第3話 補填
「あれ?」
気付けば森の中に倒れていた。
自分の首に何か付けられていて、そこから鎖が垂れ下がっている。
「何で俺は……あ、そうだ!」
直前の事を思い出す。
背後からいきなり何かに襲われ、激痛に意識を失ってしまった事に。
「あれ?でも体は痛くないぞ?」
「死に戻りましたから」
「え!?」
頭上からいきなり声をかけられ、驚く。
顔を上に向けると、小さな黄色い妖精?の様な生き物が俺の頭上で羽ばたいていた。
「いやー、危なかったですねぇ。僕が来るのがもう少し遅かったら、貴方あのまま完全に死んでましたよ。感謝してくださいね!」
「妖精!?」
「妖精!?どこです?妖精何処何処?って、私の事かーい!」
妖精がきょろきょろ首を振った後、突っ込みを入れる。
なんだこいつ?
「あー、滑りましたか。まあ人間にはこの高度な妖精のノリを理解するのは難しいでしょうから、仕方がありませんね」
妖精がやれやれと首を横に振る。
なんだか凄く馬鹿にされた気分だ。
まあその辺りは別にいい。
「君が助けてくれたのか?」
「その通り!感謝してください!」
妖精がドヤ顔で偉そうに胸を張る。
滅茶苦茶ムカつく顔だった。
助けて貰っておいてなんだが、腹が立つので正直礼を言いたくない気分だ。
「助けてくれてありがとう」
とは言え、そういう訳にもいかない。
何かして貰ったら礼を言うのはマナーだからな。
しかもそれが命の恩人となれば猶更だ。
「いえいえ!これが私のお仕事ですから!お気になさらずに!」
自分から感謝を求めておいて、今更お気になさらずも何もあった物じゃない。
そんな事よりも気になるのは――
「仕事って?それに君は?」
「実は私、神様の使いなのです!」
妖精がさらに胸を張る。
そり過ぎて最早完全に海老反りだ。
ひょっとして頭が悪いのだろうか?
「神様の使い?」
「そう!神様に命じられて、今回の不具合の補填へとやってまいりました!」
不具合?
補填?
……不具合!?
そうだ!
俺はイージーを選んだはずなのに、何故かインフェルノの世界へと転生させられたんだった。
間違いなくそれが不具合に違いない。
「補填って事は、イージーの世界にちゃんと連れて行ってくれるんだな!」
助かった。
いきなり穴掘りスタートで。
しかも魔物か何かに背後から襲われて即死する様な危険な世界など、俺にはムリゲー過ぎる。
もっとこう、ゆるふわの世界でないと。
「それはできません!転生は一度っきりの大イベント!不具合程度で再転生はさせられません!」
「は?」
……え?
出来ない?
そんな馬鹿な!
「自分達のミスなのに、出来ないってどういう事だよ!」
「まーまー、落ち着いてください。その為の私、そしてその為の補填です。私は神様に命じられ、補填として二つの力を授けに来ました」
「二つの力……つまりこの世界の難易度が激変するって事か?」
「え?そんなわけないじゃないですか?」
「え?」
「超難易度がこの世界の魅力なのに、それを損ねる様な補填を与える訳わけないじゃないですか!あくまでも、少しマシになるって程度です!」
「この世界の魅力なんてどうでもいいわ!」
俺は大声で叫ぶ。
ヌルゲー派からしたら高難易度など、苦行以外何者でもない。
魅力0どころかマイナスだ。
「大体補填ってのは、損失に対する穴埋めだろうが!その補填だと、糞でかい穴にちょろっと土放り込んだ程度じゃねーか!」
完全に焼け石に水でしかない。
難易度が少しマシになるだけとか、補填内容が割に合わなさすぎる。
現実世界なら訴訟待ったなしの内容だ。
「何を言ってるんですか?世の中の補填と言うものは、基本只のパフォーマンスですよ?取り敢えずお詫び配っておくから、これで我慢してろ。っていうのが補填と言う物です」
妖精がサラリと恐ろしい事を言う。
確かに、ソシャゲ等ではそういった気風があるのは否めない。
だが糞運営でも、もう少し真面な補填を用意するものだ。
とても神様のする仕事じゃねぇ。
「と言う訳で、貴方への補填は
死なない?
しかも俺だけレベルアップする?
それって結構ヌルゲー仕様じゃないか?
何だよ、びっくりさせんな。
神対応とまではいかないが、案外悪くない補填だ。
神様なんだから文字通り神対応して貰いたかったけど、まあこれならそこそこ緩く行けそうだ。
「じゃ!そういう事で!」
「あ、ちょっとまって」
妖精は軽く手を上げて飛んでいこうとするが、俺はそれを呼び止めた。
色々聞きたい事がある。
「なんです?」
「ここは何処なんだ?街にはどっちに行けばいい?」
土地勘も無い森の中では、街を探すのも一苦労だ。
下手したら何日もかかってしまう。
それ以外にも色々と情報を聞かせて貰いたい。
「うーん。悪いんですけど、この世界の事を話すわけには行かないんですよねぇ。それも含めてインフェルノだから」
ふざけんな。
「インフェルノに間違って連れてきたのはそっちだろ!!」
別に俺が好んで来たわけじゃない。
そっちのミスなのだから、街の情報位寄越せよ。
「んー、まあそれもそうですね。じゃあ神様に内緒で特別サービス。二つだけ情報を上げましょう。とりあえず町は此処からだと、南と東にありますね。近いのは東」
妖精が東を指さす。
何もない状態だ。
態々遠くを目指す理由はない。
取り敢えず東を目指すとしよう。
「もう一つはステータスの開き方を。これは隠しコマンドだけど、超超特別だからね。セレクトとスタートボタンを同時に押してみて」
「は?」
何言ってんだこいつは?
セレクトとスタートは、恐らくゲームパッドの事を言ってるのだろう。
だが当然俺の手にはそんな物はない。
そもそも異世界にゲーム機等あるのだろうか?
「いいから、持ってるつもりで押してみなって。大丈夫、僕は神の御使いだよ?信じてごらん」
言われて渋々やってみる。
すると頭上に文字が浮かび上がった。
そこには俺の名前や年齢。
筋力等のステータスが列挙されている。
確かに、これはステータス欄だ。
「でたよね?んじゃ、情報終了!頑張ってねー」
「ちょっ……まっ……」
再び呼び止めようとしたが、妖精は光の速さで大空へと消えていってしまった。
出来ればもっと情報を引きだしたかったのだが……まあ不死&レベルアップありなら何とかなるだろう。
俺はジャラジャラと邪魔くさい鎖を腕に巻き付け、東の街を目指して歩き出す。
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