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 おかしな地方訛りで底抜けに明るい奴を演じて、「好きだ」と何度も伝える。わかりやすく頬を赤く染めたメイに「可愛い」と言いながら、心の中では馬鹿な奴だと必死に罵って。


 隣の部屋に寝泊まりをしていた時期は、毎晩聞こえてくるあいつのすすり泣きに気付かないふりをした。一人生き残ったことを懺悔しているのか、それともただ孤独にさいなまれているだけなのか――なにも考えないようにした。

 こいつは悪だ。裏切り者だ。固く目を閉じて、何度も何度も自分に言い聞かせる。


 それでも、一緒に過ごす時間が増えるに従って、なにが演技でなにが本心なのか、自分自身でわからなくなっていった。


 

 あいつが男に連れ去れそうになっているのを見た瞬間、体が勝手に動いたのは演技だったのか。宿でベッドに押し倒したとき、ぎゅっと目を閉じたあいつに口づけたくなったのは思い込みだったのか。

 花屋でブルースターの花を贈ったとき、今までで一番の笑顔を向けられた。あのとき、鼓動が高鳴ったのも、気のせいだったのか。


 本当は目が覚めていたのに、手放したくなくて。抱きしめたまま眠ったことも……?



 あいつがどういうつもりで『ジュジュ』を探していたのかはわからない。ステラたちを見捨てた謝罪なのか、それとも別件なのか。

 なんにせよ、聞く必要はないと思った。メイを利用して勇者に会う。その覚悟がぶれることが怖かったからだ。


 それなのに、俺は結局あいつを利用できなかった。


 生誕パーティーに参加できるんだから、暗殺の機会はある。そう自分自身に言い訳をして、あいつを遠ざけて。しまいには、天使の血筋を使って天界に帰した。


 しまっていく『扉』を見てほっとしたなんて、俺は救いようのない馬鹿だ。



*  *



 カツン、カツン。

 薄暗く湿っぽい地下牢に、固い靴音が響き渡る。鉄柵越しに俺を静かに見下ろしているのは、勇者城の兵士だ。


「――坊主。お前の処罰が決まった、天使を逃がした大罪人として、死罪だ」

「……ああ、そう」


 他人事のように答えたあとで、俺は兵士をあらためて見上げた。


「執行人は、もちろん勇者だよな?」


 今の俺はきっと、期待に満ちた目をしてる。だからなのか、兵士は気味悪がるような顔つきになった。


「……ああ、そうだ。執行日は明日。城を民衆に解放し、中庭に処刑場を設けて行うと聞いている。くれぐれも逃げるような真似はしないように」

「もちろん。……とっくに腹はくくってるから安心しろよ」

「それはなによりだ」


 兵士がそそくさと去っていく。


 左手の人差し指に付け替えておいた指輪に、そっと触れる。闇市で知り合った商人から買った、刃が内蔵された暗器だ。事前に毒を練り込んである。

 狙い通り、身体検査を受けた際、婚約指輪だと判断されて哀れむような瞳を向けられただけで没収されなかった。


 まさか勇者が暗殺されるなんて、夢にも思っていないんだろう。本人も、警戒せず俺の前に現れるに違いない。

 慢心が身を滅ぼすんだってこと、教えてやるよ。



 やっとこの時が来た。

 お前を殺してやる。たとえ、自分の命と引き換えでも――。

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