第3話
異世界に召喚されはや三ヶ月が経過した。それぞれの活躍?を表すとするなら、耀樹は剣士としてそれこそ魔物退治などの依頼を幾度となく達成している。聖人は守護者という一見どんなものかわからないのだが、彼曰く、盾を使った防御職だという。しかし、聖人はその職業をそれなりの時間を要したけれど耀樹と共に遺憾なく発揮している。巷では、難攻不落の砦だとか持て囃されているみたい。莉奈は舞踏家で、踊り子だという。彼女の職業はどうやら、支援職で踊っていれば士気が高揚するのだという。そしてボクは………賢者だ。その言葉を聞いた時は、かなり疑問に思った。魔法職……ということはわかるのだけれど、どのようなことができるのかさっぱり理解ができなかったのだ。
だが、ウェンドリア大国が国有している書庫にて魔法、魔術、錬金術、錬成、製薬、魔導、黒魔術etc.を読んでいくと不思議と読んでいるものの事柄を理解できたのだ。それを自覚したのは、書庫に通い詰めて二週間が経過してからだ。その際、お目付役としてついてきていた人の目を盗み、こっそりと禁書庫の方へと入り、そこに収められた本を読んだ。そこにはこう記されていた。
『ーーーーーーーーー賢者は不幸を呼ぶ』
と。その一文を読んだ時、寒気がした。嫌な予感とでもいえばいいだろう。何かしらのことがこれから起こるのではないかと。ボクは、その「何か」に備えるようになった。それからというもの、城に出向いた際に向けられる視線。ボクは耀樹達ほどいい活躍を確かに見せてはいない。その日もいつもの如く耀樹達といた。
「眞琴?どうかしたの?」
不意に隣にいる莉奈が耳打ちしてくる。いつものボクとは違った様子だからそう声をかけてきたのだろう。ボクは莉奈を横目で見つめて苦笑する。
「……この視線が少し………嫌なんだ」
莉奈の目にはボクの顔はどう写ったのかはわからない。けれど、心配そうな表情でそっと背中を撫でてきた。大丈夫。何故かそういってくれている気がしたのはきっと気のせいではないだろう。
「お待たせして申し訳ない」
そんな時にこの国の宰相をしているのだというグリューンさんがボク達の前に姿を現し、声をかけてくる。
「いえ、そこまで待ってませんから大丈夫ですよ」
いつもの如く聖人が返答する。そこからはボク自身興味のない話だったからあまり覚えていないけれど、宰相に頼まれたのは第二皇女殿下のアイリスさんを隣国のハインツ王国が設立した学園まで護衛して欲しいのだという。アイリスさんは御歳15歳で成人を果たしてはいるが、そこから三年間は学園でさらに基礎技術等を学ばせた上で、本人の希望によって決まるのだという。聖人はその依頼を受け、三日後に出立するとのこと。これはあまり外に出たくないボクも同行せざるを得ないようで、ボクは少し渋ったけれどアイリスさんとは話してて楽しいし何より聖人が言うにはそのままアイリスさんと共に学園で勉学に励んでいいのだという。
「先ほどから窓を眺めておいでですけど、外がお気になさるのですか?マコトちゃん」
その移動(護衛)の豪奢な馬車の中でのこと。目前で座るボクとあまり変わらない華奢な体躯のアイリスさんをチラッと見る。
「ううん、そうじゃないの。ただ、馬車に乗るのが初めてだからこの揺れがあまり慣れなくて」
眉を下げ、苦笑する。それは事実だ。けれど半分は、あの国から少しだけ距離を置けて多少なりとも安堵しているといったほうがいいだろう。
「そうでしたの。そういえばいつも書庫に赴いていらっしゃたときは徒歩でしたわよね?」
「うん。だって馬車を使うほど遠くなかったしね。それに街並みを眺めながらいろんな人たちの喧騒を聞いて歩くって意外と面白いから」
「ふふっ。そのようなことをおっしゃるなんてマコトちゃんは変わっているのね」
「えぇ〜そうかなぁ」
この世界に来てからだいぶ経つけど、こっちの世界で唯一馴染めるのはアイリスさんかもしれないと思ったのはみんなにも内緒だ。アイリスさんはあまり踏み込んではこない。多少の遠慮をしながらも仲良くなりたいと歩み寄ってきてくれるのだ。あまり自分を離さないボクにとってはだいぶどころかかなり楽だった。
「もう少しでハインツ王国領に入るよ三人とも」
御者に座り、耀樹と共に馬を駆る聖人が声をかけてくる。ボクの傍で気づいたらなむっていた莉奈が目をさまして、寝起き声で応じる。
これから三年間はアイリスさんと耀樹達と学園を共にする。そこでどんなことになるのかはまだわからない。けれど悪いことにはならないといいなぁと馬車の窓からほんの少しだけ雲のある青い空を眺めつつ、ハインツ王国領並びにハインツ王国へと入っていった。
「いかがいたしましょうかコウヴェル侯爵」
「どうもこうもないだろう。あの異世界から来たというものたちを引きこまねばなるまい」
どこかの一室でそう会話する二人の男性。そのうちの一人が顎の白い髭をさすりながら、こうこぼした。
「もしできなかった場合は、処罰しろ」
「よろしいのですか?」
「構わん。どうせ、もう一度召喚ができるのだからね」
「はっ。ではそのように」
一人は恭しく腰を曲げ颯爽と部屋を出ていく。残った男は口角をあげ、その目は欲に溺れていた。
「マリアくん」
「はい、なんでしょう神父様」
細かな埃の舞う静かな空間。そこは教会だった。
「新たに懺悔する者が来ようとしている。対応は頼んだよ」
「はい、お任せください。神父様はどうなさるのですか?」
「何、私は成り行きを見守っているとしよう。頑張りなさいマリアくん」
マリアと呼ばれしシスターは洗練された所作でお辞儀し、その場を後にした。そして神父は、後ろを向き大きな十字架の後ろのステンドグラスを見ながらもこう呟いた。
「時は動き出した。精々私を楽しませてくれ」
と。
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