなさい。』



『う、うん……。有難う花月。』



『白湯でも持って来るかい?』




今は何も食べたく無いし、飲みたくも無い!



ってか飲み物の話も、食べ物の話しをしないで!




そうこうしてる内にお医者さんが来た。



心配そうな顔をして、藤井さんも一緒駆けつけてくれた。



『どれどれ、失礼……。』



お医者さんは、私の様子を見てお腹周りをさする。



不思議と気持ち悪いさが和らいで行く。




『どうなのだ!?』



『ふむ……。』



『ちょっと!

アンタは静かにして無さいよ!』



『す、すまぬ……。』



『ふむふむ……。』



『な、何か分かったか!?』



『まあ若犬丸殿、落ち着いて。』



『……ふむ。』



そう言うと、お医者さんは私の体調が悪い原因を分かったらしく、一呼吸つく。




『『『で、どうなんだ(なの)??』』』



三人は心配そうに、お医者さんを覗き込む。





『……お父上はどなたですか?』




はい??



今は私の身体がどうなったのか教えて欲しい。




『い、斑鳩……。アンタ……。』



『若犬丸殿……。』



『??』



『お腹にお子を宿しております。』





えっ!?




子供??




私の中に……。




私の子が。




斑鳩と私の子供……。




途端にポロポロと涙が溢れた。




『斑鳩……。わ、私達……。』



『サクラ……。』



斑鳩が優しい顔をして私を見つめて、頭を撫でてくれた。




その後、大事を取って私はそのまま布団に寝かされ、そのまま寝てしまった。



眼を覚ますと、側には斑鳩と花月と藤井さんが相変わらず見守っていてくれた。




『良かったのう。

若犬丸殿も、さぞ嬉しいだろう。』



『藤井殿、有難う御座います。』



『アンタもまあ、いつの間に。

斑鳩もすみに置けないねぇ……。』



ニヤニヤと斑鳩を見る花月。



『う、五月蝿い!』



真っ赤になって何も言えなくなる斑鳩。




そのやり取りを見て、私はとても幸せな気分になった。




私は自分のお腹をさする。



すると、とても安らかな気持ちになった。




私と斑鳩の赤ちゃん。




生まれてくるこの子の為にも、破邪の剣の力で皆んなを守らないとね。




『サクラ、つわりは大丈夫か?』



『うん。今は落ち着いたよ。』



『そうか。子は男子だんじかな? 女子おなごかな?』



『斑鳩ぁ、まだ早いよぉ。』



そんな斑鳩が愛おしく見える。



『そ、そうだな。

で、ではいつになったら会えるのだ?』



『う〜〜ん……。十月十日って言う位だからまだまだよ。』



『早くこの手に抱きたいものだな。』



『そうね。幸せな家庭を築いて行きましょう。』




出来ればもう、戦なんて忘れて蝦夷の地で皆んなで幸せに暮らしたい。




『そうだな。

そうだ、つわりが落ち着いたら祝言を挙げよう。』




『斑鳩……。』


私はまたポロポロと泣いてしまった。



『い、嫌か……??』



『もう、馬鹿ね。

本当に幸せだから泣くのよ……。』




どうか、どうかこの幸せが永遠に続く様に。




私は心から祈った。

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