第31話 カシンの決意


「1試合目は、第5班の勝ちになりました! つづいて、2試合目…… 1班と、6班は準備をしてください!」


 そう、指示を出したイーナ。闘技場を退場する際にちらっとイーナの方を見たリア達第5班のメンバーに、イーナは再び瞬きで合図を送る。


――よくやったね、みんな!


 今回イーナは、審判という立場上、特定の班を表立って贔屓するというわけにも行かなかった。それでも、やはり自分たちの教え子の活躍はイーナにとって何よりも嬉しかったのだ。


 そして、そのイーナの思いは、瞬きだけでも十分にリア達には伝わっていた。


 闘技場のステージから客席へと移動し始めたリア達は、第2試合の準備のために移動してきた第6班のメンバー、カシン達の姿を見つけた。リアの姿を見つけるやいなや、小走りで近づいてきたカシンは、リア達へに向かって言葉を放つ。


「リア、ソール、ルウ。お前らの戦い見てたぜ!」


「ありがとうカシン! 皆も頑張ってね!」


 明るく声をかけてくれたカシンに、リアも笑顔で返す。そのまま、リア達が来た方向、闘技場の方へと向かって行こうとしていた第6班のメンバー達。そんな折、ふと、カシンが歩みを止める。


「カシン! どうしたの! 闘技場へ行くよ!」


 カシンの先を歩いていた、ファロンとヒルコが、歩みを止めたカシンに向かって声をかける。そんなチームメイトの声に、笑顔で応えるカシン。


「わりい! ちょっと先に行っててくれないか! 少しだけリアと話がしたいんだ!」


「はあ!? これから試合だってのに…… 全く……」


「まあまあファロン。カシンの奴もリア達の戦いに色々思うところがあったんだろう。カシン先に言って待っているぞ!」


 あきれたような表情を浮かべたファロンをなだめるヒルコ。そしてチームメイトの2人が先に闘技場のステージへと向かった中、1人リア達のところで足を止めたカシンは、リアに向かって静かに言葉を発した。


「リア、本当はさ…… 俺、正直討魔師なんてどうでもいいと思っていたんだ」


「カシン?」


 リアに背中を向けたまま、カシンはさらに言葉を続ける。


「俺の実家は、トゥサコンの街で魔法武具店をやっていてな。まあ、俺がこう…… 討魔師養成学園に入学したら、やっぱり話題にもなるだろ? それに、汚い話、討魔師達とのつながりも出来る。少しでも、うちの宣伝になれば…… そういうつもりで、俺はここに来たんだ。運良く、人並みには魔法も使えたしな。だから正直、討魔師だ、零番隊だ、そんなものにはそこまで興味が無かった。やっぱり堕魔と相対するのは正直怖いしよ」


 今思えば、カシンのあの物怖じしない態度も、おそらくはカシンのそう言った生まれから来ているのだろう。


「あのときリアと一緒に堕魔に遭遇したときだってそうだ。恥ずかしい話、俺は堕魔にびびっちまって、動けなかった。だけど、リア。お前はあんな化けもん相手にも堂々と立ちむかってたよな」


「でも、あのとき、カシンだって僕を守る為に、必死で堕魔に立ち向かってくれたはず……」


 ギールとの戦いで、自らの魔法の反動で動けなくなったリアを、ギールから守ってくれたのは他ならぬ、カシンである。あのときの光景をリアは、今も鮮明に覚えていた。あのとき、カシンが僕を守ってくれていなかったら…… もしかしたら僕はもうすでにここにはいないかもしれない。


「全く、面白い話しだよな。自分が討魔師になるだなんて、そんなに思ってなかったはずなのに…… 気が付いたら、いつの間にか俺もお前のように…… なりたいとそう思っている自分がいるんだ」


「カシン……」


 そして、リアにずっと背を向けたまま話していたカシンは、ふうーっと大きく息を吐き、自らに気合いを入れる様にぱんと自分の頬を叩き、そして、リアの方へと振り向いたのだ。


「リア、お前と出会って…… 俺は討魔師になりたいっていう夢が出来たんだ。だから…… 見ててくれよな! アルフレッドが相手だろうと、スウが相手だろうと…… 俺はあいつらに勝って、そして、リア、お前達と戦う!」


 カシンの言葉に、笑顔を浮かべたリアとソール。ただ1人、ルウだけは少し不機嫌そうな表情を浮かべ、決意を露わにしたカシンへと言葉を返した。


「……カシン君。それでは困ります! もしカシン君達が勝ったら…… 私はお姉様と戦うことが出来ないじゃないですか!」


「おいおいおい、せっかく良い感じで決めようと思ったのによ…… ここまで言って、俺達に負けろってか…… 冗談きついぜ……」


 ルウの言葉に調子を食らわされたカシンは、苦笑いを浮かべながらいつもの調子でそう口にする。そんなカシンの様子に思わず笑うリアとソール。


「そりゃあ、カシン君がリア君と戦いたいと思うのと同じように…… 私だってお姉様と本気の勝負をしたいですからね!」


「まあいいじゃねえか! 第1班を倒した俺達と次に当たるとなれば…… 実質、お姉様以上の相手と戦うと言うことになるんだぜ!」


「……そうかも知れないですけど…… 何か釈然としないです……」


「とにかくだ! 俺は今出せる俺の全力を持って戦う! そっから先は恨みっこ無しだ! リア! 待ってろよ! それにソールとルウもだ! 1班を破って! そして、お前ら5班も破って! 夢はでっかくだ!」


 再び力強く決意を口にしたカシンは、そのまま1人ステージの方へと向かっていった。そんなカシンの後ろ姿を見守りながら、リアは小さく言葉を漏らした。


「頑張って…… カシン!」

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