〜小山若犬丸の乱〜 広がる戦火。10
五郎さんは真っ紅な血を吹き出し、崩れ落ちて行った……。
そして、その先にはツバキの姿があった。
『また会えたねぇ、サクラ……。』
『ツ、ツバキ……!』
そして以前に増して、邪悪な雰囲気がより一層滲み出ていた。
『己ぇぇ〜〜っ! 貴様ぁっ!』
怒りに満ちた斑鳩がツバキに斬り掛かった!
『邪魔だっ!』
だがツバキは、斑鳩の太刀を軽々と受け流した。
斑鳩は、そのまま左腕に強烈な蹴りを食らい吹き飛ばされてしまった。
『い、斑鳩っ!!』
『くっ……!
私は大丈夫だ! それよりも五郎殿を!』』
私は急いで五郎さんの元へ駆けつけて、五郎さんを抱きかかえた。
『五郎さんっ! しっかり!!』
どうしよう、血が止まらないっ!
このままじゃ……。
『サ、サクラ殿……。
どうやら、わ、私はここまでの様に御座います……。』
『そんな……。
まだ助かるかもしれないよ! ねぇ? 斑鳩、花月!』
『『……。』』
二人は無言のままだった。
『わ、私の事は……構わず逃げて下さい……。
もうこ、この傷では無理です……。』
『そ、そんな……。』
『わ、若犬丸殿。貴方は……ま、まだ死んでは行けない。
ど、どうか落ち延びて下され!』
『ご、五郎殿……。』
『ぐっ……!
さ、さあ……。早う行かれよ!
ここは時期に焼け落ちる……!』
『五郎さんっっ!!』
『さ、最後に貴女に……。
サクラ殿に抱き締められて良かっ……た……。』
『五郎さんっ!!! しっかりしてっ!!!』
私が必死に呼びかけても、それ以上何も返事が返って来なかった。
そして五郎さんは息を引き取った……。
『五郎さんーーっ!!』
私は悲しみの余りに、涙を流しながら五郎さんを強く抱きしめる。
私の涙が五郎さんの顔に垂れて行く。
私の脳裏に走馬灯の様に五郎さんとの思い出が映し出されて行った。
『ほらさぁ、義政の時は待てなくて話の途中で殺しちゃじゃない?? 悪かったなぁって思って、今回は待ってやったのよ……。』
ツバキは、私を見下すように不適に笑った。
『なっ! 貴様が父上をっ!!』
『そうよ……。小山義政は愚かにもこのサクラを庇って死んで行ったよ。
それと小山若犬丸、お前は必ず殺せと公方様からの仰せだからね……。覚悟しなっ!!』
『きっ、貴様っ!』
斑鳩は怒りに任せて斬り掛かった!
『はは! 甘い甘いっ!!』
余裕で交わすツバキ。
『このおぉぉっ!』
花月も加勢して斬り掛かるが、軽々と交わされてしまう!
『こうなったら、致し方ないなっ!』
斑鳩は花月に眼で合図をする。
『あいよっ!』
花月の返事と同時に、二人が一斉にツバキ目掛けて斬り掛かった!
『ふん、何が来るのかと思えば……。』
だがツバキは神威の剣を振り翳すと、そこから漆黒の光を放つ刃を打ち出した!
『なっ!』
『あ、あれはっ!』
あ、あの力は破邪の剣の力と同じだ!
あの宇都宮基綱や、櫃沢の戦の時の私が放った光の刃と同じだ!
『い、斑鳩っ! 花月っ!!』
二人は咄嗟に切り裂いたが、切り裂かれて割れた漆黒の刃に両腕を斬られてしまった。
余りの強さに驚愕する斑鳩と花月。
『あ、あれは以前にサクラが放った光の刃……。』
『そ、そうね。
だけど一つだけ違うのが、刃が黒い事。』
『しかもあの娘は、サクラと違い力を自在に操っている!』
『こんな奴相手にまともに戦っても勝ち目なんて有るのかい!?』
『そうだな、例え三人掛りで立ち向かったとしても勝ち目は薄いな……。』
『なら、アタシ達がする事は一つだけだね。』
『サクラっ!
