第10話 無意味な生贄

「あいたっ!?」


頭に走る衝撃と痛みで目を覚ます。

何事かと思い飛び起きると、目の前には銀髪の美しい美女が立っていた。


その美しさに目を奪われ思わず見入っていると、美女の手が此方に伸びてくる。

その手は俺の額に――


「あいたぁ!?」


デコピンして来た。

俺はその衝撃に吹き飛ばされ、背後にあった木にぶつかる。


「ぐぇ……」


「何をぼーっとしておる。さっさと目を覚まさんか」


……そうだ、思い出した。


目の前の女性があの巨大な魔物――ドラコの分身だった事を。

辺りを見回すが本体は見当たらない。

どうやらどこかへ行ってしまった様だ。


「目が覚めたか?ならさっさと行くぞ」


「行くって……何処へ?」


「なんじゃお主、目的地があったのではないのか?」


目的地か……


ない訳じゃない。

東の街で酷い目に遭ったので、今度は南の街に向かうつもりだった。


だが……


「何じゃその目は?」


「俺は南の街を目指すわけだけど。その……あんたも本当に……ついて来るんだよな?」


よくよく考えたら、こいつを南の街に連れて行ったら町の人を皆殺しにしそうで怖い。

わが身可愛さに眷属になったはいいが、俺はとんでもない契約をしてしまったんではなかろうか?


「ふむ。さてはお主、わしが人間を喰い殺すと考えておるじゃろう?安心せい。わしは人間など喰わぬ」


どうやら大丈夫な様だ……ん?あれ?

おかしいぞ?

こいつは人間を喰うから、生贄が捧げられてたんじゃないのか?


「分身は食べないって事か?」


「分身以前に、わしは人など喰らわぬ」


「え!?でも生贄を求めてるんじゃ?」


「あれは勝手に人間が持ってきておるだけじゃ。わしが指示した訳ではない」


こいつは人間を喰わないのか……

だとしたら、何でそんな勘違いが生まれたんだろうか?

ん、でも待てよ?


「だったら何で街の奴らを殺したんだ?それに俺の事も何度か襲ったよな?」


最初何度か巨大な獣に襲われ、俺は即死している。

それはドラコで間違いないだろう。

生贄を求めていないのなら、俺を殺す理由なんかない筈だが?


「人間どもが何度もわしのテリトリーを行ったり来たりして、鬱陶しかったからな」


「えぇ…… 」


怖!

鬱陶しいだけで襲ったのかよ。

短気にも程があるだろ。


「お主を殺したのは、奴隷など生きて帰った所で先はたかが知れていると思ったからだ。それならば、一思いに楽にしてやった方が優しいという物じゃろ?」


ドラコがサイコパスみたいな事を、笑顔でぶっ込んでくる。

それともこの世界での奴隷の扱いは、死んだ方がましだと思えるぐらい酷いのだろうか?


だとしたら最低最悪な世界だ。

インフェルノ、マジで終わってるな。

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