第34話 高みの存在
「あいつに…… アルフレッドにああするように仕向けたのは親父か?」
満足げな様子で、自らの孫、アルフレッドの試合を見届けたアーヴィント大臣。彼の近くに来たのは、大臣の息子であるアルトリウス・ルシファーレンだった。弐の座の討魔師であり、そして、学園の教師の1人でもアルトリウスの胸中は複雑であった。
アルトリウスにとって一人息子であるアルフレッドは、幼い頃より魔法の資質は他の誰とも並ぶことない位、秀でていた。関係者は皆、口を揃えて言ったのだ。アルフレッドは稀代の大討魔師になる器であると。
そして、それは大臣であり、祖父でもある大臣にとっても同じだった。討魔師として多忙である父に代わり、大臣はアルフレッドを実の息子以上に、厳しく、そして期待を込めてここまで育ててきたのだ。ルシファーレンの一族の名前に恥じない、優秀な討魔師にすべく。
ある意味では、大臣のお陰で、ここまでの魔法をアルフレッドが使えるようになったの言うのは事実である。息子の活躍を喜ばない父親など、世の中にはいないだろう。それでも、アルトリウス自身、教師として、そして父親としてこれで果たして良いのかという葛藤はあった。だが、業務に追われた自分に代わり、ここまでアルフレッドを育ててくれた大臣に対し、アルトリウスは何も言えなかったのだ。
「今更父親面でもしに来たつもりか? アルトリウス? アルフレッドは儂が責任を持って育てる。そういう約束になっていたと思うが?」
唇をかみしめながら、黙りこんだアルトリウス。そんなアルトリウスにさらに大臣は言葉をぶつける。
「アルフレッドは天才だ。儂やおぬしを優に超えるほどにな。だからこそ…… 儂はあいつを優秀に育て上げなければならないのだ。わかっているな? アルトリウスよ」
そして、その場を立ち去っていった大臣。アルトリウスは一言も言葉を返せぬまま、ただその場から去る自らの父親、大臣の後ろ姿を眺めていることしか出来なかった。
………………………………………
「第3班対第7班は、第3班の勝ち! えーっと…… 勝ち上がったのは、5班と1班と、8班と3班だね! じゃあ次は、シードになった10班と1班だよ! 準備の方よろしくね!」
あれから4試合が終わり、1回戦の勝利チームが出そろった。次の試合は、アルフレッド達第1班と、シードとなった第10班との戦い。そして、戦いを前に、審判であるイーナの元に近寄っていったのは、第10班のメンバーである。
「……先生。あの…… 僕達棄権させて貰ってもいいですか?」
ナーシェ率いる第10班は他の班と違って、医療魔法使い達が揃っている班だ。アルフレッドの、他の生徒とはあまりにも実力が違いすぎる戦いぶりを見て、勝てないと判断したのだろう。そもそも彼らについては、戦闘向きの魔法を使うわけでもないし、そう判断したとしても何ら不思議ではない。
「本当に良いの?」
「はい」
イーナの確認に、迷い無く答えた第10班のメンバー。もはや、アルフレッドと戦うという戦意すら完全に喪失しているようだった。
「んー…… 了解。じゃあ、もう一つのシードの組み合わせの方ね!第8班と第2班! その後は、5班と1班だよ!」
普通ならば、戦わないで棄権すると言うことになれば、他の学生達からも動揺の声が聞こえてきたとしても不思議はない。なにせ、王様の前でライバル達と戦える、ある意味では自らの力をアピールできるこれ以上ない機会であるのだから。にもかかわらず、闘技場の中には、むしろ諦めて当然というような空気が流れていた。自分たちがアルフレッドに敵うわけがない。そんな空気が闘技場の中を支配していたのだ。
「10班が棄権か…… まあしゃーないよな……」
「なんといっても、アルフレッドが相手だしよ……」
「これは模擬戦の優勝も、第1班で決まりだな……」
そんな生徒達の声がちらほらと聞こえてくる。微妙な表情を浮かべながら、生徒達の方を見ていた先生達。こんな空気を望んでいた先生達は誰1人としていないだろう。この模擬戦は生徒達がお互いの力を確認し、そして高めあうのが目的なのだから。
誰もが圧倒的なアルフレッドを前に、諦めムードを出していた中、1人諦めるどころか闘志を燃やしていた少年がいた。そして、その少年と長い付き合いである少女も、少年から発される隠しきれない闘志で、彼が何を考えているのか一目瞭然であった。
「リア、あのさ……」
「皆がアルフレッド君達が一番だって思っていることはよくわかる。でも、それでも、僕はこのまま諦めたくなんかない。僕のためにも…… それにカシンのためにも…… アルフレッド君の為にも……」
「アルフレッド君の為?」
「さっき、アルフレッド君とすれ違ったとき…… 何も言わなかったけど、全力で戦いたい。僕には彼がそう言っているように聞こえたんだ。だから……」
「でも、大臣から言われたって……」
「だったら、アルフレッド君が本気を出さないといけないと思うまで、僕らが頑張れば良いんだよ! 大丈夫、僕らなら出来る! それにきっと、イーナ先生も…… 僕達が弱気になるのを望んでなんかいないよ」
リアの言葉に、闘技場の中心で次の試合の準備をしているイーナの方を見つめたソール。
――そうだ、私だって…… イーナ先生のように……
そして、ソールは深く息を吸い込み、強い決意を込めた眼差しでリアの目を見返した。
「私だって、負けたくない! 誰が相手だって…… きっと先生なら諦めたりはしないし! それに……」
「私も…… せっかくお姉様と全力で戦えるかもしれない機会だというのに…… そう簡単に諦めたくはないです! リア君! ソールちゃん! やりましょう! 私達で…… この空気をぶちこわしてやりましょう!」
そして、珍しく興奮した様子でそう口にしたルウ。ルウの言葉に、リアもソールも笑顔で頷く。
「ソール、ルウ! 僕達で…… 僕達皆の力で! アルフレッド君達に勝とう!」
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