棺桶
「ねぇ、清隆知らない?」
そう僕に話しかけてきたのはクラスメイトの優香だった。同じクラスだったが話した記憶はあまりない。クラス替え当日ぐらいしかないような気がする。
「知らないけど...どうしかしたのか?」
「いや最近全然姿を見ないから、どうしたのかなって思って。で、戦の時にペアだった翔太なら知ってるかなぁって思って」
「確かにペアだったけど、でもまぁ、将も清隆は無事だって言ってたから」
「ホント!?それは良かった」
僕の報告を聞いて安心したのか、優香はその場から去っていった。
次の日、僕の横で訓練をしている生徒たちを眺めてみるが、そこに清隆の姿は見えなかった。
「よそ見してる場合じゃないぞ!」
兵士の叫び声と共に木刀が飛んでくる。
それを危機一髪、ギリギリで木刀で受け流し、反撃に打って出る。
この頃になると、スパルタ指導のかいもあってか僕の実力もめきめきと上がっていた。
兵士の頬を捉え、そして確かな感触を得た。
兵士が横に薙ぎ倒され、ドサッ、と地面に倒れる音が聞こえる。
兵士は頬を抑え、驚いたような目でこちらを見つめていた。
そして立ち上がってまた木刀を構え、こちらに向かってきた。
朝起きて、いつも通りドアをノックされる。ドアを開けると、そこにはいつもと違う人間が立っていた。立派な髭を生やしている初めて見る男性だった。
「ちょっとこちらに来なさい」
男性に手招きをされ、僕は靴を履き替えて男性についていく。
すれ違うメイドに頭を下げ、五分ほど歩いてうちに紺色の扉の前に連れてこられた。
デカさは普通の扉よりも一回り大きかった。
男性はガチャリと扉を開け、「入れ」と短く指示した。
僕は言われたとおりに中に入る。中に入り切ったその時、後ろの扉がガチャリと閉じられた。
そしてこの部屋には僕と、髭を生やした男性の二人だけとなった。
「何かするんですか?」
「まぁちょっとな。ついてこい」
男性が歩き出すのにつれて、僕も男性についていく。
そして「とまれ」と指示を出され、僕は従う。
周りを見る。床には星型のマークが僕を囲うように書かれていた。
「いったい何を?」
その瞬間、突如体が重くなる。意識が飛びそうになる。思わずしりもちをついてしまった。
「君は強すぎたんだ。耐性がありすぎた。だからこうなるんだよ」
「いったい何を言って?」
「君は今からロボットになるんだ。自我を持たない、私たちのために戦うロボットとし。本当はしたくなかったんだけどね 」
「どういうことですか?」
「つまり...あの戦場で死んだ仲間のように...名前は清隆と言ったか。まぁなんでもいいが、その清隆みたいに死ぬまで我が国のために戦ってもらうということだよ」
僕はその男性の言葉に違和感を覚える。
「清隆が...死んだ?」
「これ言ってはいけなかったのか?」
体の負担が一層増える。
ついには這いずる態勢にまでなってしまった。
僕は両手を必死に動かしながら前に進んで星形のマークの輪から脱出するために動いていた。側頭部に痛みが走る。
「君は化け物なのか?」
男性が驚いたような目でこちらを見下ろしていた。
一歩、また前に進んだ時、目線の下には赤い液体が付いたような跡があった。
僕がそれをまじまじ見つめていると、それに気が付いたのか男性が反応する。
「あぁ、あの馬鹿の死体をここで燃やした時の血がまだついていたのか」
頭がこんがらがる。あの馬鹿とは一体何なんだ?その前に、清隆は死んだとは何なんだ?
優香と話した時の記憶がよみがえってくる。
「ねぇ、清隆知らない?」「全然最近姿を見ないから」
あの男が言ったいた言葉と、優香が言っていた言葉がリンクする。
だが、それを結び付けるには、大きな壁があった。
(じゃあなぜ将は僕に嘘をついたんだ?)
僕が思考を巡らせていると、男性が余計なことを口ずさんだ。
「あいつも不運よな。あそこに召喚された王の頭を叩いたばかりに」
記憶がよみがえってくる。いや、もともと覚えていたはずなのになぜか思い出さないようにしていた記憶が思い出される。
僕の目の前で殺された、親友の姿が脳裏に浮かび上がってくる。?なぜ将は清隆の安否について嘘をついたんだ?なんで兵士の態度がいきなり変わったんだ?
なぜ、僕は大切な親友のことを忘れようとしていたんだ?
僕は思い出したかのようにポケットに手を突っ込む。そこには湿っている紙が入っていた。
僕はそれを取り、紙を開く。
お父さんへ。
絶対に帰ってきてね。待ってるよ。お父さんが帰ってきたら、お母さんが、世界で一番おいしいシチューを作ってくれるらしいからね。絶対に帰ってきて一緒に食べようね!死んだらだめだよ!
アッシュティーニより
戦場で読んだ記憶がある手紙だった。
あの時、清隆はどんな状況だった。
「グアァァァ」
清隆の悲鳴が脳裏で再生される。
だが、それ以降の記憶がない。なぜこうも大切な時の記憶が抜け落ちているんだ?何かが、おかしい。右肩に、痛み?
そう思ったとき、手に持っていた手紙が男性によって奪われた。
「なんだこれは?...敵兵士の手紙か。いらんな」
男性はそれだけ言い、手紙を丸めてぽいとゆけへと放り投げた。
「さて、終わりだ。可哀そうなやつめ」
なぜ側頭部に痛みが、兵士との模擬戦でも側頭部にダメージを負った記憶はない。
男性の手から煙が上がっている。見たことのあるような、煙だった。
本能がそれを拒絶する。あれは吸ってはいけないと、警告するのだ。男性がその煙を僕に近づけた時、僕はとっさに手から炎を放つ。
兵士に教えてもらった魔法だ。男性はそれを危なげなく避けた。
「もうそれほどの魔法が使えるとは、末恐ろしいな」
真相を確かめたかった。
なぜ将が嘘をついたのか。なぜ、僕は大事なことを忘れようとしていたのか。
だから、ここから逃げないと、と思った。
右手を右下に向けて、さっきと同じ魔法を放つ。
「いったい何を?」
そしてその瞬間、体の重みから解放された。
僕はとっさに立ち上がり、扉の方へと進む。
「魔法陣の一つを消したのか」
扉を蹴破る。バァーンと大きな音がした。
赤いじゅうたんが引かれている廊下を駆ける。目指している場所は、ただ一つ。
その時、見覚えのある顔を見つけた。
将だった。
ここで会うのはまずい。直感的にそう思う。
「そいつを捕まえてください」
将は一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに事態を察知したのか腰に携えてある剣を抜き、そしてその剣を廊下に置いて、手に取ったのは剣の鞘だった。
鞘による攻撃が繰り返される。
一つ、一つギリギリのところで回避していく。
将の鞘が地面に着いた。その瞬間、将の手に手刀を入れる。
鞘が落とされる。それを回収するとぼくは将の脇を何とか潜り抜けた。
歩いていく。外は雨だった。僕は雨に濡れながら進んでいく。そしてある場所に来た。
ギギギギギとなる音の扉を開けて、中にへと入る。
そこには、数百個ほどの棺桶が積まれていた。
あの日みた、長方形の箱、あれは棺桶だった。
そしてあの日らへんで、死んだ人物は、もっと正確に言うとここに召喚された人物で、あの男性の話を聞くには一人しかいない。
一番手前に置かれてある棺桶二つのうち、一つを開ける。
中には、骨と制服が置かれていた。
わが校の決まりで、制服の裏には名前を書くことが決められている。
僕は意を決して制服を裏返すと、そこには清隆という文字が確認できた。
「じゃあ、こっちは...」
僕は隣にある棺桶の蓋を開ける。そこには、胴体と頭が離れている白骨死体が確認できた。
こっちの棺桶にも制服が置かれている。
制服を意を決して裏返すと、そこには何度も読んだことがある。親友の名前が書かれていた。
一瞬、視線を感じたように思い、振り返るが誰も居なかった。
僕はもう一度向き直った。そして全てを鮮明に思い出していく。
こいつは、親友は...
殺されたんだ。この国の、やつらに。
頭に痛みが走る。一分ほど、頭を押さえていると、痛みが引いていった。
なぜ僕が、こんな奴らのために頑張っていたんだ?
親友を殺した奴らのために。
それは、記憶が無くなる前の意思と一致した。
「とりあえず、ここから逃げないとな」
僕は棺桶の蓋を閉じ、部屋から飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます