第22話 サブミッション

「さて……」


俺は早速魔力付与を自分に使ってみる事にする。

これで魔力を得て、俺は晴れて奴隷脱出だ。


いやまあ、ドラコの眷属ではあるので奴隷のままっちゃ奴隷のままみたいなものではあるんだが……

まあそれでも、魔力さえあれば奴隷として他の人間から何かされる心配がなくなるってのは大きい。


「こうだな」


スキルの使い方は感覚で分った。

ドラコに見られない様に背を向け、俺は指先を自分の額に当ててスキルを発動させる。


――あれ?


おかしいな?

何故か発動しない。

もう一度試してみても駄目だった。


「んんん?」


俺の感じている使えるという感覚は、ひょっとして只の勘違いなのだろうか?

とりあえず今度はストックの方を使ってみた。


「こっちはいけるな。何が違うんだ?」


発動させると、右掌の上に黒いブラックホールの様な物が現れる。

この穴の中に物を吸い込む事で、アイテムを自由に持ち運べるのだろう。


「やっぱり発動しない」


再度試してみるが何も起こらない。

エフェクトが無いだけかとも思い、ステータス欄を確認してみたが魔力はやはり0のままだった。


一体何がダメなんだろうか?


「そのスキルは自分には使えんぞ?」


「うわっ!?」


いつの間にやらすぐ横に来ていたドラコに声をかけられ、思わず飛び退く。

心臓に悪いので気配もなく近づくのは止めて欲しい。


まあそれはいい。

それよりも――


「えーっと、俺が何をしてるのか分かるのか?」


「ワシはお主の主じゃぞ?下僕の変化に気付かぬ訳がなかろう?以前魔物を倒した時から気付いてはおったが、どうやらお主は誰かを倒すと力が増す様じゃな。スキルも増えておるようじゃし」


ぬう……レベルの事は黙っていたのだが、どうやらバレてしまっていた様だ。

しかもクエストで覚えたスキルまで筒抜けとは。


「まさかとは思うが……黙っていたのはワシを出し抜くためではないだろうな?」


ドラコが腰に手を当て、小首を傾げてニヤリと口の端を歪める。


「まあそう言うのも嫌いではないぞ?ワシの首が欲しければいつでもかかって来るがよい」


楽しそうに受けて立ってやると言うドラコの目は、全く笑っていなかった。

その顔、死ぬほど怖いんですけど?


「いや……聞かれなかったから言わなかっただけで、別に出し抜こうなんて思ってないよ。ははは」


「ふむ。まあよかろう。所でさっきも言ったが、お主の使おうとしていたスキルは他人にしか使えんぞ」


「えぇ……」


どうやら自分には使えない様だ。

だったらゴミじゃねぇか。

期待して損した。


「おそらく、初めから魔力を持っている者にも効果はないじゃろう。だが、あ奴らになら効くのではないか?実験台にしてはどうじゃ」


ドラコが、金髪野郎が連れて来た奴隷達の方を見た。

彼女達は明らかに此方を見て怯えている。


まあ死んでも死んでも起き上って来る、ゾンビみたいな戦い方してたからな。

彼女達からすれば、俺は確実に化け物に見えている筈だ。


「なぁ、あんたら……」


「ひいぃぃぃぃ!お助け下さい!!」


「どうかの命だけは!!」


物は試しだと思って声をかけたら、奴隷の三人はその場で跪き、地面に頭を擦り付ける様に命乞いしだした。


ドラコが実験台なんて言うから……


「あの、別に酷い事とかするわけじゃないんで……」


「「お許しください!お許しください!」」


優しく声をかけてみるが、全く彼らの耳には届かない。

兎に角狂った様に許しを請われてしまう。


「頭を上げよ。今から貴様らに魔力を授けてやろう」


ドラコが落ち着いた声を彼らにかける。

すると、それまでガタガタと震えていた奴隷達の体の震えが急に止まる。

ひょっとして、何らかの魔法でも使ったのだろうか?


「もう一度言おう。今からおぬしらに魔力を授ける。喜ぶがいい」


彼女の言葉に、奴隷達はオドオドしつつもお互いの顔を見合わす。

そして意を決したかの様に、奴隷の一人――女性が顔を上げて口を開いた。


「私達は魔力を持たずに生まれてきました。そのため、奴隷として生きています。本当に、私達に魔力を授けて頂けるのでしょうか?」


「ワシは嘘はつかん。さあ、立ち上がるがよい」


そう言われ、奴隷達はゆっくりと立ち上がる。

立ち上がった彼らの瞳には、期待の色がありありと浮かんでいた。


ここに来るまでに金髪の野郎に蹴られていたし、生贄にされた自身の経験から奴隷には人権がない事は分かっている。

彼らからすれば、魔力をくれるというドラコはきっと救いの神に見えているに違いない。


ま、付与するのは俺なんだけどな……


「それ、お膳立てしてやったぞ。さっさと試してみるがよい」


「あ、ああ。分かった」


俺が近づいて手を伸ばすと、彼らは一瞬びくっと体を竦ませる。

別に危害を加えようとしている訳ではないのだ、こういう反応されると何だから悪い事をしてる気分になってしまうから困る。


「危ない事はしないんで、安心してください」


さっきドラコに質問した女性が三人の中のリーダーっぽかったので、取りあえず彼女の額に手を触れ、魔力付与を発動させて見た。

俺の指先が光、女性の額に魔法陣が浮かび上がる。


明らかに自分に使った時とは違う反応。

これで自分には使えない事が確定してしまった。

ま、別にいいけどさ。


「あ、ああ……本当に……私にも魔力が」


どうやら自分の中に生まれた魔力を感じ取れる様だ。

女性は恐る恐る、自分の首に付けられた首輪に触れる。

すると奴隷の証であるそれは継ぎ目と思しき部分から開き、ぽとりと地面に落ちた。


「お、おおおおおおお!!本当だ!本当に魔力が!」


別の奴隷がその様子を見て、歓喜の声を上げる。


「ん?」


急に目の前にパネルが現れた。

そこにはでかでかとサブミッション発生と書いてある。


奴隷を解放せよ!(1/10,000)


1万人解放で達成とか、数多すぎだろ……


しかも報酬は例のしょぼい武器だし。

誰がこんなのやるか。

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