第15話
ウェンドリア大国の教会にシスターとなってから二ヶ月。漸く最初の依頼が来た。私は懺悔室の一室に入って待っていれば一人の人間が入ってくる。机の傍らに手持ちの燭台を置いてその人物が口を開くまで待つ。
「………あの……聞いていただきたいことがあるんですけど……」
「はい、なんでしょう?」
声も作りながらも続きを促す。
「……この間なんですけれどこのようなものを見つけてしまいまして……」
その処置を頼みたい……といった内容だった。ちょうど木枠の真ん中下部に横に穴があるものであるためそこから物を受け取る。書類のようだった。ペラペラと捲る。
「……なるほど。こういうことですか」
パタッと書類を置く。この書類は全て汚職だ。ある貴族の。それもウェンドリアを支えるに等しい階級の、だ。私は人知れずほくそ笑んだ。なぜならこの貴族は私たちを捨てたと言ってもいい貴族の一人だからだ。復讐の第一歩と言えるだろう。
「ちなみに、こちらはどこでお見つけしましたか?」
「……ご主人様ご自身から頼まれたのですが……なかなか捨てることもできず……」
「今までお持ちしていたと……?」
木枠の向こうでその人物は頷いた素振りにある衣擦れの音が聞こえる。
「……ではこの後のことは私に任せてもよろしいということで?」
「は、はいお願いします」
「畏まりました。貴方に神のご加護があらんことを」
私はそう告げ、燭台と書類を持ち、懺悔室を後にする。その時の私は人知れず口を左右に割れていた。
「お邪魔致します、ハイライン様」
「おぉ〜ようこそいらっしゃいましたなシスター殿」
声音も勿論変えて
「先日、そちらの執事様が教会にお祈りに来ましたのでそちらの御礼も含めてお邪魔させていただきました」
「なんと。それはそれは嬉しい限りですなぁ。このようなお美しい方が来られるだなんて喜ばしいですよ」
あぁ、なんて醜い様相だろう。この壮年の男は人に媚びるようなそのような笑みを浮かべていた。私は内心ハイラインを卑下する。
「あぁ、どうぞどうぞ。こちらは良い茶葉を使った紅茶ですよ。お飲みくだされ」
「えぇ、ぜひいただきますね」
促されるまま私は微笑みを浮かべつつも紅茶の入ったカップを乗せたソーサーを持ち、カップに指を這わせ、持ち上げたのち唇をつける。一口飲んではソーサーごと置いてただ一言。
「美味しいですね」
勿論社交辞令だ。紅茶は確かに私は好きだが、この紅茶は美味しいとは感じられなかった。が、顔には出さず微笑みを絶やさずに言う。
「いやはや、喜んでいただけて良かったですよ」
そこからは軽く話をしていた。そこから更に数分が経過した頃。
「………?」
突然視界が揺らいだように感じた。私は訝しみつつ顔を覆う。視界が定まらない。どうやら平衡感覚が狂っているようだ。そうだとわかったのはすでにソファに倒れていた。揺れる視界のまま辺りを見る。すれば影が降りるではないか。そちらに目を向ければハイラインが覆い被さっているではないか。私は納得がいった。
ーーーーーあぁ、私はこの男に犯されるのか。
二度もまたこいつに………
「いけませんよシスター様。一人で来るとは」
体を
「実にいい体をしてますなぁ。こんな体をわざわざ見過ごすなんて男が廃ると言う物ですよ」
煩い男だ。私は自分の体型が好きではなかったのだ。コンプレックスといえばいいだろう。だが、シスターとして歩むにあたり、この体も武器になる。何せ処女を売ったのだから。
「…………は、離れ……てください」
「はい?なんでしょう?」
最後通告だ。まぁ、下半身にしか意識の向かない男なのだからやめるはずもないだろう。案の定、私の言葉を無視し弄り続けた。
ーーーーーーあぁ、この人はダメだ。救済をしなければならないな。
するすると私の太腿に手を這わされたその時。
「……はへ……?」
ハイラインは素っ頓狂な声をあげた。
「な……なんですかこれは……」
ノロノロと私から退いて、床に座り込んだ。その左腹部にはナイフが刺さっていた。勿論私が隠し持っていたものだ。私はゆっくりと体を起こす。
