僕は、内心ではすごく怯えていた。

勝てないと心の奥底で思ってるのだろうか。

魔族はとてつもない戦闘力を持つと聞く。それは勇者である僕を上回るほどに。

それが三体だ。勝てるはずがない。


「俺たちは三人だ。勝てると思ってるのか?幼なじみだ。今からでも遅くない。カリントンにも頼んでやるから」

「勘違いしてるけどな。この勇者が落ちこぼれのお前たちに負けるとでも」

「得意な挑発か?そうやって毎日カリントンに遊んで貰ってたもんなぁ」

言い合うブリクアートと男の間には、火花がバチバチとなっていた気がした。


「話を逸らすな。結局は勝てないんだ」

「馬鹿だなぁ。ブリクアート、まだ気付いてなかったのか」

もう一人の金髪の男は一息吸い、間を開けてから言った。

「お前の両親を殺したのは、俺たちが鍛えたやつだよ」

ブリクアートの目がカッと開かれる。

その目は、驚いたような、怒ったような、信じられないというような、そんな目をしていた。


「なぜお前たちの部下が、俺の両親を殺す必要があるんだよ」

「それがカリントンの命令だからだよ」

「なぜそんなことをする必要があったのかって言うのを聞いてんだよ」

ブリクアートの語気が、だんだんと強くなっていく。

殺意が、身近に感じられる。


「きっと必要な犠牲だったんだよ」

心の中で、何かが無くなった気がした。

切れた...というべきなのだろうか。

恐怖というものが無くなってくる。

その代わりに湧いてくるのは、前に居る魔族たちへの哀れみと、カリントンに対する怒りだ。

こいつらも、学校の生徒たちと同じなんだろう。


「どうしようもないクズなんだな。あいつ」

口から洩れていた。

心底侮辱したような口調だっただろう。

「誰のことを言ってるんだ?」

その僕の言葉を聞いたのであろう男が、僕に対して質問してくる。

「カリントンだよ。それ以外に誰が居るんだ」

「戯言を吐いても意味ないぞ。俺たちはそんな挑発にも乗らない」


「挑発をしたつもりなんてないよ。ただ、心の底からそう思っただけ」

「尊敬している人をそんなに言われると、少しカチンと来るな」

「所詮私たちに劣る人間のくせにな」

その言葉に僕は、妙な苛立ちを覚えた。

別に人間が魔族より優れていると思ってるからそういう理由じゃない。

人間は愚かだという言葉を聞けば、それも一理あるとすら思う。

でも、こいつらにこう言われると、親友が、殺されたクラスメイトが馬鹿にされたような気がして、腹が立つ。

自分でも、性格が悪いと思いながら、僕は言葉を吐いた。


「そんな人間に負けた種族は、どれだけ愚かなんだろうな」

ブリクアートは怒るだろうか。それが怖くて隣を見れない。でも、すっきりした気分にはなった。


「死ね」

短く黒髪の男の一人が言い、僕に向かってくる。

脳では反応しきれない速さの攻撃を、脊髄反射で危機一髪回避した。

後ろにはもう一人の男が回っている。

そいつが踵を振り上げた。脳天直下コースだ。

その攻撃を、ブリクアートが危機一髪のところで防いでくれる。

二人の男は、一旦僕たちから距離を取った。


「許さねぇからな。さっきの言葉」

「ごめん。謝る」

小さく僕たちは会話を交わした。


臥薪嘗胆。復讐のためにどんな苦労も惜しまないこと。

ここにいる全員が、この言葉に当てはまるだろう。

人間を恨んだやつ。カリントンを恨んだやつ。


努力した時間ではこちらの方が少ないだろう。

でも努力した時間と強さは、比例しなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕に勇者渡されても @kekumie

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る