第2話 土堀Lv1

気付けば鎖に繋がれていた。

俺は取り敢えず起き上がって体に着いた土を払い、周囲を見渡す。


――森だ。


周囲には木々が乱立し、それがずっと続いている。

鎖は太い杭で地面に打ち込まれており、俺の首に付いている首輪の様な物と繋がっていた。


状況がよく分からない?

俺って転生したんだよな……


そう言えば、最後のアナウンスがインフェルノだと言っていた事を思い出す。


「え?インフェルノって鎖で繋がれてる所から始まんの!?」


流石地獄の業火級だけはある……などと感心している場合ではない。

取り敢えず、杭を手にして引き抜こう試みた。


「ぬううぅぅぅぅ!こなくそ!!」


だがびくともしない。

ならばと首輪の方を弄るが、首輪も金属製で無理には外せそうもなかった。

しかも手で触っても繋ぎが分からない作りになっているため、創意工夫でどうにかなりそうにない。


「だめだこりゃ」


俺はその場でしゃがみ込んで空を見上げた。

木々の隙間から、木漏れ日が差し込んでいる。


「けどこのままじゃあれだし、なんとかしないと」


改めて周囲を見渡すが、誰も見当たらない。

大声で叫べば誰か来てくれる可能性もあったが、此処は森の中だ。

危険な獣が寄ってくる可能性があると思い、俺は断念する。


「取り敢えず……掘るか」


俺は立ち上がり、杭の周囲を掘る。

杭そのものを引き抜くのは俺の力じゃ難しい。

だから周りの土を掘り返して、何とかしようと考えたのだ。


「いっつぅ……」


最初は柔らかくサクサク掘れた土だったが、どんどん硬くなっていく。

無理して掘り返そうとしたら、爪が剥がれそうになってしまった。


「最悪だ……この世界。なんで鎖で繋がれてんだよ……」


何か土を掘るための道具。

枝か何かでも落ちていないか周囲を見渡すが、残念ながらそう言った便利な物は見当たらない。

我慢してこのまま手で掘り進めるしかない様だ。


諦めれば最悪餓死もあり得る以上、やるしかなかった。


とは言え、このままじゃ手が持たない。

何か手を保護するものはないかと考え、袖を破る。

これを手に巻き付ければ多少はましだろう。


俺は再び土堀を再開する。

うん、いい感じだ。

クッションがある分さっきよりましな気がする。


暫く掘り進めると、突然頭の上でファンファーレが鳴り響いた。

何事かと思い、驚いて視線を頭上へと向ける。

するとそこには、でかでかとコングラッチレーションという文字が浮かんでいた。


文字には続きがあり、土堀りLv1を習得したと書いてある。


「土堀りLv1?」


ひょっとして、土を掘っていたからそれ用のスキルを習得したって事か?

となると、この世界は閃きシステムがあるって事になるな。


閃きシステムとは、ゲーム等でよくある行動に合わせてスキルを覚えると言う成長方法だ。

この成長システムは、玄人好みするゲームに組み込まれやすい。

単純なレベル上げと違って、敵を倒したりしているだけじゃ覚えられないスキルが出てくる面倒くさいシステムなので、正直ヌルゲーマーの俺はあんまり好きじゃなかった。


「はぁー、成長方法ハズレかよぉ。いや、まだレベルがないと決まったわけじゃない。とにかく、今は此処から動けるようにしないと」


そうでないと話にならない。

俺は再び土を掘り始めた。


「おお、すげぇ!」


俺は思わず声を上げる。

さっきまでの硬さが嘘であるかの様に土が柔らかく感じ、サクサク掘り進める事が出来た。


……これがスキルの効果か。


「へへ、こいつはいいや!」


杭の周りの土をがんがん掘り進む。

5-60センチほど掘った所で杭が少しぐらついた気がしたので、力いっぱい引っ張ってみる。


「よし!」


杭は力を籠めるとすんなりと引き抜けた。


喜びから俺はガッツポーズする。


そのすぐ背後に化け物が迫っているとも知らずに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る