第33話 君の分も
「第6班、棄権に付き、勝者は第1班!」
そう口にしたイーナの表情は、何とも煮え切らないようなそんな表情だった。あまりにも実力の差がありすぎた試合に、試合終了後も、生徒達のざわつきは鳴り止まなかった。
「おい…… 第1班の奴ら、アルフレッドだけで…… それも自分から攻撃をすることなく勝ちやがったぞ……」
「でも…… あれは……」
アルフレッドに手も足も出なかったカシンの試合を見届けたリアは、いてもたってもいられず、気が付けばカシン達の所へと走り出していた。なんて声をかけたら良いのかなんてわからない。それでもリアは、一番の友人であるカシンのことを放ってはおけなかったのだ。
そして、全力で駆け出したリアの後を追っていくソールとルウ。そんな3人の前に現れたのは、試合を終え、無表情のまま闘技場を後にして戻ってきたアルフレッド達第1班のメンバーであった。
「……アルフレッド君」
前から戻ってくるアルフレッドの姿に、リアの口元が小さく動く。歩みを進めていたアルフレッドの足も止まる。
「さっきの試合は…… どうして、カシンに攻撃をしなかったの?」
「……お前には関係ないことだ」
そう一言だけ呟いたアルフレッドは、そのままリア達とすれ違い、客席の方へと再び歩みを進めた。同じチームメイトであるスウとナオビを残し、無表情のままアルフレッドは1人その場を去って行ったのだ。
「……お姉様、先ほどの試合は…… どうしてあんな……」
「アルフレッドさんには、アルフレッドさんの事情があるんです。私達だってこれが良いことだとは思っていない。でも……」
ルウの問いかけに、歯切れ悪く答えたスウ。後ろにいたナオビの表情もどこか不満そうな表情を浮かべていたことで、何か事情があったと言う事はリア達にもすぐにわかった。
「スウ、それってどういう?」
さらに問いかけたソールに、スウは静かに口を開く。
「……先日、アーヴィント大臣が私達の自主練習中にアルフレッドさんに会いに来ました。大臣はアルフレッド1人で、圧倒的な実力を見せて、そして、一番になれと……」
「大臣が?」
「クッソつまんない話だよな! せっかく、こう…… 全力の勝負を楽しめると思ったのによ……」
不満げな様子で言葉を漏らしたナオビ。アルフレッドの祖父、アーヴィント・ルシファーレン大臣が、この学園の開設に一役買っていたという話はリアも知っていた。大臣相手ともなれば、生徒達がそう簡単に刃向かえるような相手ではないと言うのもよくわかる。
「でも…… 私はお姉様と全力の勝負を……」
そう口にしたのはルウ。ルウの言葉に寂しそうな表情を浮かべながら、スウは一言「ごめんね」と残し、その場を立ち去ったのだ。
………………………………………
アルフレッド達に遅れること、しばらくの後、ヒルコとファロンに肩を貸してもらいながら、カシンがリア達の前へと姿を見せた。ボロボロになりながらも、意識ははっきりとしていたカシンは、リアの姿を見かけて、言葉をかけてきた。
「……リア、さっきの試合、見てたか?」
「……見てたよ」
小さくそう答えたリア。そんなリアの様子に、カシンは自分をあざ笑うような笑顔を浮かべて言葉を漏らす。
「笑えるだろ? あんな大それた事を言っておきながら、このザマだぜ」
「カシン……」
「そんな顔をするなよリア。俺が奴より弱かった、ただそれだけの話さ。そりゃあそうだ、あいつはきっと俺よりもずっと大きなものを背負ってここまで生きてきた。それに、これからもきっとそうだ」
そう口にしたカシンは、そのままヒルコとファロンと共にその場を去って行った。そんな第6班のメンバーに背を向けたまま、リアは小さな声で自らに言い聞かせるように、一言呟いた。
「……カシン、君の分も…… 僕は!」
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