第2章『学園生活のはじまり』

第13話 学園生活のはじまり


「行くよ! リア! 準備は良い?」




 まだ新しい学生服に身を包んだソールが、リアへと話しかけてくる。ひらひらのスカートと、可愛らしいリボンが付いたブレザー。今まで孤児院で貧しい暮らしをしていたからか、ソールもラフな格好ばっかりしていたため、リア自身あまり自覚をしたことが無かったが、こうして学生服に身を包んだソールはなかなかに可愛いというか…… 




――なーに、リア照れてるの!?




――違うよ! ちょっとなんか新鮮だったというか……




――リアにはルカがいるのに……




――またそれは話が別だよ!




 茶化してくるルカ。そして、それを笑顔で微笑ましく見守るイーナ。だが、そんな生活も今日で終わり。何せ今日は討魔師養成学園の入学式の日なのだ。そして、学園は全寮制。つまり、もうこうしてイーナやソールと一緒に一つ屋根の下で過ごす機会も減ってしまうのだ。




「リア、ソール、よく似合ってるよ!」




「イーナさん……」




 なんだか寂しくなる。そう思っていたリア。そんなリアにイーナは微笑みかける。




「まあ、言ってもさ、私も学園の先生だし! 何も今日でお別れというわけじゃないからね! 何なら…… 今日も多分会うだろうし……」




「イーナさん! これからもよろしくお願いします!」




 微笑みながら先に家を出て行った2人を見送るイーナ。そして、一言、イーナは言葉を漏らした。




「……これからは、忙しくなるなあ……」






………………………………………






 再び養成学校の校門の前へとたどり着いたリアとソール。入り口は固く閉ざされており、門の左右には警備をしていると思われる兵士が立っている。そして、校門へと近づいてきたリアとソールに気付いた兵士は、2人の元へと近づいてきた。




「君達、新入学生かい?」




「はい! 僕はリア。これが通行許可証です!」




「同じくソールです!」




 養成学園は王国初の試みと言うことで、学園に入るのもなかなかに大変な手続きが必要なようだった。将来の討魔師となる、素質ある若者を育成する機関と言うことで、それだけ堕魔に狙われる可能性が高いと言うこともあり、厳重な警備が敷かれているのだ。




「はい! どうぞ! これから大変だと思うけど頑張ってね、2人とも!」




 警備を通過してようやく学園の敷地へと足を踏み入れた2人。なんだか感慨深くなる。何せ一度はこの門をくぐることを諦めていたのだ。本当にもう一度ここに来られるとは、正直想像もしていなかったのだ。




「ねえ、リアあのときの約束…… 覚えてる?」




「うん、一緒に合格しようって」




「私ね! 討魔師になるなら、リアと一緒にってずっと思ってたんだ! これからは…… ううん、これからも一緒に頑張ろうね! リア!」




「うん! 行こうソール!」




 リアとソールが向かったのは、講堂。席は自由となっており、適当に空いた席へと腰掛けた2人。学園から来た手紙には、最初入学の説明等があるため、講堂に集合するようにという案内が書いてあったのだ。




 それにしてもこの学園。以前、試験を受けに来たときも思ったが、やけに広い。講堂だけでも、席数で言えば、100人くらいは入りそうなほどに広いのだ。もしかしたらそのくらい合格者がいるだろうかと思ったが、どうやらそうでもなさそうだ。それだけ設備にも金をかけてくれているということなのだろう。




 そして、試験の時に注目されていた『彼ら』も大方の予想通り、無事にこの学園に入学していたようだ。アルフレッド・ルシファーレン、そして、竜人族の姉妹…… 見渡せば見渡すほど、周りの生徒達が優秀に見えてくる。




「ねえ、リア…… なんだか、緊張するね」




 落ち着かない様子でソールが小さな声を漏らす。僕だって、なんだかそわそわして落ち着かない。本当に自分が、ここにいても良いのか…… そんな不安がわき上がってくる。




 そして、それから15分位経った頃、周りの席もちらほらと埋まりはじめた頃、ようやく、檀上にミドウが姿を現した。真っ黒な零番隊のローブに身を包んだミドウ。背中に大きく書かれた『壱』という文字がチラチラと見え隠れする。その圧倒的な存在感に、すべての入学生の視線は奪われていた。




