故郷

ブリクアートの故郷...つまり、魔族たちの故郷...つまり、カリントンの故郷は、一言で表すなら廃村という言葉が一番正しいような気がした。

不思議な素材で作られた家の壁、屋根などに黒い焦げのようなものが付いていることから燃やされたのだろうか。


ブリクアートが苦虫を嚙みつぶしたような顔をする。

ブリクアートにとって、最大の悪夢と言っても良いほどの出来事なのだろう。

「あれ、なんかおかしくないか?」

僕は一つの建物を指す。


それは、長の家だったのか何の家だったのか僕にはわからないが、ここら辺にある建物の中ではひと際大きく、異様な存在感を放っている。

そしてこれ以上遠くから見た場合、気づかないがその建物にも黒い焦げみたいなものが付いているが、その黒の正体が焦げじゃないことが見て取れた。


異様で、不気味な、そんな黒だった。

「あそこだな。くそっ、思い出も何もなしかよ」

一歩一歩その建物にへと近づいていく。

黒く、纏われたその建物に。


ドアの前にまで辿り着いた。

謎の黒い物体によって染まったドアを、慎重にブリクアートは開けていく。

キィ、と小さく音が鳴る。


その瞬間、ブリクアートの胸にナイフが飛んでくる。

それを右手で弾きブリクアートが余った左手で、飛び込んできた黒い存在に張り手のような攻撃をするが、危機一髪のところで首を逸らし避け、ナイフの連撃を続ける。

右手、左手、右手、右手と繰り返し来るナイフの、持つ手を弾いて躱す。


姿が露わになった奇襲を仕掛けてきた男は、ナイフを下に投げた。

ブリクアートに苦悶の表情が現れる。

男は低姿勢になり、ブリクアートにタックルを仕掛ける。

それをブリクアートは左足で顔面を蹴る。

蹴ったのに、男の攻撃は止まらなかった。


腰にタックルを食らったブリクアートは、右手が固定されたまま倒れこんでいく。

ドンッ、とブリクアートが倒れた。

そしてブリクアートの顎に蹴りを一発食らわした男は次に僕にへと迫ってくる。


相手のパンチが腰に向けて放たれる。

そのパンチを僕は気合を入れて耐える準備をする。

相手の拳が触れた瞬間、口から息が漏れ、激痛が走るがギリギリ踏ん張った。

僕は足元に泥のような砂を発生させ、そしてそのまま何も考えず、思いっきりパンチを男に向けて放つ。


男は九十度捩り、僕に追撃しようとしたが、それは判断ミスだった。

泥によって足を滑らせる。

少し、体の重心がずれたが、その少しの間にブリクアートが男の真後ろまで近づいていた。


「くれてありがとな!」

男の持っていたナイフを持ったブリクアートが、男の首元にナイフを突き刺した。

鮮血を吹き、垂らしながら男は泥にへと倒れていく。


ほっと一息ついたところで、腰に激痛が走り、思わず手をついて倒れてしまう。

「大丈夫か?」

「骨は折れてないと思うから大丈夫だと思う」

僕はそう言い、立ち上がる。

深呼吸を五回ほど繰り返すと、痛みが和らいだような気がした。


僕たちは中に入る。

中は、テーブルと椅子があるだけの質素な作りだった。

「お前、ブリクアートだな」

中には、三人の男女がおり、その中の一人がブリクアートに向けて言う。


「お前ら...」

ブリクアートは、酷く驚いたような顔をしている。

「久しぶり、ブリクアート。こんな形で会うとは思わなかったよ」

優しい、女の人の声だった。

「クレーデレ...なんで...」

「覚えてくれてて嬉しいよ」

優しい声の女が、ブリクアートに対して声をかける。

「じゃあ、お前らは..」

「「久しぶりだね。ブリクアート」」

二人の男の声が、重なって届く。


「なんでブリクアートは...」

そのうちの一人の男が口を開く。

スラッとした体格で、黒髪短髪の好青年という感想を抱く人物だ。

「なんで、そいつを守っちゃうわけ」

その男の人差し指が指していた先は、僕だ。


「こいつは勇者だ。味方に付けばきっと利用できる」

「アホなのか?そいつが裏切らない確証はどこにあるんだ」

「こいつは違う世界から来た人間だ。この世界の人間とは違うかもしれないだろ」

「ブリクアート...」


男は、そう言い、酷く寂し気に、侮蔑するかのような口調で、ゆっくりと息を吐いてから言った。

「実に君は、学ばないんだな」



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