第8話
結局あれ以降事件という事件は起きなかった。ただ、ボクと耀樹の距離は以前よりも近くはなった……とは思う。けど別に付き合ったというわけでもない。ボクは耀樹とそう言った関係になるつもりはない。今のこの付かず離れずの位置が居心地がいいからだ。
「やっぱりすげぇよなぁ賢者様」
ふと実習中にそんな声が聞こえてきた。本来魔法や魔術というのは一種類しか使えずどちらも杖を用いるという。そして魔術よりも魔法の方が魔力消費量が多いため、魔術を使う方が好まれる……らしい。そしてなぜそんなことを言われたかというと杖を使わずに魔術と魔法を程よく織り交ぜながら行使しているからだ。だがまぁみんなは魔術だと思ってるようだけど。
「………アクアスピア」
瞬間、ボクの体の周りに水が生まれボクを囲うように登っていったかと思うと目前に出している右手にその水たちが細く長いそれこそ槍の形状を模した水柱が生まれ右手から射出される。そして寸分違わず的のど真ん中を射抜いた。
数多くある魔術の中でこれを選んだのはたとえ魔術行使をミスったとしてもずぶ濡れになるのはボクだけだからという安易なものだ。
「相変わらずすごいわね眞琴」
「ふぅ〜……え〜そう?ただボクは本で読んだものを実践しただけなんだけど」
「それがすごいってことよ」
きっとそれは『賢者』だからだろう。ボクの思う賢者ってのはきっとその道の最奥、そのどれもを極めたものが『賢者』だと思ってる。
「他にも使えるのよね?」
「うん使えるよ。回復系も任せてって感じかな」
少し目線を右上にむけ、考えるそぶりをしながらも言い微笑む。
「……でも魔法を使うのはやめた方がいいわよ?」
「え、どうして?」
ボクはキョトンとすると莉奈は少しだけ顔を横にずらして見なさいと顔を振る。するとどうだろう。男性陣がボクを凝視してる。なんでだろ。
「まだわからないの?自分の制服見てみなさいよ」
そうつぶやかれ顔を下に向けると、濡れていた。薄く下着のラインが見えていた。
「へぁっ!?ちょ、何これ!?」
「い、いいから乾かしなさい!ほら!そこの男子はいつまでも見ない!アイリスとダイヤはなるべく眞琴の姿を見せないようにして!」
こんな状態になって焦るボクを横目に莉奈が指示を飛ばす。男性陣はこの授業の担任も含まれるため体ごと向いておらずボクはワタワタと自身の服に魔術を使う。流石に恥ずかしい。下着は今日は明るい色のため少しだけ見えていたし何より濡れていたことに気づかなかった。するとボクの耳許にこんな声が届いた。
『ちょっとしたお遊びだよ〜』
と。ボクは内心ふざけるな!と思ったが、魔法を行使したのは自分だ。水の精はそれは楽しむことだろう。
「も、もう大丈夫だよ……」
きっと気恥ずかしさで顔は少し赤いだろう。それでも「あはは」と苦笑する。
「ほんと眞琴は冷静なのかただの天然なのかわからなくなってくるわ……」
「それはごめん」
「でも、服が乾いて良かったですわ」
「男の方たちは随分と見ておりましたけどね」
まぁそれは仕方ないとは思う。思春期だしね。
「これからは少し気をつけるよ」
ため息を漏らしつつそう言わざるを得なかった。
ここのところほんとに懐かしいものばかり見る。感情を無くしてしまったけれど、私の記憶はそんな記憶を覚えていたのだろう。いやそれこそもうそろそろ何か起こってしまうのだろうか。それは……面白いことになって欲しいものではある。
「起きたかいマリアくん」
そんな時に声がかけられる。
「し、神父様……なるほど私は寝ておられたのですね」
立ち上がり、伸びをすれば背中や腰がバキバキと鳴った。
「昨日は寝ていなかったのかい?」
「えぇ、まぁ」
私は頷く。
「夜更かしはほどほどに」
「はい」
恭しく会釈する。
「あぁ、先程ね貴族の人がきたよ。クロード家の人らしいよ」
「左様ですか。わかりました。後ほど私の方から向かいます」
「伝えとくよ。それとこれは今日の依頼だよ。頼んだよ」
「おまかせを」
私はいつも通り書類を受け取り礼拝堂を後にする。
「神のご加護を」
そんな私の背にそう声をかけられる。私は薄く笑ってしまった。神父様も随分と冗談を言うものだと。私はついこう漏らしてしまう。
「神なんて信じていないでしょうに」
と。
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