第6話
魔術の授業中教室に入ってきた教師に呼び出され職員室とは違う恐らく学園長室……または応接室?かはわからないけれどそんな少し豪奢な部屋に連れてこられてくること数分。一人の壮年の男性が入って来る。人との会話は聖人がしていたものだから変に身構えてしまう。
「初めましてマコト・タマズサ様。
ボクの名前をすでに知っている?ということはこの人はみんなの力を何かしらの理由で欲しい……と考えた方が良さそうかな。
「よ、よろしく……お願いします」
考えることは出来れど、人と……特に見知らぬ人との会話はしたくないと思っているものだから、言い淀んだ形になってしまった。
「やはり会話は緊張なさいますか?」
「……!……えぇ、まぁ」
やはり……か。やっぱりこの人はボクの素性を調べている、と断言してもいいね。
「そ、れで?何か御用でもあるんですか?ボ……私、魔術の授業中だったので…」
「これはタイミングの悪いことをしてしまいましたな。いやはや、申し訳ありませんマコト様」
恭しく頭を下げてくる。ボクの抱くこの人の印象はいい人ではあるけれど、どこかいけすかないとこがあって、妙に信頼が置けないことだ。ボクは内心でこの人の信頼度をマイナスに近いプラスの方へと動かす。
「復習は一応できます、から別にいいんですけれど……」
「あぁ、御用でしたな。何、単なる勧誘……とおっしゃればよろしいでしょうな」
「……勧誘?」
「はい。私の主であるコウヴェル侯爵様が貴方様方をお求めでいるのですよ」
ボクはひっそりと眉根を寄せる。
「と、言いますと?」
「えぇ、こちらの学園をご卒業でも構いませんがぜひ我がコウヴェル・ヴァン・クロード家のお抱えになって欲しいのですよ。特に賢者と噂されるマコト様」
そう。そういうこと。要は引き抜きか。ボクは表情を動かすことのないよう留意しながらも頭を動かす。コウヴェル・ヴァン・クロード……その家がどこの国の貴族なのかは聞き及びはないけれど、どうしたものかなぁ。
「その……コウヴェル……家って、どこの国の貴族なのか教えてくれませんか?」
再度言うがボクは人と会話するのが苦手だ。けれど「演じる」ことは得意だ。故にここは演じよう。
「そうですね……貴方様方はウェンドリア大国から召喚なされた。そして今はその隣国であるハインツ王国にいらっしゃいます。こちらは互いに同盟を結んでいらっしゃいます。友好的だと言えばよろしいでしょう。クロード家はそのウェンドリア大国とは些か友好ではいらっしゃらない国の貴族でございます」
なるほど。ボクたち異世界から召喚された人はそれこそ兵器になりかねない。確かにその認識は間違ってはいないだろう。それも加味しての……か。
「どうでしょうか。お聞きいただけますかな?」
「……今は嫌です。あ、勿論理由はありますよ」
「えぇ、お聞きしましょう」
すぅ〜と深呼吸をして自分の考えていたことを口に出す。
「……どうして本人が来ないんです?」
「え?」
「そういったお願い?とかは本人がするものだと思うんです。それはどこの世界でも変わらないマナーだと思いますから。だから……今度は本人のコウヴェル……さんが直々に言いにきてください。勿論打算的なことはないようにお願いします。い、今の貴方の顔や態度を見る限り……信用が置けないです」
目をふせ、口を閉ざす。
「……左様ですか。いやはやマコト様は存外に鋭いようですね。ですが、ご忠告をしましょう。コウヴェル様の意に敵わないことは対処を命じられておりますので」
だと思った。
「……わかり、ました。その時はあの三人には迷惑をかけないでください。かけたら貴方含めて呪ってしまいそうになるので」
ボクは立ち上がり、そう言って部屋を出る。
「困りましたなぁ……こうまで感覚が鋭いとは……いやはや世界は広いですな」
その後に老執事のジークは退室した。ボクは内心、面倒なことが起こらなければいいのだけれどと祈りながら。ジークは少なからず畏怖の念を抱きながら。
「どうかしたのかいマリアくん」
「あ……神父様……いえ、ただ物思いに耽っていただけですよ」
礼拝堂の祭壇に建てられている十字架を見上げ私は過去の出来事を見ていた。そんな時に後ろから声をかけられ振り向く。私はアッとした顔をした後に微笑みを浮かべ軽く首を振るう。
「そうかい……まぁなんだっていいんだけれどね」
神父様はそういい、私の隣に立つ。
「………次の方は?」
「依頼だったよ」
それを聞き、なるほど頭を動かす方かと理解する。
「なんなりと」
「これだよ」
一つの書類を渡される。私はその書類ーーー依頼書と細かなものの二つだがーーーをさっと読んで頷く。
「おまかせを」
「うん、任せたよ」
それだけを言い、ゆったりとした面持ちで去っていく神父様。私はそれを見送り、そっとお辞儀をする。体を起こし、礼拝堂を後にする。依頼をこなすために。救済を執行するために。
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