第19話 もりもり

「馬鹿な!?」


目を覚ますと、金髪野郎が驚愕の表情で俺を見る。

そしてファンファーレが鳴り、頭上に斬撃耐性Lv1の文字が浮かんでいた。


「いったであろう?その程度ではしなんと」


どうやらリポップまでの間に、ドラコが俺の事を説明していた様だ。

ま、分かってたけどね。


「こいつ……本当に人間か?」


「さあ、勝負はついておらんぞ。さっさと続けよ」


「ふん!不死などありえん!死なないというのなら、死ぬまで殺し続けるだけだ!」


また視界が一回転する。

とんでもない剣速の為か、まったく相手の動きが見えない。

流石Aランクハンターだな。


――視界が黒く染まり、俺は死んだ。


が、当然生き返る。

そして次の瞬間殺された。


それを10回ほど続けた辺りだろうか、起き上りこぼし状態だった俺に変化が生じる。


見切りLv1というスキルを習得した事で、辛うじて相手の動きが見えるようになったのだ。

とは言え、とても反応して躱せるほどではない。

本当に只見える様になっただけだ。


まあこれはこの際どうでもいいだろう。

重要なのは、斬撃耐性がレベル3に上がった事で即死しなくなった事だった。


即死しないという事は――


「ぐ……がぁ……」


痛いくて苦しいという事だ。


直ぐに意識が遠のき、痛みは一瞬の事だ。

それに痛覚鈍化Lv2のお陰で、かなり痛みは押さえられている。

今の俺のが感じる量は、例えるなら骨折レベルだ。


初めてスライムに殺された時に比べれば、全然大した事はないだろう。


だが――起き上る度に骨を折られる。

これはもはや拷問に近かった。


リポップの都合上、一分は時間が空いている。

だが俺の意識は、途切れた次の瞬間には覚醒している感じなのだ――リポップ待ちの時間は意識が無いため。

つまり俺からしたら延々骨を折られているに等しい。


「ぎゃ!」


「ぐぅ!」


神様助けて……


とか考えてたら、痛覚鈍化がレベル3に上がる。

でもでもやっぱり痛てぇ。

感覚で言うと、足の小指をタンスに勢いよくぶつけたレベルだろう。


次いで、斬撃耐性がレベル4に上がった。

ここで更なる変化が起こる。


レベル3までは即死ししなかっただけで、短時間でそのまま昇天していた。

だがレベル4に上がると、そもそも致命傷ではなくなる。


「こいつ!しつこいんだよ!」


首を半分近くまで斬られても死なない俺を見て、激高した様に金髪が追撃を仕掛けて来た。

そこで意識が消えたので、耐えられるのは一発だけの様だ。


つか……しつこいのはどっちだよ。

既に相当数俺を斬って殺せてねーんだから、そろそろお前が諦めろよな。


金髪が無駄に頑張るせいで、俺の苦痛がさらに長引く。


そして斬撃耐性がレベル5になり、痛覚鈍化が同時に4に上がった。


「ぐ……動ける!?」


レベル4で1発耐えられるようになりはしていたが、痛みとダメージから体は動かせなかった。

だが耐性のレベルが更に上がった事で劇的にダメージが抑えられ、痛みも我慢できない程ではなくなる。


ま、勿論その程度で逆転なんて出来るはずもなく――


「このゴミが!調子に乗るんじゃねぇ!!」


連撃が飛んできてあっさり息絶える。

どうやらもう暫くは、殺されまくる必要がある様だ。


まあでも仮に相手の攻撃に完璧に耐えれる様になったとして、俺に勝機なんかあるのだろうか?

こんなとんでもない斬撃を放つ奴に、俺のへなちょこ剣が当たるとは到底思えないんだが?


やがて斬撃耐性が6まで上がる。

4から5も劇的だったが、5から6はもっと凄い。

首の皮を斬られた程度にまでダメージが抑えられる様になっていた。


まあ相手の疲れもあるのかもしれないが……


「ば、ばかな……」


金髪が信じられないといった目で俺を見る。

まあいきなりびっくりする程ダメージが通らなくなったのだ。

そりゃ驚きもするだろう。


ドラコを見ると、満足げに目を細めていた。


ありがとう。

君が用意してくれた試練のお陰で強くなれた。


――なんて事は全く思わない。


苦痛耐性が上がる前のアレは冗談抜きで地獄だったからな。

ファッキュー!


「まあ取り敢えず――」


それまで武器すら構えていなかった俺は、ポケットの中の牙を取り出して剣へと変える。


「反撃していくとしようか」


延々殺され続けるだけじゃ、この勝負は終わらないからな。

何とか頑張って倒さないと。

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