第20話 自決
「はぁ!」
頑張って振るうが、俺の剣は全く当たらない。
ま、分かってたけどな。
「糞雑魚が!鬱陶しいんだよ!」
一回振ったら反撃で10回は奴に切られる感じだ。
一応見切りがレベル2に上がったので多少反応できる様にはなったが、相手の攻撃を躱すまでにはいたっていない。
なんというかこう――あんまり状況は変わっていなかった。
多少耐えられる様になっただけだ。
此方の攻撃はかすりもしない。
因みに、ドラコから渡された牙――剣は俺にしか真面に触れられない様で、一度金髪が俺から奪おうとして手を火傷している。
あと、俺の手から離れた牙は念じると勝手に手に戻って来る仕様の様なので、奴が遠くに蹴飛ばしたりしても直ぐに回収する事ができた。
お陰で素手で殴りかかるよ様な真似はせずに済んでいる。
ま、だから何だって話ではあるが。
どっちにしろ攻撃は当たらないのだから。
「早く死ねよぉ!」
リポップした瞬間、いきなり切りつけられた。
どうも段々相手に余裕がなくなって来た気がする。
まあリポップ待ちを挟みつつとは言え、もう二時間以上戦ってる訳だからな。
流石に痺れを切らして来たのだろう。
「くっ!」
俺は切りつけられながらも立ち上がり、追撃を手にした剣で盾代わりに受ける。
視線を少し上に向けると、見切りのLvが3にまで上がっていた。
咄嗟にガードできたのはそのお陰だろう。
「いつまで俺にこんな事を続けさせるつもりだ!」
金髪が怒鳴る。
俺ではなく、ドラコに向かって。
「いつまでも何も、どちらかが死ぬまでに決まっておろう」
「ふざけんな!こいつまったく死なねーじゃねーか!」
まあ気持ちは分かる。
決着方法が、俺が絶対に負けない条件だからな。
理不尽極まりないルールだ。
「だからなんじゃ?さっさと続けよ」
だがドラコは容赦ない。
つまらなさそうにさっさと続けろと口にする。
「なんなら、わしがお主の相手をしてやってもいいんじゃぞ?」
「うっ……」
金髪はドラコの言葉に、明らかに怯えた表情に変わる。
まるで彼女の強さを知っているかの様な反応だ。
ひょっとして、俺の意識のないリポップの間に何かあったのだろうか?
「くそっ!」
奴は此方へと剣を向ける。
「益男。奴は魔力の使い過ぎで疲れて来ておる。もう一押しじゃ。精々頑張るがいい」
魔力の使い過ぎ?
何の事だろうか?
奴はさっきからずと剣を振り回しているだけだ。
魔法の類は一切使っていない。
魔力が減る理由などないはずだ。
「しねぇ!」
金髪が切りかかって来た。
俺はそれを辛うじて剣でガードする。
相手が疲れているというドラコの言葉は――魔力は意味不明だが――恐らく本当なのだろう。
そうでなければ、いくら見切りのレベルが上がったとはいえ、首を刎ねるほどの一撃を俺が真面に受けられるはずがないからな。
「くそくそくそくそ!」
金髪の連続攻撃を半分ほど喰らいつつ必死にガードしていると、頭上でファンファーレが鳴り響いた。
視線を少し上げると、剣技Lv1取得とでている。
どうやら相手の攻撃を受け続けたお陰で、剣の技術を習得出来た様だ。
試しに、俺は相打ち気味に剣を振ってみた。
「舐めるな!」
しかしあっさり躱されてしまう。
だが自分でもハッキリと分かる程、剣の動きが良くなっていた。
これは……いける!
相手の疲労と此方の剣技スキルのレベルアップ。
俺は再び防御に徹する。
剣技のレベルを上げるために。
そこから三度度ほど死んだ辺りで、斬撃耐性がレベル7に上がる。
そこで信じられない事が起こった。
「なっ!嘘だろ!?」
奴の剣を弾いたのだ。
俺の手にした剣ではない。
――切られた俺の腹部がだ。
痛みも殆どない。
疲労で相手の動きが悪くなったのもあるだろうが、まさか皮膚で剣を弾くとか……高レベル耐性恐るべし。
「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!俺の剣が体に弾かれるなんて!こんな馬鹿な話があるか!」
奴が叫びながら剣を振り回す。
体が勝手に弾いてくれるのでもう防ぐ必要は無いのだが、剣技レベルを上げるために俺は敢えてガードを続ける。
ファンファーレが鳴り。
剣技のレベルが2になった事を知らせて来る。
俺はガードを止め、明らかに疲労でスピードの鈍った奴の剣を、手にした剣で弾いて見せた。
「馬鹿な!?」
「これなら!」
驚く金髪に、今度は俺のターンとばかりに斬りかかる。
それでもまだ当たらないが、もう奴は防戦一方だ。
このまま押し切れば――
「しんど……はぁ、はぁ……」
調子に載って攻撃しまくったら、直ぐにスタミナ切れになってしまった。
剣を振るのって滅茶苦茶疲れるんだな。
つか……攻撃を喰らえないと死んで全快する事も出来ねー。
回復出来ないんじゃ、俺も休憩せざる得ない。
そしてそれは、奴にも追加の休憩時間を与えるという事になる。
ひょっとして、詰んでないか?
「なんじゃ?もうばてたのか?情けないのう」
「しょうが……ないだろ。死ななきゃ、回復出来ないんだから」
「なら自決すればよかろう?」
無茶苦茶言いやがる。
今の俺はAクラスハンターの攻撃すら弾く体をしてるんだぞ?
俺のしょぼい腕でダメージが通るとは到底思えない。
「わしの与えた剣は他とは比べ物にならない特別製じゃ。それなら簡単に死ねるぞ?試してみるがよい」
ドラコが自信満々に言い切るので、試しに剣を逆手に持って自分に突き刺してみた。
刃先から何の抵抗も伝わる事無く、俺の胸に剣が突き刺さる。
「マジ……か……」
恐るべき切れ味だ。
俺は死に、そして全快する。
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