第6話 奴隷

「やっと……抜けた」


森を抜けると、少し遠くに街が見えた。

規模としてはそれほど大きくないが、まあそんな事はどうでもいい。

重要なのはそこに人がいるという事だ。


俺は喜び勇んで街へと向かう。


「待て!お前!」


街は高めの柵に囲まれている。

柵沿いに沿って入り口を探してぐるっと回ると、入り口が見えた。

すると俺に気づいた衛兵らしき男が、血相をかえて飛んで来る。


「お前!なんで!?」


なんで?

何がなんでなんだ?


「こ……こいつ!?」


もう一人やって来て、そいつも俺の顔を見て目を見開いている。

一体なんだっていうんだ?

ひょっとして身なりのせいだろうか?


服はボロボロで、残った布地は赤黒く変色している。

しかも腕には鎖がジャラジャラだ。

確かに不審極まりないが、流石に絶句する程とは思えないんだが?


「なんて事だ……おい!お前は長に報告してこい!」


「わ、わかった!」


1人が街へと駆け込む。

何が起こっているのか分からず呆然としていると、衛兵が手にしていた槍を突然俺へと突きつけた。


「ちょ、ちょっとまってくれ!俺は怪しいものじゃっ――」


言葉を言い終えるよりも早く、衛兵が持つ槍の棒の部分をこめかみに叩き込まれて俺は昏倒する。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「いつつつつ……」


目覚めると、こめかみの辺りが鋭く痛んだ。

体を起こして辺りを見回すと、そこが牢屋だと気づく。


「何で牢屋?ああ、そういや衛兵に槍でぶん殴られたんだっけ?」


理由は分からない。

まさかインフェルノだからって理由じゃないよな?


街の利用まで制限されてるとか、エグイってレベルじゃねぇぞ。

流石にそうじゃないと信じたい。


「なんという事だ!」


足音が響き、格子の向こう側に男達が姿を現した。

そのうちの一人、恰幅のいい男が俺を見て嘆くように声を上げる。

何だってんだ、本当に一体。


「どうします?」


「仕方あるまい。危険だが、もう一度この男を主に捧げるしかない」


捧げる?

主に?

後こいつ、今もう一度って言ったよな?

つまりあの鎖に俺を繋いでいたのは、こいつらって事か?


「しかし、もう主は目覚めている頃では……今森に入るのは危険です」


「そんな事は分かっている!だが放っておけばこの街は終わりだ!他に手はない!」


何を話しているのか正確には把握できない。

但しそれが俺にとって碌でもない事だというのは、何となくだが分かる。


「お前ら、俺に一体何をする気だ?」


話を聞いていても埒が明かない。

俺は思い切って訪ねた。


「お前らだと!?奴隷風情が!!」


俺の言葉に男の1人が激高する。

奴隷風情呼ばわりされて少しカチンときたが、確かにそう言えば俺の職業は奴隷だった事を思い出す。


「よさんか!そんな事より貴様、首輪はどうした?あれは魔力が無ければ外せない筈だ」


あの首輪は魔力が無いと外せない仕様だったわけか。

道理で繋ぎ目が無いはずだ。


「何故奴隷の貴様が首輪を外せた?」


「……」


首輪が外れた理由は簡単だ。

頭――ひょっとしたら首も――を青いゲル状の魔物に溶かされたからだ。


だがそれを説明するのは止めておく。

不死の肉体なんて情報、おいそれと他人に教える物じゃない。

絶対碌な事にならないのは目に見えている。


「答えんか!どうやって首輪を外した!」


さっき、俺の言葉に激高した髭の男が怒鳴る。

高圧的でムカつく奴だ。


「気づいたら外れてた」


「気づいたら外れてただと!?出まかせを言うな」


男は俺の言葉を信じる気はない様だ。

まあ男の言う通り出まかせではあるが、相手に真偽を確かめる術は無いだろうからこれで押し通させて貰う。


「本当の事だ。気づいたら外れてた」


「貴様!」


「よせウォレン。恐らく事実だろう」


「町長は奴隷の言葉を信じるんですか!?」


髭の男――ウォレン――が恰幅のいい男を町長と呼ぶ。

どうやらこの街の代表者の様だ。


「魔力が無ければ外す事が出来ん以上、自力で外したのではあるまい。恐らく薬で眠らせていた間に、誰かが首輪を解除してしまったのだろう」


薬で眠らせる……か。

本格的にこいつらで間違いない様だ。


「そんな!?いったい誰が?」


「そこまでは分からん。たまたま通りかかって、気まぐれに奴隷の首輪を解除したか。もしくは街に災いをもたらそうとしたものなのか……」


街長は顎を押さえて考え込む。

それを周りの男達は不安気に眺めている。


「ふむ、まあ考えるのは後にしよう。今は一刻も早く、もう一度贄を森に送るしかない。準備を進めるぞ」


「はい!」


町長はそう宣言すると、男達を引き連れて去って行く。

その際、一人の男が俺に唾を吐きかけてきた。

俺は咄嗟に身を捻ってそれを躱す。


……全く、なんだってんだ。


取り敢えず、もう一回あの森に連れていかれる事だけは分かった。

どうやら東を目指したのは失敗だった様だ。

俺は大きく溜息を吐いた。

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