障害
そして少し走ったところで、ブリクアートが
「テレポートするぞ」
と言い、そしてその瞬間、視界が白に染まった。
パンッと次に地面に着地したとき、それはさっきまで踏んでいた土ではなく、人工物の赤色のレンガを踏んでいた。
そこは一度見たことのある、街の中の道路だった。
なかなかに広いことから、恐らく中央の道なのだろう。
街に居た他の人たちが、いきなり現れた僕たちに驚いたような目を向けていた。
「くっそミスった」
とブリクアートが悔しそうに呟いた。
恐らく違うところに飛ぼうとしたのだろう。
「これからどうするの?」
「そうだな...でもとりあえず片手だけでもいいから顔を隠すんだ」
僕はそう言われ、慌てて俯きながら顔を隠した。
「国の外へ、壁を越えたいからとりあえず人目のつかないところへ行くぞ」
ブリクアートはそう言い、僕の右手を左手で引いていきながら道を横断するように走っていって街の路地に入っていった。
「はぁ...はぁ...」
僕は息を切らしながら膝に手を当てて、頑張って息を正常に戻そうする。
そんな僕とは違って、隣のブリクアートは息一つ切らしていなかった。
普段鍛えているのだろうか。それとも、魔法によるものなのだろうか。
「もう一回テレポートするぞ」
「さっきのところで急いでしたらダメだったの?」
「そんなことしたら余計目立ってしまうからな。だからここまで来たんだ。
あともう少し集中してからやりたい。そうじゃないとまた同じようにミスしてしまうからな」
ブリクアートが集中しようと、目を閉じた瞬間「ふふふ」と不気味な女の声がした。
その声は、さっきも聞いたことがある声だった。
「見つけるのがだいぶ早かったけど、それでも少し遅れたな。それじゃバイバイだ」
ブリクアートが悔しそうに、それでも勝ち誇ったような顔でそう言った。
そしてまた僕の視界は、白に染まった。
飛ばされた場所は、赤い、誰の家かもわからない屋根に僕たちは着地した。
「失敗?」
と僕は、尋ねる。
「あぁ...でもなんでなんだ?」
ブリクアートは困惑の表情を浮かべている。
「集中して、魔法の発動は完ぺきだったはずなのに、なぜなんだ?」
その時、ついさっき聞いたばかりの声がまた聞こえた。
「何回テレポートしても意味ないわよ。どうせこの国の、この町の中にしか飛べないんだから」
カリントンはそういい微笑む。
「俺と戦いながらそんな制限魔法までかけたのかよ。さすがに魔法がうまいな」
「ブリクアートが魔族のわりに下手なだけよ」
「ちげぇよ。俺も魔法がうまいほうだったけどお前がずば抜けていただけだ」
僕にはあまり理解できない思い出話のような話が繰り広げられているが、思い出話をするわりには空気が重かった。いつか心臓が止まってしまうんじゃないかと思ってしまう空気だ。
「そいつを置いていきなさい。私ならその勇者を管理できる」
その言葉はさっきまでと変わらない口調だったのに、針で突き刺すような鋭さと冷たさがった。
僕は縋るようにブリクアートの姿を見た。
ここでブリクアートに賛同されてしまえば、僕は逃げ切れるはずもない。
前に逆戻り...いや、前よりも悪い状況になるだろう。
僕はゴクリと唾を飲んだ時、ブリクアートの口が開いた。
「何度も言うが、俺は絶対に約束を守るんだ。だから答えはノーだよ」
「仲間は殺したくないよ?」
「俺も殺したくねぇよ。でも俺は約束を第一に優先するんだ」
ブリクアートはそう言うと、すぐに反対側に体の向きを変え、僕の腕を引っ張っていく。
僕はこれまで体験したことのないようなスピードで街の屋根の上を駆けていた。
手を引っ張られながら掛けているが、体は屋根についていない。
腕が千切れるんじゃないかと思う。当たる風が冷たい。
それでも、カリントンとの距離は離せなかった。
カリントンもまた、人と思えないほどのスピードでこちらに迫ってきている。
そして、黄色の屋根を飛んだ瞬間、また視界が白に染まった。
今度も、知らないところに出た。
さっきまでと違うところは、上を見上げても空は見えず、木の屋根が見えるところだ。
周りを見回してみると、二つの白のベッドが見えるあたり、誰かの寝室だろうか。
幸い、この部屋には住民は居なかった。
「翔太、少し無茶をするぞ。力貸せよ」
「力貸すって...一体何をすればいいの? 」
「力貸すって言っても、そんな難しいことじゃない。ただ、タイミングよく門をぶち壊したらいいだけだ」
「ぶち壊すって僕が?」
「そうだよ。翔太以外誰が居るんだ?」
「でも壊すにしてもどうやって壊すの?」
「魔法だよ。砂の魔法は使えるよな?」
「まぁ」
僕は小さく言い、頷いた。
僕は右手の手のひらを下に向け、手から砂を発生させる。
少し粘ついているような、少し汚い砂...泥のようにとも言えるものが木の床へと置ていった。
手で拭くが、少し床に跡が残ってしまった。
ゴメン、この家の人。
「それを固めたらいいんだ。こういう風にな」
ブリクアートが説明口調で言い、右手のひらを下に向け、キレイな砂の塊が床に落ちた。
「なんできれいなの?」
「魔法の練度の差だ。気にすんな」
「ふうん」
僕は少し悔しくなったが、気にしても意味がないと思い、思考を魔法にのみ集中するる。
「作ろうと思えば作れるさ」
ブリクアートがそう言った瞬間、僕の手のひらから茶色の泥の塊が床に落ちた。
どの泥の塊を手に持って退けると、床についた泥が目に入った。
ゴメン、この家の人。
「そのそも僕が家を破壊する意味あるの?ブリクアートが破壊すればいいだけじゃん?」
「いや、俺だとできないんだ」
「なんで?」
「その前にまず、作戦を説明しないといけないな」
ブリクアートは、そう言った。
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