あの娘は危険だっ! 今すぐ逃げるのだっ!!』
『アンタは逃げなさいっ!
ここは必ずアタシ達が食い止めるから!』
『はは、誰が逃すかっ!!』
不敵な笑みを浮かべながらツバキは漆黒の刃を放つ!
『ちいっ!!』
『ま、また来るのっ!?』
二人は必死に立ち上がって、漆黒の刃から私を守ろうと立ちはだかった。
『あ、危ないっ! 避けてっ!!』
私の声など届いて無かった。
こ、このままじゃ斑鳩と花月まで……。
ここで死ぬ歴史じゃ無いのに。
私が二人を守らないと!!
もうこれ以上、大切な人達を失いたく無いっ!!
その時だった……。
破邪の剣の宝玉がとてつもない光を放った!!
そして私の意識と身体は別になった。
私の
光の刃は斑鳩と花月を擦り抜けて、漆黒の刃とぶつかり合って互いを打ち消した。
『ちいっ!! お前も破邪の剣の力を引き出したか!』
『サクラ、その力は基綱の時の……。』
『アンタも破邪の剣の力を引き出したのね!』
『……。』
『サクラ??』
『どうしたんだい??』
無言のまま、私の
な、何が起こっているの?
私の意思とは別に身体が動く。
そして、ツバキの周りに居た何人もの敵が文字通り真っ二つになって、全身の紅い血を噴き出しながら染まりながら崩れて行く。
こんな事、人の為せる技では無い。
『こ、この動き……。一体、何だと言うのだ!』
狼狽するツバキ。
『サ、サクラ!?』
『あ、アンタどうしたのっ!?』
斑鳩も花月も、ツバキも敵の兵士も、皆んなが驚きと恐怖で私を見つめていた。
『な……なんだ! この娘は!!』
『こ、この娘が破邪の剣の舞姫だな!
神威の剣の舞姫様を、お、お守りするのだっ!』
『き、斬れっ! 斬れぇ〜!』
敵兵は私の
あれだけ大勢いた敵兵達を、まるで紙を斬る様に一瞬で斬殺した。
最早、敵はツバキ一人になっていた。
い、一体誰が私の身体を……。
そして、私では無い意思を持った何者かが、一呼吸おいて背中越しに返り血で真っ紅の染まった横顔で呟いた。
『……我こそは。』
わ、私の声じゃ無い!
『破邪の剣なり……。』
『『『……!!』』』
斑鳩達もツバキも驚愕の眼差しで私を見つめた。
『我が主の想いを妨げる者供よ……。容赦はせぬ!』
そうか、破邪の剣が私の思いに応えて降りて来たんだ。
『は、破邪の剣だと?』
『サクラの身体を破邪の剣が乗っ取ってるって事!?』
破邪の剣の意思はがそう言い終えると、私の身体はその場から消えた。
余りの速さで眼では追えなかった!
『なっ!? き、消えただとっ!!』
気が付いた時には、破邪の剣の意思はツバキに襲いかかっていた!
『おっ、おのれえ〜っ! 化け物めっ!』
ツバキは剣を受けるの精一杯だった。
『神威の剣の舞姫よ……。容赦はせぬぞ!』
『く、くっ!!』
ツバキは破邪のそのあまりの力に吹き飛ばされた!
吹き飛ばされる最中に脇腹に蹴りを受けて蹲って悶絶していた。
『破邪の剣の意思だとでも言うのかっ!? そ、それにこの力……。』
確実に肋の数本は折れただろう。
口からも血を吐いていた
神威の剣を突き立てて、必死に起き上がろうとしている。
そして、尋常では無い破邪の剣の力にツバキは恐怖で体が震えていた。
もう私の意思では止められない。
さあ行くよっ! 破邪の剣っ!!
