第14話 南の街

「見つけたぞ」


ドラコの指さす方を目を細めて注視する。

薄っすらとだが、確かに柵の様な物が見える。


ある程度近づくとその全容が見えて来た。

かなり大きい。

東の街の5、いや10倍ぐらいはあるだるろう。


高い柵が備え付けられ門構えもしっかりしており、こっそり忍び込んだりはするのは難しそうだ。


「近づいたら奴隷として捕まるかな? 」


この世界における奴隷の立場は弱い。

生贄にあっさり捧げられる辺り、基本的人権なんて物は存在しないだろう。

良くて家畜。

悪けりゃ消耗品扱いだ。


「知らん」


ドラコは素っ気無く返してきた。

彼女は明かに興味なさげだ。


これからの行動に影響してくるっていうのに……


「奴隷って首輪してるんだよな? 」


「まあ、そうじゃな」


俺がこの世界で目覚めた時、つなぎ目の無い首輪を嵌められていた。

恐らくあれが奴隷の証なのだろう。

だが俺の首には、もうあの首輪はついてはいない。


スライムに頭を溶かされてしまったせいな訳だが、こういうのを怪我の功名というのだろうか?


「奴隷って首輪してるんだろ?だったら大丈夫だよな?」


東の街ではいきなり捕らえられてしまっている。

その時も首輪は無かったが、そいつらは俺を贄に捧げようとしていた奴らで、此方のの顔を覚えていた為捕らえられてしまったのだ。


だが今度の街の奴らは俺の顔を知らない。

首輪も無い。

ひょっとしたら何の問題も無く街に入れるのではという思いから、ドラコに再度尋ねた。


「数百年森に籠っておったからな、いくら聞かれても分からん物は分からんよ」


どうやら、本当に森の外の事は殆ど知らない様だ。

まあそれが分かるのなら、分身を俺に付けたりはしないか……


「行って確かめるしかないか」


躊躇っていても何も解決しないので、行って確かめてみるしかないだろう。


因みに、寄らないという選択肢はない。

こんな訳の分からない世界で、他人に関わらず独力で生きていくとかありえないからな。

俺には絶対無理だ。


まあ今回はドラコがいるのだ。

本当にやばかったら、きっと助けてくれるだろう。


何せ彼女の目的は俺と一緒に世界を見て回る事だからな。

流石にそんな簡単に見捨てたりはしないはず。

多分。


街道沿いに進み、街のまであと100メートルの辺りまで迫る。

当たり前の事だが、門には衛兵が何人か立っていた。

服はドラコの魔法で新しく生み出して貰っているので、不審者として止められる心配はないだろう。


「待て」


どきどきしながら門へと近づくと、俺達は衛兵の1人に呼び止めらる。


「見ない顔だな。身分証を出せ」


「……」


むう。

中世っぽいファンタジー世界なのに、身分証なんかあんのかよ……


勿論そんな物は所持していない。

取り敢えずここは――


「いや、それが落とし――「ほれ」」


落としたという言い訳で行こうかと思ったのだが、ドラコが俺の言葉を遮り衛兵に掌を剥ける。

その謎の行動をみて、俺は首を捻った。


何やってんだ?

彼女は?


「通っていいぞ」


するとそれを見た兵士が、なぜだかあっさり通行の許可を出してきた。

俺の頭の中は‟?”で一杯だ。


「いくぞ」


そう言うと、ドラコは俺の手を引いて門を素早く潜る。

少し離れた場所まで来た所で彼女が口を開いた。


「幻覚を見せたのじゃ」


「幻覚?」


「うむ。身分証の幻覚をな」


「そんな事も出来るのか。凄いな」


分身造ったり幻覚見せたり、多才な魔物だ。

流石は東の街の奴らが怯えまくる森の主だけはある。


「まあ所詮分身じゃから、魔力の高い者や耐性を持つ者には全く効かんがな」


どうやらそれ程強いスキルではないらしい。

だがまあ、門を抜けれたのでオッケーだ。


「で、ここからどうすりゃいい?」


「知らん。世界を回る旅をする事以外、お主の好きにすればいい。わしはそれに付いて行くだけじゃ」


どうしたものかと尋ねてみたが、丸投げされてしまう。

もちろん俺にだってプランなどない。


これが小説なら――冒険者になって成り上がる!


となるところだが、この世界に果たしてそんな都合のいいものがあるのだろうか?


ま、とりあえず探してみるか。

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