第23話 強盗

「あの……私達、これからどうしたらいいんでしょうか?」


魔力を得て、奴隷の証である首輪を外した彼女達は最初こそ喜んでいたが、直ぐにそのテンションが目に見えて下がってしまう。

どうやらこれからの生活に不安を覚えている様だ。


まあ生まれた時から奴隷をやっていた人間が、いきなり明日から自由に生きて良いぞって放り出されたら確かに困るわな。


長い事刑務所に入っていた奴が刑期を終えて外に出る感じに近いのかもしれない。

いや、生活基盤的補助がない分、それよりも酷い状態と言っていいだろう。


けど、この世界に来たばっかりの俺にどうすればいいとか聞かれてもなぁ……


ドラコの方を見ると、興味なさげに小首を傾げる。

彼女にとってはどうでもいい事の様だ。


「金髪を起こすか」


この奴隷達三人は金髪が連れていた。

取り敢えず、起こして情報を聞き出そうと思う。

この世界の常識とかも聞いておきたいし。


金髪の襟首を掴んで揺するも、「ぐぇぇ」となんだか良く分からない呻き声を上げるだけで目を覚まさなかった。

思ったより深刻なダメージ状態なのかもしれない。


まさか、このまま死んだりしないだろうな?


「なんじゃ?そやつを起こすのか?」


「ああ、うん。ちょっと話がしたくって」


「しょうがないのう」


ドラコが瀕死の金髪に手を翳す。

その手からは光が溢れ出し、彼の全身を包み込んだ。

なんだか回復魔法っぽく見える。


「ドラコって回復魔法も使えるのか?」


「ワシは聖獣じゃぞ?当たり前じゃろう?」


金髪の怪我が見る間に直っていく。

但し、全快する前にドラコは魔法を止める。

まあ話を聞くだけだからこれで十分だろう。


「おーい。起きろー」


「う……うぅ……」


体を揺すると、あっさりと金髪が目を覚ました。

「んぁ?」とか言いながら、奴は寝ぼけ眼で上半身を起こして周囲を見渡す。

そして自分の置かれた状況を思い出したのか、尻を地面に付けた状態から海老ぞりに飛び跳ねて数メートル背後に着地する。


凄い身体能力だ。

疲労させたとはいえ、よくこんな動きが出来る奴に俺が勝てたもんだと、今更ながらに思う。

不死身の肉体様様だな。


「聞きたい事があるんだが?」


「きききき!聞きたい事!?まさかまだ俺を痛めつける気か!?」


何でそうなる?

被害妄想もいい所だ。

それとも、拷問しないと何も話さないという意思の表れだろうか?


「回復させてまでそんな悪趣味な真似はしねーよ」


「ほ!本当か!本当になのか!」


「安心するがよい。素直に答えている間は生かしておいてやる」


「ひぃぃぃぃ」


フレンドリーに進めようとしたら、ドラコが脅しをかけてしまう。

まあ別にいいけどね。

俺としては、話さえ聞ければいいから。


「では、聞くがいいぞ」


「な、何でも聞いてくれ!分かる事ならなんにでも答える!」


「じゃま、遠慮なく。最初に聞きたいのは奴隷の事だ。彼らが魔力を得たらどうなるんだ?」


「何だそれは?奴隷が魔力を得る事など、ある訳がないだろう」


固定観念的な物なのか、金髪はそんな事などある筈がないと言い切る。

まあ実際、神様から貰ったチートっぽい付与があったから魔力を与える事は出来たが、通常は魔力を後天的に得る事ってのはないのだろう。


「ふむ、ならばあの者達を見てどう思う?お主なら、魔力も感知できよう」


ドラコが奴隷達を指さす。

金髪の視線がそれに誘導され、そちらを向いた。


「なんだ?首輪が……ん!?ま、まさか!!」


そしてその目を見開く。

自分の見ている物が信じられないという様な表情だ。


「ば……ばかな。奴隷達に魔力があるだと……」


「さて、質問に答えよ。奴隷達はどうなる?」


「そ、そんな話聞いた事もない!奴隷達は一生魔力無しで!奴隷のままの筈だ!」


この様子じゃ、どうすればいいのかといった質問は聞いても無駄そうだ。

本人が知らないんじゃ聞けそうにもない。


「じゃあさ、どうやったらこの世界では身分証が手に入るんだ?」


門を通る時や、ギルド登録の際に提示を求められているので、身分証はこの世界にも存在しているのは確実だ。

奴隷が魔力を得た云々ではなく、身分証の無い彼らがどうやって生活していくかに質問を切り替える。


これは俺にとってもプラスの情報だしな。


ドラコはハンターのギルド証を作れたからそれですむかもしれないが、俺はそう言う訳にもいかない。

幻術を見破る奴がいつ出て来ないとも限らない以上、身分証は手に入れておいて損はないだろう。


「身分証だと……お前ら、さては逃亡犯罪者か」


俺の質問を聞いて、金髪が俺達をお尋ね者と勘違いする。

まあ確かに逃亡犯なら身分証を持っていなくても不思議ではない。


と思ったが、ドラコはハンター資格貰ってんだからそんな訳ないんだが……


まあ変なレッテル張られてもあれなので、取り敢えず否定はしておく。


「勘違いすんなよ。ドラコはこの街でハンター登録してるんだぞ。身分証を持ってない訳ないだろ。俺が言ってるのは、彼らにどうやって身分証を与えればいいかの話だ」


「一応……知り合いの街役人に賄賂を渡せば可能だとは思うが」


賄賂か。

やはりどこの世界にいっても物を言うのに金だな。

そして俺は無一文。

泣きたくなるぜ。


「紹介してやってもいいが、その代わり俺の命は保証するって約束しろ」


初めっから殺す気などはないのだが、疑り深い奴だ。


「ふむ、いいじゃろう。お主の全財産と、その条件で手を打ってやろう」


「な!ふざけるな!なんで俺の全財産をお前らにやらなければならないんだ!」


離れた場所にいたはずのドラコが、一瞬で金髪の目の前に移動する。

そしてその片手で奴の首を掴み、その細腕で軽々と持ち上げた。


「何故?財産は殺して奪う事も出来るんじゃぞ?死にたいというのなら、止めはせんが」


表情は笑顔だが、声質は重々しい。

断れば、冗談抜きで金髪野郎を殺す気だというのがハッキリと俺にも伝わって来た。

どうやらドラコは、金髪の事をかなり不快に感じている様だ。


ま、彼女に喧嘩を吹っ掛けたわけだしな。

テリトリーをちょろちょろしただけで、東の街の奴らは殺されている。

そんな事をしでかした以上、短気なドラコが奴に殺意を抱いていても全くおかしくはない。


「ひ……ゆ、許してくれ。全部渡すから!どうか命だけは!」


「だそうじゃが?どうする?」


何故か話を振られた。

どうやら判断は俺に任せてくれる様だ。


「じゃあ……取り敢えずその条件で」


ちょっと強盗っぽいやり方なのであれだが、まあこっちも何回も殺されてる訳だし別にいいよな。

生活するのに金も必要だし。

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