出発

ブリクアートは、最低限のことはしていった。

まず、王を国内で一番支持の厚い大臣に任命し、そしてブリクアートのへそくり(国家予算の半分ほど)をすべて国庫に預け、信頼の厚い部下一人一人に置き手紙を残して、誰も居ない夜中の城の庭で、僕とブリクアートは出発した。


僕としては、最後にもうちょっと国民や、部下たちと話でも良いんじゃないかと思いながらも前と比べたらブリクアートは頑張ってくれたのだろう。

僕はほっとしていた。


僕たちは、さっきまで居た国サバティストンや、

カリントン、僕が召喚された国のキーカートゥンとは関係の薄い国に来ていた。

万が一関係の濃い国なら、カリントンの目が届くかもしれないからだ。


「これからどうしようか」

そう呟きながら、僕とブリクアートは人生で一度も見たことのないような素材が使われている家が立ち並んでいる街を歩いていた。

その時、一つの木の板を見つけ、そしてその木の板には少し黄色がかった紙が貼りつけられており、そこには文字が書かれている。


【キーァートゥンの精鋭軍。少数ながらサバティスントンの万の軍を突破する】

と大きな目出しにそんなことを書かれていた。

関わりが薄い国なので、誇張表現などは使っていないだろう。

そしてその精鋭軍というのは、恐らく前聞いた話と合わせて考える限り、僕の高校の生徒のことだろう。


だからブリクアートはサバティストンに未来を見いだせなくなって捨てたのか?そんなことを考え、ちらっと横を見ると、さっきまで横に居たブリクアートはおらず、先に進んでいた。


===


「これからどうするんだよ」

さきほどの呟きと似た質問をする。

「情報を集める。そして、カリントンを討つ」

「討っていいのか?数少ない仲間だろ?」

「同族殺しをするやつなんて仲間なもんか」

「でも、お前が殺そうとしたらそれこそ同族殺しじゃないか」

「だから俺はカリントンは同じ種族じゃないと言っているんだ」


ブリクアートの約束に対する意識の強さは、今まで身に染みていたが、これほどまでだったのろうか。

それとも、一致団結して人間に対抗してきたことによる歴史故なのか。

今の時点では分からなかった。


僕とブリクアートはひどく高そうなホテルに二人分の料金を払い、僕たちは案内された部屋に入っていく。

僕とブリクアートがそれぞれのベッドに座り、口を開き始める。


「なんでこんなに高そうな宿を選んだんだ?五分の一とかの値段の宿もあるだろ」

「高い宿は防音とか安全性が高いからな。作戦会議とかをするにはちょうどいいだろ。もし誰かに聞かれたら困るからな」

「なるほど」

僕は頷いて感心していた。


「これから俺の故郷に戻ろうと思う」

「故郷?そんなまたなんで?」

「この前カリントンがボスと思わしき組織のスパイを見つけたって話しただろ?

その組織が故郷にあるんじゃないかと思ってな」

「出身地だから?」

「まぁそれも理由の一つだけど、まぁ勘の域を出ないけどな。長い年の付き合いから来るもんだ」

勘の域を出ない意見だとしても、なんの意見を持たない僕にとってはそれに従うのが唯一の道なのだ。

それに従うしかなかった。


「決行は今日の夜だ。そのために今のうちに寝とくぞ」

そう言ってブリクアートは布団を被ってそそくさと寝てしまった。

「全然眠くないんだけど」

僕はぼそりとそう呟き、窓にかかるカーテンをピチッと閉め、日光が入らないようにして目を閉じた。


夜、時刻は午後七時ぐらいに僕たちは起きた。 

起きたと言っても、僕はブリクアートに叩き起こされたのだが。

「とりあえずチェックアウトしていくぞ」

「なんで?まだ日跨いでないのに?」

「いつ帰ってこれるか分からないしな」

そう言ってブリクアートは少ない荷物をまとめて部屋を出ていった。

僕もそれに続いて部屋を出た。


「この世界でも夜って明るいところは明るいんだなぁ」

僕は前で飲んでくれているおっさんたちを見つめながら、ぽつりと呟いた。

「こっち行くぞ」

ブリクアートに手を五分ほど手を引かれて連れていかれた場所は、知らない路地裏だった。


「人目につくと悪いからな」

地面には小さく魔法陣が書かれている。注視しないと誰も気づかないぐらい小さな、魔法陣だ。

「この模様って何の意味があるの?」

「まぁ、楽に魔法を発動させるためだな。別になくても問題ないけど、まぁ楽だから」

特に意味はないらしい。まぁ、楽になるのがから意味はあるのか。

「行くぞ」

ブリクアートがそう言うと、視界が真っ白に染まった。

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