五郎さんの仇を討つのよっ!!
『くっ……、またしてもかっ!
忌々しいっ! だが、私にだってっ!!』
すると、ツバキの持つ神威の剣の宝玉も光りだした!
『邪魔ばかりしおってぇーーっ!』
漆黒に光輝き出した神威の剣を振るうと、今まで以上の力を持った漆黒の刃が私達を襲う!
だが、破邪の剣の意思は造作も無く漆黒の刃を真っ二つに斬った!
『はっ! 甘いなっ!!』
難なく打ち破られると確信していたツバキは、漆黒の刃と共に斬り込んで来ていた!
だが、破邪の剣は軽々とツバキの剣を受け止めた。
『ちいっ!』
私達は鍔迫り合いになる!
『お、お前さえ出て来なければっ!
自分の意思で解放した私の方が力は上だったのにっ!』
苦渋の顔で私を睨み付けて来る。
『そうか……。
だが、もう終わりだな……。神威の剣の舞姫よ。』
そう言うと、鍔迫り合いのまま一気にツバキを押し倒す!
ツバキは片膝をついて、必死に受け止めている!
『ぐ、ぐう……!』
『さあ、お前の居るべき場所へ、黄泉の国へ戻るのだ……。』
『わ、私は公方様の為にも、ここで果てる訳には行かないっ!』
するとツバキは、冷静さを取り戻して、破邪の剣を受け流す。
その瞬間、一気に後ろに飛んで大きく間合いを取った。
『ちっ……、またしても!!
だが、そんな化け物相手に勝てる気はしない。
次こそは、次こそは……! 必ずお前を殺すからねっ!』
そうしてツバキは、憎悪で溢れかえった瞳で私を睨みつけながら、炎の中に消えて行った。
悔しい……。
破邪の剣のお陰で何とかツバキを退けたが、五郎さんの仇は撃てなかった……。
『我が主よ。
あの神威の剣の舞姫とは再び相まみえるで有ろう……。』
そうね……。
破邪の剣がそう言い終えると、私の意思が身体に戻って行った。
『あ、あれ?? 元に戻ってる。』
私は破邪の剣を抱きしめた。
破邪の剣よ、力を貸してくれて有難う。
『サ、サクラ……か??』
『アンタに戻った……の??』
『あ、うん。』
斑鳩と花月は、安堵の表情で私を見つめた。
『二人とも無事で良かった。怪我は大丈夫??』
『ああ、この程度の傷など大した事は無い。』
『こんなの、唾付けておけば治るって!』
『サクラこそ大丈夫なのか?』
『そーーよ。アンタ、前は力を使い果たして倒れだじゃん。』
そう言えば。
破邪の剣の舞姫として、少しは成長したのかな?
いや、違う……。
きっと、五郎さんが力を貸してくれてるんだ。
有難う。
『五郎さんが……。』
『そうだな……。だがいつの日には仇は討つ。』
『そうさね! その為にも早く落ち延びないとね!』
五郎さん、仇を撃たなくてごめんなさい。
でも、いつかきっと五郎さんの仇は必ずを取るから。
それにもし、五郎さんが此処にいたら早く逃げろと怒るだろうね。
そうして城から落ち延びた私達は、五郎さんの遺体を丁重に葬り、遠くで紅蓮の炎に包まれて崩れ落ちる男体の城を見つめていた。
『これからどうするのさ……。』
『また菊田に落ち延びて再起を計るしかないな。』
『また菊田に向かうの?』
『ああ、心配するな。 まだ手は有るさ。』
私は燃えさかる男体の城を見つめながら、破邪の剣を握り締めた。
『五郎さん……。』
その時、私には詳しい歴史の事は分からないけど、より一層に戦火が広がって行き、斑鳩の運命の時に着実に向かっていると感じた。
私達は悲しみを乗り越え、燃える男体の城を背に菊田の地へと向かった。
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