作戦

あの後は、僕は一つの部屋に案内された。それは前まで居た牢屋みたいな部屋ではなく、そして前の国に居た時のような部屋でもない、すごく豪華な部屋だった。城のベッドを押し込むと、奥まで手が沈んでいく。

床には赤の豪華なカーペットが引かれていた。天井には豪華なシャンデリアが飾られていた。部屋の中にはトイレは風呂なども完備されていて、なんだが落ち着かない、豪華な部屋だった。


でもそんな部屋にも欠点があった。窓がなかったのだ。多分そこに窓があったであろう場所には鉄の板が差し込まれており、そして壁には幾何学的な模様が描かれている。それはまるで魔法陣のようだ。

ブリクアートとは協力するとは言ったものの、自由にさせてもらえるはずはなく、拘束&監視下ということだろう。

部屋の前にはブリクアートの部下がいた。脱出も許されないだろう。


部屋に閉じ込められているため、何もすることができず、ブリクアートが言っていた魔法が強くなっているというのも、魔法が発動できないため試せずにいて、毎日運ばれてくるごはんなどを待っている日々を五日ほど過ごしていると、ドアが開かれて、ブリクアートが中に入ってきた。


「翔太、作戦が決まったぞ」

ブリクアートは入ってきて、ドアが閉まった瞬間そう言いだす。髭はこの前より伸びていた。

作戦会議に僕を呼ばないあたり、だいぶ警戒もしているらしい。まぁ閉じ込められている時点で察していたが。


「作戦開始は五日後だ。しっかり準備しろよ」

作戦内容と、その言葉だけ言い、ブリクアートは去っていった。

僕はブリクアートの去っていく背中を眺め、ドアが閉じた瞬間ドスンとベッドに横たわった。

そしてブリクアートから手渡された紙の束に目を通す。

「これワンチャン僕死ぬんじゃないか?」

そう小さくため息交じりに呟いた。


===


五日が経ち、作戦決行の日がやってきた。

作戦実行者はブリクアートと僕の二人だけだ。ブリクアートの部下たちは連れて行かないらしい。連れて行って得るメリットよりも、連れていくデメリットの方が大きくて足手まといらしい。


僕とブリクアートは二人で大きな部屋に居た。

証明がないのに、部屋はうっすらと明るかった。まるで原子の一つ一つが光源となっているかのような感じだった。

「じゃあ行くぞ。覚悟は決めてるな」

僕はそのブリクアートの言葉に、コクリと頷いて返事を返す。

ブリクアートが両手を合わせると、僕はこの城に飛ばされたときと同じような光に包まれた。


身体に少しの浮遊感が訪れ、あたりを見渡すと屋根にいた。

見たことのある屋根だった。オレンジ色の屋根。訓練していた時に見たことのある屋根だった。

ここは僕が日本から召喚されたときと同じ城だ。

つまりここに僕の親友を殺した元凶がおり、そして魔族がここに居るということだ。

日は暮れかけていて、庭を見渡すと訓練を終えた生徒が続々と城の中に入っていっていた。


「よしっ、ひとまず成功したようだな」

ブリクアートはあんしんして一息ついていた。

「成功して良かったね」

僕はそう言った。

僕はもう一回下をみやる。庭までは優に十メートルを超えていて、もし高所恐怖症なら腰を抜かしそうなほど高かった。

僕たちは会話をそれまでにし、早速作戦を実行に移した。


パッカリと少し緩やかに傾いているオレンジ色の屋根が僕とブリクアートが居る部分だけ、真四角に切られ、ドスンッと下に落ちた。

屋根の下は屋根裏部屋のようになっており、木の板落ちた衝撃が埃が舞い、二人ともせき込んだ。

上を見上げると、真四角の穴が二つ開いており、夕焼けが差し込んでいた。

あそこに窓を付ければ良い天窓になりそうだ。などとどうでもいいことを考えながら僕は立ち上がる。


「部屋は本当に合っているんだろうな?」

ブリクアートは立ち上がりながら、疑わし気な目で僕を見つめながら尋ねる。

「本当だよ。嘘なんて言ってないよ」

僕はブリクアートと出会って何度言ったか分からない言葉を返した。

「本当だといいがな」

ブリクアートはそう小さく呟いた。そもそもこの作戦は僕の証言の信用性ありきなので、もし失敗して見つかってしまえば外交問題にも発展するほどなので、何度も尋ねるのは分かるが、それでもここまで来てまでまた言われるとは思っても思ってもみなかった。


「それじゃあ、移動するか。俺の同族の部屋にへと」

ブリクアートはそう言い、一回瞼を閉じた。そしてゆっくりと瞼を開け

「誰も居ないな」

そう呟いた。

本人曰く、壁や床を挟んでいても十メートル以内ぐらいなら人がいるかどうかは検知できるらしい。僕にもできるかと尋ねると、五年ぐらいかかるかもしれないなと言われ、挫折した。


ブリクアートの魔法により、僕とブリクアートの床は屋根と同じように足元にだけ真四角に床が切られ、下に落下し、屋根裏には二つの真四角の穴ができることになった。


僕たちが落ちたところには僕たちしかいなかった。

そこは簡素なベッドとテーブルと丸椅子、そして木の箪笥が部屋の隅に配置されており、その箪笥の横には防具立てが置かれていたり、剣の鞘が置かれていたりするのでここは白の門番や警護兵の部屋であることが分かる。

そして今はまだ警護中でこの部屋にはいないということか。


ブリクアートは早速ドアの前に立ち、気を張り巡らせてから木のドアを開けた。

部屋を出ていったブリクアートに続き、僕も部屋から出てドアを閉める。

ドアを開けた先には、見慣れた赤い廊下が広がっていた。


ブリクアートは階段の位置や警護が居ないことを把握しているので、素早く廊下を駆けていく。

僕もそれに続いて走っていく。

僕があの魔女みたいな女と出会ったのは、ここから後六階分階段を降りた階にある部屋だった。


最上階であるこの部屋は主に警護兵や門番、メイドなどの部屋がほとんどなので、警護兵はほとんどいないが、ここの三個下の階に移ってからは御用人用の客室などがあるので警護兵の数は必然的に多くなっていた。


「できるだけ、兵士たちは避けて通っていくが、万が一遭遇した場合は戦うことになるから、集中しろよ」

ブリクアートは僕に向けて、小さくそう言葉を吐いた。




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