「諸君、この度は入学おめでとう! 改めてにはなるが、私がこの学園の責任者となるミドウだ。 これから、よろしく頼む!」




 ミドウの挨拶に、講堂内はより一層の緊張に包まれる。そして、シーンと静まりかえった講堂の中に、再びミドウの声が響き渡った。




「無事に試験を乗り越えた精鋭達よ。これから君達には、討魔師の見本たる存在として、活躍していってもらいたい。そのために、我々は君達に全面的に協力させてもらう。困ったこと、辛いこと、何か相談したいことがあれば、ちょっとしたことでも、気にせずに我々に相談して欲しい。さてと……」




 あまりこういう場になれていないのか、ミドウも少し緊張した様子のまま、言葉を続ける。




「あーちょっと儂もこういう畏まった場は苦手でな…… まあ挨拶はこれくらいにして、早速本題に入るとするか…… まずは、これから君達の世話をする事になる、教師陣…… 頼りになる同士達を紹介させてもらう!」




 そして、講堂の端に座っていた教師陣もミドウの言葉に従って檀上へと上がる。その中には、やはりイーナの姿もあった。いつものラフな格好ではなく、背中に「伍」と刻まれた零番隊のローブに身を包んだイーナは、リアにとってなんだか新鮮に、そして格好良く見えた。




「さて、じゃあここからは、担任教師に任せることにしようか…… イーナ、よろしく頼む!」




 ミドウがイーナの名を呼ぶ。担任……? どういうことなんだろうか? 困惑していたリアとソール。そして、先ほどまでミドウがたっていた檀上の中央へとイーナはゆっくり、そして少し緊張した様子で歩いて行った。




「えーっと…… 君達の担任をさせて頂く事になりました。零番隊伍の座を務めさせてもらってる、イーナと申します! よろしくお願いします……!」




 見た目にはリアやソール、それに他の入学者達とあまり変わらないイーナ。一目新入生かと思ってしまうような、可愛らしい少女にしか見えないイーナの挨拶に、講堂内が少しざわつく。




「……イーナさんが担任……?」




 リアもソールも突然のことに戸惑いを隠せなかった。まさかイーナが自分たちの担任になるとは思いもしていなかったのだ。




「あとね! 一応、全体の担任は私になる形だけど、君達にはそれぞれ専属の教師の下について、班と単位で活動してもらうことがメインになります! ちょっと複雑にはなるので、良く聞いて下さいね!」




 それから学園のクラスの仕組みについて説明をはじめたイーナ。最初は戸惑っていた入学者達も、イーナが話し始めると、真剣にその話を聞いていた。もちろん、リアもソールもそうだ。




 イーナの話によると、入学者は、全員で一つのクラスとなるらしい。例えば座学を受けたり、そういうときには、このクラスという単位で受けることになる。そのクラス全体の担任がイーナ。




 そして、それとは別に、入学者は3人一組で、1人の担当教師の元で学ぶことになる。いわゆる班という単位だ。それぞれの班には、1人の教師が付き、演習や実践はその班単位で行うとのことだ。基本的には、この班というくくりが、実習のほとんどを占めると言う事になるらしく、誰の元で学ぶことになるかで、おそらくはその後の道も結構変わってくることになるのだ。




「まあ、そういうことで…… いきなりにはなるけど、これからチーム分けも発表するね!まずは、第1班から発表します、担当はミドウ先生!」




 第1班。零番隊の顔とも言えるミドウの元で学ぶことになる生徒。おそらく入学者達の中でも選ばれたものになるだろう。




「名前を呼ばれたら返事をして起立して下さいね! 第1班! アルフレッド・ルシファーレン!」




「はい」




 その名に講堂内に再びざわつきが起こる。やはり、今年の入学者の中でも一番注目を集めていたアルフレッドは第1班、ミドウの元に付くことになるようだ。




「スウ!」




 二人目は竜人族の少女、スウ。こちらも注目を集めていた1人。大人びた少女であるスウは竜人族と言うだけあり、特徴的な細長い耳を有している。その落ち着きに満ちた風貌は、正直、イーナ先生よりも大人に見えるというか…… 




「ナオビ!」




「はい」




 ナオビと呼ばれた少年。試験の時もあまり印象にはない。どこかミドウに似たがたいのいい少年である。ここまでが第1班。ミドウの直属の生徒として、学ぶことが出来なかったリアは少しだけ、ほんの少しだけがっかりしていた。




「次、第2班! 担当はアルトリウス・ルシファーレン先生ね!」




 リアとソール、2人は自らの担当教官が誰になるか、緊張に包まれながら、自らの名前が呼ばれるのを待っていた。


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