「危なかったですねほんと」
「な……なぜ……」
「なぜ?わからないんですか?自己防衛です、よ」
「いっ!?」
言を発しつつ近寄り、微笑みを浮かべナイフの柄を握り、一度捻ってから引き抜く。血がごぷっと刺したところから出てくる。一応急所は外したのだが存外血が流出するものなのだなと理解する。
「あぁ、それと。勿論貴方は救済します。そのためにこちらに来たのですから」
「……はぁ〜………はぁ〜…」
どうやら痛みに耐えるように深呼吸しているのか話は聞いていないみたいだ。
「貴方はこれまで数多くの罪を犯しました。他国からの輸入品や賄賂が多く、そして先に行われた召喚者たちの処刑……あぁ、私のことは覚えてはいらっしゃらない様子ですね。まぁ、それもそうでしょう。私は名も変え、顔も変えましたからね。以前の名で言えば………眞琴。それが以前の名です」
にこりと笑みを浮かべ刺し傷を抑え、呻くハイラインを見下ろす。目が合い、その顔は驚愕に染まった。
「そう。私の大切な友人たちを民衆に晒しつつ処刑した罪……それは他の貴族たちが許そうとも、私が許すはずないじゃないですか。貴方の犯した罪は大罪で、私が罰するのですから」
屈み、目線を合わせつつスッとハイラインの両脚の腱を切り裂く。
「ぐぁああぁぁぁあああ!!!!!!」
「汚いお声。少しは声を抑えるとかしたらどうです?まぁ、無理でしょうけど」
くすくすと笑いつつ、今度は両眼を切り裂く。血がぴゅうっと飛ぶ。その度にハイラインは叫ぶ。
「あぁ、そう簡単に死ねると思わないでくださいね。今、腹部の傷は治しましたから」
回復魔法で腹部から溢れた血が戻っていくように消え血が収まる。
「もっと足掻いてください。あの人たちは声もあげずに死んでいったんですから……!」
「ぐぅぅぅぅっ……!?」
死なない程度に収めつつナイフで腕を切り裂く。切り裂く。切り裂く。床に血が一筋の線となりて飛び散る。その度にハイラインは呻き、這いつくばる。
「た、助け……」
「助け?助けを求めるんですね。そうやすやすと助けを求めるなんて酷いですねぇ……!」
更に腕を切り裂く。
「あの三人は!助けを!得たかった!のに!貴方方は拷問し、虐殺した!そんな貴方に!助けなど!求める権利は!ないんです……!!!!!!」
言葉を発しつつ切りつける。声を荒げてしまったが頭は冷静だ……と思う。
「……貴方には、懺悔してそして死んでいってください。貴方には地獄がお似合いですよ」
「……も、もう……やめて、くれ……!」
「やめませんよ。どうしてやめなきゃならないんですか。折角復讐が済むのに……ねぇ?」
にこやかなまま言い放つ。あの人たちを傷つけて、殺した罪は重い。だから……私が
「あぁ、でももうつまらないです。ハイライン様、そのまま死んでください」
「…………な………」
私は血に濡れたナイフを袖で拭いしまい、隠し持っていた銃(錬金術で作り上げた)を持ち、ハイラインの額に向ける。
「……貴方に「神のご加護があらんことを」」
銃声が鳴り響いたとほぼ同時にハイラインの頭が弾けた。どちゃっと血を出しつつ横たわる肉塊。私は冷めた目で見下ろし、銃をしまい肉塊を燃やす。窓に反射する私の体には返り血に塗れていた。私は血糊を浄化魔法で綺麗にしハイライン邸を後にする。後になり聞いたがハイライン邸は業火の火に焼かれハイライン及び、給仕や執事たちの焼死体が発見されたらしい。
「抵抗はありましたか?」
神父様の声に私は首を横に振る。大した抵抗はなかった。
「そうですか。それなら良かった。さぁ、もう休んでよろしいですよ」
「はい。ありがとうございます。神父様。おやすみなさい」
「うん、おやすみマリアくん」
そう挨拶を交わし、自室に戻る。そして私はベッドに横になり、するすると意識を手放していった。
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