第5話 刺突耐性Lv1
「きゅいぃ」
森を歩いていると、目の前にウサギが飛び出してきた。
但し只のウサギではない。
その証拠に、ウサギの額には愛らしい見た目に似つかわしくない長く鋭い角がはえている。
つまりは魔物だ。
俺は身構える。
「こいつを倒して、レベルを上げる」
あからさまに弱そうな魔物だ。
こいつになら勝てそうな気がする。
角に気を付けて、体格差でねじ伏せて倒す。
――だがその考えは甘かった。
「んなっ!?」
ウサギは軽快に横ステップを始める。
初めはゆっくりだったそれはどんどんと速度を上げていき、気付けば周囲をウサギに囲まれていた。
まるで分身の術だ。
物理的にあり得ないので、間違いなくスキルだろう。
俺が対応しかねておろおろしていると、取り囲んだウサギが一斉に飛び掛かかって来た。
俺はイチかバチかで腕を大きく振り回し、何匹かを殴りつける。
だが全て外れ。
ウサギの角は深々と俺の体に突き刺さり、鈍い衝撃が腹部を貫く。
「ぐ……うぅ……」
かなり、痛い。
それに刺された部分が燃える様に熱い。
立っていられなくなって、その場に膝を付く。
痛みや熱は直ぐに消え去り、代わりに冷水に浸かったかの様な寒気が全身を襲う。
「こんなのにも……勝てねぇのかよ……」
そこで俺の意識は途切れた。
「やめだやめだやめだ!」
腕に鎖を巻き付けただけの状態で魔物を倒すなど、土台無理な話だったのだ。
最低でも頑丈な鎧と剣が欲しい。
次からは欲を出さずに、魔物を見たら逃げるとしよう。
まああのウサギが相手では、逃げ切れたか怪しい気もするが。
中には足の遅い魔物もいるだろう。
そういうのは振り切った方がいい。
その時、頭上でファンファーレがなる。
視線を上げると、刺突耐性Lv1と表示されていた。
正直、死ねば全快する身としてはこの手の耐性は現状あまり意味がなかった。
下手に生き延びたら痛みが増すだけだ。
寧ろ邪魔と言っていい。
「自分でオンオフを出来る様になればいいのに……」
試しにステータス欄を開く。
名前:榊 益男
年齢:19歳
性別:男
種族:人間
職種:奴隷
特殊:Lv1
HP :6
筋力:2
早さ:2
器用:1
体力:2
魔力:0
魅力:0
信仰:0
知性:1
スキル▼
改めて見ると酷いステータスだ。
スタート直後だから仕方がないとはいえ、魅力0とかは地味にへこむんだが……
しかし最初見た時は気付かなかったが、俺の職種が奴隷になってるな。
どんだけどん底スタートなんだよ。
スキルの文字が光っているので、取り敢えずタッチしてみる。
何となくそれでスキル一覧が出てきそうと思ったからだ。
そしてそれは予想通りだった。
〈パッシブスキル〉
【土堀Lv1】【強酸耐性Lv1】
【刺突耐性Lv1】【痛覚鈍化Lv1】
一覧はアクティブとパッシブに分かれていて、当然なにも習得していないアクティブ欄は空白だ。
「駄目だな」
表示されている文字を指でつついても、波紋が広がるだけでなにも変わらない。
やはりオンオフは出来ない様だ。
「ま、分かってたけどな」
仕方がないのでステータスを閉じ、俺は更に東を目指す。
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