第9話




 変な夢を見た。土砂降りの中ただ一人佇んでいるそんな夢。ボクの寝起きは最悪だ。


 「はぁ……」


 ため息をつけざるを得ない。髪をわしゃわしゃ掻きつつ起き上がり鏡台の前に座る。


 「おはよう眞琴。ひどい顔してるけど」

 「ん〜おはよ〜莉奈。いやね……変な夢を見ちゃったもんだからなんかね」

 「ふぅんなるほどね?ちゃんと寝れた……わけじゃないわね。髪整える?」

 「ん、お願い」


 ボクはただ動かず鏡を見る。ボクの髪を莉奈がそっと触る。そして撫でるように梳く。優しい手つきで力が自然と抜ける。目を閉じ、身を莉奈に預ける。


 「できたわよ」

 「ん〜ありがと」


 ゆっくり目を開け、鏡を見る。莉奈の手腕すごっと思った。サラッサラなのだ。正直感心以上で、知らずボクは唇を左右に綻ばせた。


 「気に入ってくれて嬉しいわ」

 「え、顔に出てた?」

 「うん、そりゃあもう」


 ボクは困惑して莉奈はその様子を見ながらくすくす笑う。


 「ま、まぁいいや。行こ」

 「はぁ〜い」


 寮の部屋を二人で出てそのまま向かう。空は少しどんよりとしていた。





 骨がひしゃげる音、何かが崩れるような音、荒い息が部屋から聞こえる。私は部屋の外で成り行きを見ていた。血溜まりが大きくなっていく。それに追随するように鉄のようなそんな臭いが私の鼻腔をツンとさしていく。終わったかなと思い、かちゃとドアノブを回す。勿論手袋をつけている。ドアを開け中に入る。


 「終わりましたか?」

 「……はい」

 「気は晴れましたか?」


 私の問いに頷く男性。私は微笑みを浮かべ、スッと銃を男性に向ける。男性はソレを見ても動揺せず、ただ受け入れている。


 「では、貴方を救済執行します。よろしいですね?」

 「お願いします」


 男性は目を閉じ体を私に向ける。私は銃口を彼の頭に合わせる。


 「神のご加護があらんことを」


 そう言ったのち銃声が鳴る。それとほぼ同時に男性が私に向かうように倒れていく。私は半歩後ろに後退しなるべく血潮を浴びないようにする。鉄の臭いが強くなってきた。けれど気にする必要はない。ただ、あの頃のようなものを想起させる。不愉快な気分だ。


 「さよなら」


 銃をしまいながらも二つの屍体を燃やしていく。そして私は部屋を退室し、家屋を出る。その後にその家は轟々と燃え盛る火達磨ひだるまになった。


 「私はきっと後悔しているのかしら。あんな夢を見るんだもの」


 どんよりとした空を見つつそう零す。人前で人としての感情が出なくなった。あの頃で壊れてしまったのだ。あの人たちが壊れていく様子痛みに耐える顔は私の心を乱すに十分だった。そして私は「逃げた」。あの人たちが死んでいく様を見たくなくないから。いや、もうすでに死んでいたのかもしれない。あの人たちの体から何かが飛んでいくようなものが見えたのだから。


 「……堂々巡りね。辞めだわ」


 首を振り歩くのを再開する。もう後には戻れないのだ。だから後悔しても遅いのだから。


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