第8話 痛覚鈍化Lv2・強酸耐性Lv2
「はぁ~、死ぬかと思ったぜ」
まあ実際は死んだわけだが。
強酸耐性のお陰で相手の攻撃に中途半端に耐えれてしまったために、無駄に苦しみが長引いてしまった。
痛覚鈍化なかったらマジで発狂ものだったぞ。
頭上でファンファーレが鳴り響く。
視線を向けると、痛覚鈍化と強酸耐性がLv2になったと表示されている。
痛みが減るのは有難いが、再びあのスライムみたいな奴に襲われたら耐性のせいで長引くのかと思うとげんなりだ。
兎に角、俺は起き上がって歩き出す。
腕の縄は、痛みを堪えてスライムに手を突っ込んだおかげで自由になっていた。
結ばれたままじゃ何かと不便だからな。
我ながらよく頑張ったと、自分で自分を褒めてあげたい気分だ。
空を見上げると、木々の隙間から茜色が顔を覗かせていた。
夜は近い。
小一時間程歩くと辺りは暗く染まっていき、森は不気味な顔を覗かせ始めた。
「迷っても嫌だし、ここで夜を明かすか……」
それでなくとも森の中は迷いやすいと聞く。
夜間は猶更だ。
ていうか、今の俺はちゃんと南に進めているのだろうか?
一応南に向かって歩いていたつもりだったが、もう既に道に迷っている可能性も十分あり得た。
「……」
少し不安になるが、考えても仕方ない。
確認しようがないのだから、自分を信じて進むしかないだろう。
枯れ葉が積もっている場所を見つけ、その上に横になって目を瞑る。
夜間は獣の活動が活発になるが、そんな事は一切気にしない。
襲われたら襲われたでその時はその時だ。
――何故なら、俺は死なないのだから。
しかしなかなか眠つけない。
慣れない環境に対する不安と興奮が俺の眠りを妨げる。
あと死ぬと全快する為、体が大して疲れていないのもあるだろう。
一日飲み食いしていないのに平気なのもそのせいだ。
なんだか催して来たので、立ちションしようと体を起こす。
――途端、目が合った。
巨大な何かの目と……
「……」
漏らしちまった……
股間の辺りが生暖かくて気持ち悪い。
「くっ……」
金縛りに遭うとはこういう事なのだろう。
逃げるべきなのだろうが、恐怖のせいか体がすくんで動かない。
死なないと分かっているのに、鼓動が跳ね上がり、息が苦しかった。
それはゆっくりと俺に近づいてくる。
闇夜の森の中を、巨体にも拘らず木々の隙間をゆっくりと音もなく……
――虎だ。
但し、その体は通常の何倍も大きい。
人間など軽く踏みつぶせるレベルの体躯だ。
それとよく見ると、額に何か光る物が見えた。
間違いなく魔物だろう。
そして多分……こいつが森の主だ。
それまでの魔物との格の違いから、直感的にそれが感じとれた。
「貴様は……なぜ死なない?」
「は?」
虎が口を開け、人間の言葉を発する。
突然の事に、俺は変な声を上げてしまった。
「我が名はドラコ。誇りあるドラゴンタイガー族の最後の一体」
ドラゴンタイガー族?
どう見ても馬鹿デカいトラにしか見えない。
竜要素は皆無だ。
「答えぬのなら貴様を殺す……いや、貴様は死なないのであったな。ならばまず右足を踏み潰してくれよう。それで話さぬのなら次は左足だ」
魔物がとんでもない事を口にしだす。
俺が殺しても死なないからと、奴は堂々と拷問を宣言する。
笑えねぇぞ。
「ま、待ってくれ!俺が死なないのは――」
理由を素直に話す。
死なない事がばれているなら、その理由を隠す意味などない。
「転生者であり。神の御使いである妖精から追加の力を授けられた……か。成程、面白い」
話を聞いたドラコは口の端を歪め、俺の目の前まで歩いて来る。
フゴフゴと鼻息が顔にかかり、生きた心地がしない。
「貴様を我の眷属にしてやろう」
「い、いえ……結構で――」
断りの返事を口にしようとするが。
言い終わる前に全身に衝撃が走り、俺の意識はブラックアウトする。
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