第7話 主
「さっさと歩け!」
いきなり後ろから蹴りを入れられる。
腹が立って振り返って睨みつけると、今度は殴られてしまった。
こっちは両腕が縛られているせいで反撃できないってのに、好き放題やってくれるぜ。
痛覚鈍化のお陰で大して痛くはないが、それでもやっぱり腹が立つ。
「早く行け!」
これ以上殴られても敵わないので、仕方なく指示に従って歩く。
――俺は今、森の中を進んでいた。
最初に目覚めた例の森だ。
そこを西にまっすぐ、つまり元居た場所に向かっていた。
最初目覚めた場所がどうやら、この森の主と呼ばれる魔物の餌場らしい。
そして俺がその餌と言う訳だ。
移動中に聞こえて来た連中の話では、あの街は毎年森の主に生贄を捧げている様だった。
街の安全を守るために。
思わず退治しないのかと聞いたら、無理だと鼻で笑われた。
どうやら相当強力な魔物の様だ。
そいつは魔力を持たない奴隷――この世界では魔力のない人間は奴隷に落とされるらしい――をこのんで食べ。
1年に1度、生贄を差し出す事で森から出てこなくなるそうだ。
「とまれ」
目の前に魔物が現れる。
角付きウサギだ。
俺をやった時の様に、ウサギは反復横跳びから分身の術を始める。
だが手に槍を持った男がそれを振るうと、衝撃波の様な物がウサギを分身ごと吹き飛ばした。
「すげぇ」
思わず呟くと、男は得意げに語りだす。
「魔波斬はミスリルの槍に魔力を籠めて、衝撃波を生み出す戦闘技術の基礎だ。俺はこれを10歳の時に体得してる。天才だったからな」
天才だってんなら、森の主を倒して見せろよ。
まあ思っても口にはしない。
殴られるのは目に見えているから。
「ま、魔力を持たない奴隷のお前じゃ一生かかっても扱えないだろがな」
それはどうかなと思う。
確かに今の俺に魔力はない。
だが俺には、補填で貰ったレベルアップというチートがある。
まだ上がっていないので詳しい仕様は分かっていないが、普通はステータスが上がるのが相場だ。
ならきっと魔力も成長する筈。
「突っ立ってないで行くぞ」
背中を小突かれ、再び歩き出す。
暫く進むと、先頭の男が足を再び足を止める。
また魔物かと思ったが、その姿は見当たらなかった。
周りの奴らを見ると、緊張した面持ちで顔色が悪い。
その様子から、少し嫌な予感を感じる。
ひょとしたら、主とやらと遭遇したのかもしれない。
まあ俺は死なないから大して問題はないけど、彼らにとっては文字通り死活問題だろう。
男達が槍を構えたまま、一歩また一歩と後ずさる。
明かに俺に意識が向いていない。
逃げるなら今がチャンスだ。
そう判断し、俺は男達の脇をすり抜けて走り出した。
「ま、まて!逃げるな!」
「断る!」
迷わず全力疾走する。
途中、木の根に足を取られそうになったが止まらず必死に走った。
――背後から悲鳴や絶叫が聞こえて来る。
主とやらに襲われているのだろう。
ムカつく感じの奴らだったし、別段かわいそうだとは思わない。
人の事を生贄なんかにしようとした罰だ。
「はぁ……はぁ……ここまでくれば……はぁ……大丈夫だろう」
走れるだけ走って来たが、限界が来たので止まって息を整える。
東は駄目だったので、今度は南に向かうとしよう。
そう思って一歩踏み出した時、肩に何かが落ちてきた。
見ると――
「またお前かよ!」
肩の上に青いゼリー状の魔物がくっ付いていた。
当然俺は死亡する。
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