第16話 チュートリアル

「ほう……美しいな」


入口から入って来た、奴隷を三人連れて金髪の男が俺達の前で足を止める。

当然今の言葉は俺に向けられた物ではない。

自慢じゃないが、人様に美しいと言われる容姿はしていないからな。


魅力0は伊達じゃない。


しかし……


男はかなり身なりがいいのに対し、奴隷の三人はボロボロの服を着ている。

それに体には殴られた様な痣が目立つ。

なんとなく分かってはいたが、やはり奴隷の扱いは酷い様だ。


「私はこの街屈指のランクAハンター。ドゲス・クッソ―だ。いい店を知っている。良ければ食事でもどうかな?お嬢さん」


直ぐ横にいる俺を完全無視して、ドゲスはドラコを口説き始めた。

どういう神経してるんだ、こいつは?


「んん!?なんだ!?」


急にシャキーンという音が鳴り、視界が白黒に変わる。

そして俺の前に謎のパネルが突然姿を現わす。

びっくりして飛び退いたが、パネルは当たり前の様に俺についてきた。


「どうなってんだ?チュートリアル?」


周囲の人間は、石にでもなったかの様に固まって動きが止まっていた。


そしてパネルにはチュートリアルの文字が――


チュートリアルなんてあるのか……まあ世界を選ぶ難易度選択の時点でゲームぽかったし、そう言うのがあってもおかしくはないのか。


つか、チュートリアルおっそ。

ゲームなどのチュートリアルは始まってすぐがセオリーだというのに、二つ目の街で開始とか遅すぎ。


それとも、ハンターになるのがチュートリアルの開始条件だったのだろうか?


でも俺自身はハンターになれてないぞ?

ハンターになったのは俺ではなくドラコだからな。


まあ考えても仕方がない。

チュートリアルの説明を呼んでいる間は時間が止まっている様なので、取りあえず周りを気にせず進めてみる事にする。


「まあでも先に」


パネルの右下に次ぎへの文字が見える。

だがそれよりも、左下にある手紙マークが気になった。

なんかチカチカと点滅してるし。


「ん?お詫び?」


タッチするとメールボックスの様な表示に変わる。

その中には、お詫びと書かれた一文があった。


「読むにはもう一度タッチかな」


予想通り、文字をタッチすると本文が開かれた。

操作感覚は完全にスマホだ。


「なになに……バグによってエラーが発生し、チュートリアル開始が遅れた事をお詫びします?」


どうやら始まるのが遅かったのは、バグの影響だったらしい。

更にメールには、補填としてチュートリアルミッションの報酬をグレードアップしたと書いてあった。


「そんなのより、本来行くべきだったイージーの世界に送ってくれよな」


まあ愚痴っても仕方がない。

俺はメールを閉じ、チュートリアルの続きを進める。


チュートリアルミッションⅠ

何とかして首輪に繋がる杭を外せ(1/1)。


これは既に達成済みだ。

つかあれ、チュートリアルミッションだったんだな。


報酬は武器だった。


達成の下に、武器のアイコン一覧が並んでいる。

どうやら、本来は杭を抜いた時点で武器を入手できたようだ。

まあ冷静に考えればいくらインフェルノでも、武器もなく魔物のいる森に放たれるとかありえないよな。


まあ俺は素手で放り出された訳だが……ざっけんなよ、まったく。


もう便利な武器は手に入っているのだが、取り敢えず試しに剣のアイコンをタッチしてみた。


「うわ……ひでぇ」


パネルに表示された剣は、所々刃が欠けたボロボロの物だった。

名前もくたびれた剣と表示されている。

説明欄には、少しでも硬い物を切ると折れると出ていた。


こんなん持たされても、あの森じゃどうしようもねーぞ?


インフェルノはどこまで行ってもインフェルノの様だ。

取り敢えず剣はドラコから貰った物があるので、遠距離から攻撃できるものを選ぶとする。


「ぼろくても、遠距離武器なら役に立つかもしれないからな」


遠距離武器は三つ。

ブーメランと弓とスリングだ。

言うまでもないが、その全てにくたびれたや、壊れかけといった冠詞が付いている。


「うーん、酷いな」


弓は矢が1本しかついていない。

撃った物を再利用しろという事だろう。


ブーメランは強い衝撃を受けると壊れると書いてある。

相手に投げてぶつける武器なのにアホか。


スリングは石ころなどがあれば撃ちまくれるが、殺傷能力はかなり低いと書いてある。


「ブーメランは論外として、まあスリングか」


殺傷能力を考えるのなら弓なんだろうが、練習した事のない俺が撃っても絶対当たらないだろうからな。

まだ扱いやすそうなスリングの方がましだ。


貰う武器を選んで決定を押すと、補填によりもう一つ得られると表示される。


「もう一つ、つってもなぁ。他は別にいらないんだが。というかショボすぎだろ。補填」


一瞬金に換える事も頭によぎったが、売るには余りにも難がありすぎる。

誰が好き好んで今にも壊れそうなボロイ武器を買うというのか?


そんな事を考えていると、パネルの右下に手紙マークが浮かび。チカチカと光りだした。


取り合えず開いてみる。

一覧には、お役立ち情報というメールが届いていた。


「お役立ち情報?」


開いて確認する。

内容は武器強化についてだった。

同じ武器を手に入れた場合、どうやら合成が出来る様だ。


合成に成功すると武器がグレードアップし、ダメージボーナスが付くか、ランダムでスキルが付与されると書いてある。


「強化はいいんだが、インフェルノの成功率、えぐいな」


合成には成功率があり、難易度ごとに変わるらしい。


イージーは100%でノーマルは50%と、難易度が上がる度に確率は半減していく。

6段階ある中で最高難易度のインフェルノはなんと6%――端数切捨て――しかない。

ソシャゲのガチャじゃあるまし、何ちゅう確率してやがる。


まあだが元になった武器は壊れないそうなので、鬼畜と言う程ではないが。


「取り敢えず、試しに合成してみるか」


成功したらラッキー程度に試してみる事にする。

どうせチュートリアルで手に入るボロイ武器だしな、失敗しても痛手はない。


画面を戻し、スリングをもう一つ手に入れる。

すると合成しますかと画面に出たので、俺はイエスをタッチした。

パネルが合成画面へと切り替わり、合成の手順が表示される。


合成方法はシンプルな物だった。

まず基本となるアイテムを選び、次に素材となる同じアイテムを選ぶだけだ。


ただ、画面右端にアンロックの文字が二つ浮かんでいるのが気になる。


何か追加要素があるのだろうか?

ゲーム的に考えるなら、武器に効果を付与するエンチャント系や、成功率をあげる特殊なアイテムを使用する欄なのだが……ま、いいや。

考えても今は答えの出ない事だしな。


取り敢えず武器合成を実行する。

基本となる武器に、素材が重なって画面がフラッシュした。

そして気の抜ける音と共に画面に煙が広がる。


画面に合成失敗の文字が――


「ですよねー」


まあ世の中こんな物だ。

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