第32話 第1班の力
カシンを見送ったリア達は、そのまま客席へと戻った。クラスメイト達の視線がチラチラとリア達へと注がれる。初戦を白星で飾ったリア達を皆も注目しはじめていたのだ。そしてそんな中、1人の教師がリア達の元へと訪れてきた。リアの憧れの存在でもある、学園長ミドウである。
「おお、第5班の諸君! 見事な試合だったぞ!」
「ミドウさん!? ありがとうございます!」
思わぬミドウの来訪に、驚いたまま言葉を返したリア。ミドウは満足げな様子で高らかに笑う。
「それぞれ、よく魔法が洗練されておる! 全く将来が楽しみじゃ!」
「次は、ミドウ先生のチーム…… 第1班の試合ですね!」
「ああ…… さて…… どうなることやら……」
そう言葉を返してきたミドウの表情は、少し複雑な表情だった。何か理由でもあるのかと気になったリア達。だが、そんな3人をよそに、イーナの試合開始を告げる声が闘技場内へと響く。
「第2試合! 試合開始!」
第2試合は、第1班対第6班。同世代の中でも最も注目を集めていたアルフレッド・ルシファーレン率いる第1班の試合と言うだけあり、皆が彼らの実力を注視していた。果たしてどんな魔法を使うのか、どんな華麗な試合を見せてくれるのかと、生徒だけではなく、王や上層部の人間達も期待していたのだ。
試合開始直後、最初に動いたのはカシン。
「土の術式!
得意の土魔法で攻めるカシン。カシンの華土竜は、せり上がった岩が一挙に相手に襲いかかる、彼の必殺技である。
――様子見なんかしていられるか! 最初からフルスロットルだ!
試合開始直後、いきなり1班の3人に目掛けて襲いかかるカシンの魔法攻撃。だが、アルフレッドをはじめとした1班のメンバーに焦るような様子は一切無かった。そしてゆっくりとカシン達に向けて手を伸ばしたアルフレッドは、術式を唱えた。
「波道:防!」
直後、アルフレッドの手先から衝撃波のような者が発せられ、アルフレッド達に襲いかかろうとしていた岩が一瞬で崩れ落ちたのだ。初めて見るアルフレッドの魔法に、客席からも響めきの声が上がる。
「今のって……」
「ルシファーレンの家系に代々伝わる固有の魔法『波道』。まあ衝撃波みたいなものだな……」
初めて見た魔法に驚きの声を上げたソールに、ミドウは冷静な様子で言葉を返した。波道。弐の座のアルトリウス先生が得意とする魔法。噂程度なら僕も聞いてはいたが、実際に目の当たりにするのは、僕も初めてであった。
「だったらあたしが!」
カシンの攻撃を防がれたのを見たファロンは得意の近接戦闘に持ち込もうと、第1班目掛けて突っ込んでいった。だが、それにも全く焦る様子を見せず、表情を変える事無く、ゆっくりと手を上げたアルフレッド。
「波道:防!」
「きゃあ!」
見えない壁に跳ね返されたファロン。大きくファロンの身体が吹き飛ばされる。
「ファロン! 大丈夫か!」
「いたた…… なんとか!」
心配の声をあげたカシンに、言葉を返したファロン。再び魔法攻撃に転じた第6班ではあったが、それもたやすくアルフレッドに跳ね返されたのだった。
………………………………………
「なんだよあいつ…… まじでレベルが違うじゃねえか……」
端から試合を見ていた生徒達も、驚きを通り越して、半ばあきれたような声を上げる。もちろん、カシン達だって、この学園に合格するくらいだし、優秀な生徒である事は間違いない。ただ、目の前に立ちはだかっていたアルフレッドは、文字通り次元が違っていたのだ。
「くそったれ! 土の術式! 華土竜!」
「波道:防!」
そして、再び跳ね返されたカシンの魔法。アルフレッド以外の第1班のメンバー達は全く動くことすらせず、またアルフレッド自身も一切表情を変えること無く、無表情のままその場を動くことすらせず、カシン達の攻撃を防ぎ続けていた。
何をしたところで、アルフレッド相手には自らの魔法が届くことはない。そんな状況が続き、カシンは、内心いらだっていた。もちろん自らの魔法が全く通用する気配がないという事もその原因にはあったが、何よりも一番カシンを苛立たせていたのは、アルフレッドが一切その場を動くこともせず、また彼から攻撃を仕掛けてくると言うこともなかったことである。
「てめえ! アルフレッド! さっきから防御してばっかじゃねえか! どうしてそっちから仕掛けてこない!」
ついに、叫び声を上げたカシン。だが、それにもアルフレッドは一切動じることなく、ただその場に立ち尽くしていた。
「何とか言えよ! アルフレッド・ルシファーレン!」
そして、声を荒げながら、突っ込んでいったカシン。再びアルフレッドはゆっくりと手を上げた。その手の先にはカシンの姿。そのまま静かにアルフレッドは口を開いた。
「波道:防」
「ぐあっ!」
大きくはね飛ばされたカシンは、そのまま闘技場の壁へと強く叩きつけられた。
「カシン!」
チームメイトのヒルコとファロンがカシンへと駆け寄る。壁に叩きつけられたカシンのダメージは大きく、立つのがやっとといったのは2人とも一目でわかった。それでも、カシンは、痛みが襲ってくる身体に鞭を打ち立ち上がる。
そんなカシンの姿を前に、アルフレッドはカシン達にしか聞こえないような、客席に聞こえないような小さな声で呟く。
「お前には悪いが…… 俺はルシファーレンの生まれとして…… 常に完璧な勝利をしなければならないんだ」
その言葉が再びカシンのいらだちに火をつける。
「なんだよそれ…… 俺達を…… 舐めてるのか?」
「カシンもう無理だって! あんた今のでもうボロボロじゃん! 棄権しよう!」
「そうだ、さっきから全部防がれている以上、計算上、俺達が勝てる可能性は……」
カシンの身を案じ制止しようとしたヒルコとファロン。だが、カシンは珍しく声を荒げて、2人に向かって叫んだのだ。
「うっせえ! ここまでこけにされて…… このまま黙って棄権なんて……」
だが、カシンの身体はもう限界だった。そのままアルフレッドに向かって歩みを進めようとした直後、カシンの身体は地面へと崩れ落ちた。その光景をみたファロンは慌てて、試験官のイーナに向けて声を上げたのだ。
「第6班、棄権します!!」
「ちくしょう……」
地面に横たわったまま、カシンは天を見上げ、静かにそう呟いたのだ。
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