第13話




 クロード家の邸宅前に馬車を停め、青年に手を引かれ邸宅の中に入る。玄関前にはジークさんが立っていた。


 「お待ちしておりました」

 「どうしてくると?」


 青年の手を軽く握ったままジークさんを見据える。ジークさんは笑みを浮かべて私を見る。


 「アイリス嬢からお伺い致したもので」


 その一言に私は納得した。前に彼女に言ったのを思い出した。そのツテだろう。


 「なるほど……あぁ、ありがとう冒険者様」


 そっと手を離して微笑みを浮かべる。青年は照れ笑いを浮かべつつも頷く。


 「あのお嬢様からはあなた様を匿うよう頼まれました。そちらで構いませんか?」

 「……一つだけお願いがあるんですが」


 それを聞いて私は少し逡巡しましたがおそらく聞き入れてもらえると思い提案を口にする。ジークさんは目を見開き、驚くが頷いた。


 「その決意に尊重いたします。手配を進めますのでそれまではこちらに滞在してくださいませ」

 「ありがとうジーク様」


 私はジークさんに礼を述べる。青年をどうしようとチラと目を向ける。


 「彼も一緒で構いませんよ」


 私の目線で察したのだろう。そう言った。私は言は発しなかったが、ジークさんは頷くため本当なのだろう。


 「良かったですね冒険者様」

 「う、うん」


 あぁ、なんと運が良いことだろう。これはいい門出になりそうだ。私と青年はジークさんに促されるまま中に入っていく。そしてその数日後に私はシスターとなった。



 「ですが、本当によろしいのですが?あちらの国にお戻りになるなんて」

 「えぇ、いいんですよ。そうでなくては私の目的は達することはないですから」


 シスター服を着用して、私は再度確認するジークさんを見て微笑む。御者は青年に任せることになる。


 「ですが、名を変えたはいいですが、顔はどうするのです?」

 「決まってるじゃないですか。こうするんですよ」


 私は両手で顔を覆う。数秒経った後に顔から両手を離す。


 「な、なんと………作り変えたのですか………」

 「はい。ふふっ、これで正真正銘新たな人生の始まりですね」


 私は馬車の前でくるりと体を回転しながらにこやかに微笑む。あぁ、狂っているだろう。壊れているだろう。そう。確かに私は壊れている。人として笑えることはもうないだろう。確かにあの日に眞琴は死んだ。代わりに私が生まれたのだ。ただ一つの目的のために。


 「さぁ、行きましょうか冒険者様。あの国に連れて行ってくださいな。そのあとは自由になさってくださって宜しいですよ」


 馬車に乗り、もう会えないだろうジークさんを見、お辞儀する。馬車は動き出した。もう後戻りはできない。いや、するつもりはない。こうすることを決めた時点で私はきっと破滅しか残ってないのだからーーーーーーーーーー。


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