尋問
「王を殺そうとしたのだ。普通なら極刑で死刑確実だが、ここで素直にやったと吐けば、生き残れるかもしれないぞ?まぁ一生牢獄の中だがな」
それは僕にとっては良い提案だったかもしれない。僕がホントに罪を犯していた場合にのみだが。罪を犯していない僕にとってはどちらもただのひどい冤罪で食らった刑である。理不尽そのものだ。
「僕はやってない。飛ばされたんだ。変なフードを被って女に、訳も分からずここまで飛ばされたんだ」
正直に告げるが、兵士は聞く耳を持っているようには思えなかった。
「そんな戯言誰が信じるんだ?お前の国からこの国までどれくらいの距離があると思ってるんだ?世紀の大魔法使いでも厳しい距離だぞ?こんなのお前が城の近くで魔法を発動させて王の部屋に侵入してきたしかありえないだろ」
兵士が一息ついてから言う。
「さぁ、どちらにするんだ?」
兵士は取った剣の先を僕の首元に突き付けてくる。選択肢は二つに一つしかないような気がする。今はただ、命が欲しい、そう思う。今動きを止められようとしている心臓が人生で一、二番目ぐらいに大きく跳ねているような気がする。
兵士が下卑た笑みを浮かべながら、剣を左右に回して見せる。
喉元に、チクリと痛みが走った。
喉元に血が流れ始めて、思わず命乞いをしそうになったその瞬間、バンッ、と木星のドアが開かれた。
ドアが開いた先には、この前も見たことのある王冠を被った人物が居た。王様という言葉を表現するのにふさわしいような恰好をしている男だ。体が引き締まっていて、王冠や服を脱げば格闘家などと言われても疑わないぐらいの体格もしている。
「ミューズメンよ。この部屋から去れ。俺はこの男と二人で話すことがある」
「ですが...王一人で話すのは危険です。せめて護衛に残してくれても...」
そう言われ、王と呼ばれた男は、腰に携えてある剣の柄を掴み言う。
「なんだ?俺の命令が聞けないのか?それとも俺がこの男より弱いというのか?」
「いえ...決してそういうわけではないのですが...」
「じゃあ去れ。今すぐだ」
そう言われ、兵士の男は「失礼しました!」と頭を下げ、ドアを閉めて去っていった。兵士が走っていく足音が聞こえなくなったところで王と呼ばれた男はゆっくりと王冠を外し、床に放り投げると口を開いて話し始めた。
「魔族と会っているな?それも、すれ違っただけとかではない。一晩過ごしたような長い時間を、だ。久しぶりに匂いを嗅いだせいでお前が飛んできた瞬間には気づかなかった」
「魔族と...?」
魔族という単語を聞いて、この前の深くフードを被った女の話を思い出した。
もしこの男の言っていることが本当ならば、俺の頭に浮かぶ人物は一人しかいなかった。
飛ばされたとき、俺の目の前に居たフードを深くかぶったあの女。
男の話していた一晩過ごしたのも繋がるし、そしてその女は異様に魔族に詳しかった。
これらのことを考えてから、僕は口を開いた。
「多分、会ってますね」
「どこで会ったのだ?」
そう聞く男の表情は、少し喜んでいるように見えた。
「城の、中です」
そう聞くと、男の表情はより、喜んでいるように見える。
「生きていたのか...そしてうまくやっているのだな!俺の同胞は」
この言葉から察するに、この男もまた、魔族というやつなのだろうか。
見た限り普通の人間に見えるが、魔族だろう。
そしてここの国の住民が魔族という情報も聞いたことがなかったし、あのフードを深く被った女がいうのが正しいなら、魔族は全滅か、それに近い形になっているだろう。
つまりこの男は、人間の国で、人間とは違う種族がこの国を牛耳っているのだ。
違う種族が国を治めていると聞くと、あまりピンとこないが、どんな感覚なのだろうかと少し気になった。
もし違う種族に治められていることを知らなければ、思うところはないだろうが、もしそれを知ったとき、僕たちはどう思うのかと少し気になったが、もうそれはこれからも一生知れない感覚なのかもしれないと思い、考えることをやめておいた。
「なぁ、俺の同族は一体どんな形で城の中に居るんだ?王妃としているのか?それともスパイとして誰にもばれないように過ごしているのか?それともまた別に、違う形で活躍しているのか?」
男は興味津々にこちらに聞いてくる。が、右手は鞘に入れられてある剣の柄に触れられている。僕が逃げ出さないように油断はしていないようだった。
僕は冷静に考える。さっきまでバクバクと破裂しそうな勢いで鼓動していた心臓は
今となっては平常運転を取り戻していた。
ここでもったいぶらずに、あの女の情報をすべて言ってしまったらどうなるのだろうか、と考える。全ての情報を僕から聞き終えた時に、この男が僕を生かしてい置く理由なんてあるのだろうか。別に僕はあの女との関わりも薄いのだ。
気まぐれで見逃してくれるというのも、ゼロではない可能性だが、ゼロではないというだけだ。限りなく少ない可能性となる。
ここで生き残り、自由を勝ち取るには僕はこの男にとって生かしとく価値ありと思わせなければならい。
「なぁ、早く言えよ」
男は少し苛立たし気味に僕に言葉をぶつける。威圧するかのように、鞘の中に入っている剣をカキンカキンと鳴らした。
「なぁ、僕がその情報を言って、一体どうするんだ?」
「そんなの関係ないだろ。早く言え」
「教えてくれないのなら、俺も情報は教えない」
静まっていた心臓が再び大きく跳ねてくる。
ここ利用価値無しと判断されれば僕は死ぬ。選択は間違えてはならない。この男が魔族と知った僕を生かして置く理由はないのだ。
「そうか、残念だよ。大人しく状況吐いとけば苦しい思いはしなかったのにな」
男は左手に握りこぶしを作る。脅しだろう。
俺は目をつむりながら、言う。
「ここで僕に危害を加えれば、僕は自殺し、情報は何も残さないぞ」
こちらに飛んできていた拳が目前で止まった。
首筋にチクリと痛みが走る。そして首に血が流れる感覚を味わう。
「魔法か?」
男が驚いたような顔をする。魔法を使えるとは思っていなかったらしい。とがった小さな石が、宙に浮いて首筋に小さく突き刺さっていた。ここで魔法を使い、素手でこの男を倒し、逃げる自信はなかった。ならば、ハッタリでも交渉に持ち込み、そして交渉で勝つことの方が、よっぽど可能性があると思ったのだ。
実際、この行動はハッタリに近いようなものだった。
僕に自殺する勇気はない。足はバレてはいないが小さく震えているし、宙に浮いている石の操作も最新の注意を払って操っている。集中を途切れさせたくないため、この男と話したくないほどだ。
だが、男はそんなことは知らないので、無遠慮に会話を続けてくる。もう拳は引っ込めていて、右手はもう剣の柄に触れていなかった。
攻撃する意思を一旦は見せないようにしたらしいが、それでもなお、男からの圧は大きかった。
「何が望みなんだ?」
男は重い口を開きそう言った。
僕は内心で『勝った』と思い、ずっと言いたかった言葉を口にする。
「僕の命を奪わない、危害を加えない。危害を加えさせないこと。それと...」
僕は小さく息を吸い、言った。この言葉はここに来て拘束されたときからじゃない。
ここに飛ばされてからずっと思っていたことだ。
「僕が居た国、その王を殺すことに協力することです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます