帰還

僕たちは、魔法陣のような模様が描かれている部屋にへとまた戻ってきていた。

数人の兵士が慌てたように近づいてくる。

「ブリクアート様!お体は大丈夫でしょうか?」

「あぁ、俺は何ともないよ。それよりもこいつを見てやってくれ」

俺はわき腹を未だに抱えていた。未だに居たい。一体どんな力で抱えられていたんだ。僕。


「お前が強く抱えたせいだろ」

「翔太が貧弱なだけだよ」

「いや強く抱えすぎなんだって」

僕たちはそう言いあって、そしてお互いに笑いがこみあげてきて、笑った。

さっきまでの緊張感が一気に解けたことによる、安心感からだろか。


兵士たちは急いでタンカのようなものを持ってきて、僕を運んでいく。

僕は未だにあまり見たことのない廊下を進んで、医務室のようなところに連れてこられた。


医者に診てもらった結果、あばらに一本ひびが入っていた。

そりゃいてぇよ。泣きたかったもん。


ベッドで寝転がっていると、ブリクアートが顔を出してきた。

「おっ、大丈夫か?」

「あばらが一本ひび入ってたよ」

「もっとカルシウム採れよ」

「そうするよ」

そしてまた、二人とも笑いがこみあげてきたのか、笑いあった。

ブリクアートとの距離が、大分近づいたような気がする。


あれから一週間が経った。

僕はベッドですることもなく眠って天井を見ていただけだが、ブリクアート並びこの国は激動を迎えているらしい。

カリントンの居る国、キーカートゥンとの関係は劣悪なものになっていっていた。

もともと敵対国だったのに、今回の僕たちのヘマのせいで戦争は激化しそうだ。


やったのは賊という噂を流されると思っていたが、そうではなく、ブリクアートの居る国、サバティストンの国の暗殺者が王の命を狙ったというものになっていた。

そして、その暗殺者から魔族の魔力が検知されたということだ。


ブリクアートは事実無根だと反論するが、まぁこちら下手に出るかかしないと関係は元には戻らないだろうが、下手に出ることはこの国の国民が許さないだろう。

つまり、キーカートゥンとの戦争も激化しそうで、キーカートゥンと同盟国である国ともまた、戦争が激化しそうである。


反王政派が街頭で、王は魔族を匿っていると頑張って演説をしている。

それを取り抑えたせいで、火に油を注いでしまったのか、演説は活発になってしまった。

それでもその演説を信じる者はあまりいないが、もしこれ以上戦争の状況が悪くなっていくなら、内政は混乱していくだろう。


そんな話を一通り、ブリクアートから聞き終え、僕は一つ、ブリクアートに聞こえるぐらいの声で言う。

「すごくやばいんじゃない?」

「あぁ、やばい、そこで一つ、怪しげな組織を見つけたんだ」

「見つけた?いきなりなんでそんな組織が...」

「もともと前から目を付けてたんだが、一昨日そこに居るスパイを見つけてな。今まで居るか居ないかで半々だったが、確信に変わったんだよ」

「で、その組織がどうしたんだ?今の状況に関係ないだろ」

「それがあるんだよ」


ブリクアートは一つ、息を吐いて溜めてから言った。

「その組織のトップは魔族だと思うんだよ」

それを聞き、僕は驚きの表情を浮かべる。

そして一つの疑問をブリクアートにぶつける。

「それじゃあ、魔族はカリントンとブリクアート以外にも居るのか?」

「いや、たぶんカリントンだろうな」

「なんでわかるんだよ」

「そのスパイから魔族しかしらない模様と、カリントンの魔力の反応がするんだよ」


「で、そのスパイは今どうしてるの?」

「尋問しても、洗脳魔法掛けても何も吐かないから今は土に埋まってるぞ」

墓は立てるのか?と聞こうと思ったが、どうせ返ってくる答えが分かるので聞かないで置いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る