勇者
男は一度顎に手を当て、思案する。そして口を開いた。
「王の暗殺は各国に大きな影響をもたらす...いいだろうその条件飲んだ。お前に危害を加えないことを約束する。」
と、男は言った。
俺はホット胸を撫でおろした。激しい鼓動をしていた心臓が静かになっていく。
「でもこれはお前が先に我が同族に関する情報を吐いてからだ。じゃないと約束はできん」
「僕が情報を吐いてから、用済みになって僕を殺す、なんてしませんよね?」
「ああしないさ。そんな人間みたいなことはな」
男は侮蔑するように言った。
「その前にまずは、お前の情報だ。なんの身元も分からないやつを信じるわけにはいかない。まぁ、お前の持っていた剣から察するに兵士か何かだろうがな」
そう言われ、僕は素直に身元を明した。他の人とは違うあることも、だ。
「名前は、須藤 翔太だ。あっちの国出身じゃない。日本というところから来た」
「日本...だと?」
男は目を見張り、驚いた顔をしている。そしてゆっくりと口を開いた。
「じゃあ、お前は召喚...されたのか?」
「そういうことですね」
「じゃあちょっと待ってろ」
男はそう言うと、ドアを引いて開け、閉めてカギを閉めると、さっそうとどこかへ行ってしまい、足音が遠くになってやがて聞こえなくなってしまった。
五分ほど待っていると、ガチャリと鍵が開く音が聞こえ、バンッとドアが大きな音を立ててドアが開けられた。
男はぜぇはぁと口で大きく呼吸している。相当ダッシュで走ってきたようだ。
そして大きな手には一つの水晶玉が握られていた。
そして僕の前に立つと水晶玉を持った右手を僕の顔を前に持ってくると、水晶玉が光った。
「俺はナーチュテルみたいにこういうのは得意じゃないんだけどな」
男は小さく何かを呟いた。小さすぎて何を言っているかは聞き取れなかった。
そして水晶玉が光り終えると、男は五分ほど前に見た時と同じように、目を見開き、驚いたような顔を浮かべた。
「まじかよ...」
と、今度は僕にも聞こえるくらいの大きさの声で呟き、そして今度はしっかりと言った。
「翔太、お前、勇者だったのかよ」
【勇者】この言葉を聞いたのは、この世界に来てから二回目な気がするが、なぜか一回目はいつ言われたのかは覚えていなかった。
「翔太、お前本当に召喚されたんだよな?」
男に疑問を投げかけられる。
「はい、そうですけど」
僕の言った言葉に嘘はなかった。
「聞いたことがないぞ、こんなの。召喚された奴が、勇者だなんて」
男はぼそぼとと何か呟いていた。そして何回も勇者という言葉が耳に入る。
男の言っていることはいまいちよく分からないが、男の話から察するに、僕は勇者というやつなのだろう。
勇者、それは前居た世界では架空の職業だったと思う。ゲームやアニメとかでしか聞いたことがなかった。すごく強くてモンスターを倒したりする、者だった。
「勇者って何なんですか?」
僕がそう聞いても、男はまだぼそぼそと何か呟いている。
「じゃあ前の勇者は死んだのか?じゃあ何の関係があったんだ?」
男は今の僕には理解できないことを呟いていた。
「勇者って何なんですか?」
もう一度、先ほどより大きな声でそう尋ねると男はやっとぼそぼそと呟くのを止め、僕に目を合わせた。
「知らなかったのか、勇者を」
「はい、だから勇者って何なんですか?」
前の世界に居た時の勇者のイメージと合っているのか、確かめたかった。
「勇者ってのはな、俺らの次に強いやつだよ。人類千人...ちゃんとした訓練を積めば一万人にも匹敵するほどの力になるな」
スケールが大きくてあまりピンと来なかったが、つまり、今の僕には人間千人ほどの力があるということだろうか。
ここで僕は一つ、疑問に思ったことを口にした。
「でも僕は、この国の兵士と戦ったとき、十人ぐらいが限界でしたよ」
「リミッターみたいなのが掛けられてんだよ、かなり精巧なやつな。ちょっと待ってろ」
男はそう言うと、俺の顔の前に掌を突き出し、目を閉じた。
そしてその状況が三十秒ほど続くと、男は目を開けた。
「これでお前の強さは人間千人分ほどになったってことだ」
男はそう言ったが、僕には全く実感が湧かなかった。身体はムキムキになったとか身長が伸びたとかそういう変化はないし、思いっきり手を握ってみても握力は変わらないように感じる。
「なんか勘違いしているそうだが、別に身体能力が上がったわけじゃないぞ」
「じゃあ一体何が上がったんですか?」
「魔法だな。大きな魔法が作れるようになったし、そして覚悟ができた」
「覚悟?」
「あぁ、そうだ。戦いになったら分かるさ」
気になったが、深く追求することはしなかった。
「それで、お前が会った俺の同族は一体どんな形で城に存在しているんだ?」
俺は正直に城で知ったことを話すと、男は少し怪訝そうな顔をした。それはどこか悲しそうで、そして信じられないといったような顔だった。
「つまり、お前があった俺の同族は、人間の王の下につき、召使のようになっているということなのか?」
「まぁ、そういうことですね」
「まさか、人間の上に立つのではなくて、人間の下に居るような立場になるとはな...少し信じられないが、まぁここで疑っても話が進まないからな。信じよう」
この男からしたら人間の下に着くようなことは信じられないらしい。あの女から聞いた話だと魔族が人間にかなりの恨みを抱いている可能性もあるし、現にこの男はこの国の人間の中で一番トップの王という地位に就いているのだ。
「まぁでもこれからは、俺と翔太は協力関係になるわけだな」
「まぁ、そういうことになるね。ところで名前はなんていうの?」
「あぁ俺か?俺の名前はブリクアート ヒラクエだ。ブリクアートでいいぞ」
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