第30話 炎、ときどき水、氷
「今の連係攻撃はなかなか見事だったな!」
「ああ、でもあれほどの攻撃も全部防ぎきるとは…… やっぱり第5班…… 噂通りやるようだな!」
客席から試合の行方を眺めていた生徒達。彼らは同じクラスメイト同士の戦いにすっかり夢中になっていた。初めて目の当たりにする、同期達の能力。彼らにとっては何よりもの刺激になっていたのだ。
そして、戦いに目を奪われていたのは生徒だけではない。零番隊である先生達、それにこの模擬戦を見学に来た王や上層部達も皆闘技場で繰り広げられる攻防に、視線を奪われていた。
「ヨツハの生徒達か…… ふむなかなかやるようだな。さて、イーナの生徒達はどう出るか……」
………………………………………
相手の攻め方は何となくわかった。体術が得意なソンを中心に、グランとミーナ、2人が風と氷で援護してくる様な戦い方。おそらく、最初にソンに感じた違和感。アレも風の術式かなにかで、蹴りを加速させているのだろう。ただでさえ強力な獣人族の体術に魔法の援護が加わったなら、厄介なことこの上ない。
だけど、僕達だってこの日のために、ここまで鍛えてきた。そう簡単に負けるわけにも行かない。
「ソール! ルウ! アレをやろう!」
この実習のルールについてはあらかじめ説明を受けていたから、対策も考えられた。要は相手を戦闘不能にしたら勝ち。ルールはただその一点だ。
今回僕達のチームの軸となるのは、竜人族のルウ。そのために、僕とソールは全力でアシストをする。
「ソール! 援護を頼んだ!」
そして、今度は突っ込んでいったリア。炎の術式を応用した加速移動。イーナ先生から直伝に教わった魔法もすっかりリアは使いこなせるようになっていたのだ。
「速い……!」
ソンに負けないほどの速さのリアに、客席から再び響めきの声が上がる。
そして、その加速の勢いを利用してソンへと襲い掛かったリア。再び剣とソンの脚がぶつかり合う。
「あんたもずいぶんと速いねえ…… 魔法の力か?」
「どうだろうね! 炎の術式! 紅炎!」
突っ込んだ勢いでそのまま、炎の魔法へとつなげる。攻めるならこちらに主導権がある今。これならば全体攻撃も出来る。
魔法と体術のコラボレーションで攻めるリアに対し、第4班は連携を取りながら魔法で対抗する。
「氷の術式! 盾氷!」
先ほどのルウと同じ技で炎を防いだのは、ミーナ。だが、それは既にリアも想定済みだった。
氷属性使いのミーナなら、僕の魔法を防ぐために、そこで魔法を使ってくるはず……
そして、炎の弾がぶつかったミーナの氷の盾はそのまま、じゅわじゅわと溶けて地面へと滴る。
「1人で攻めてくるとは良い度胸だリア! だが……! 風の術式!」
そして、カウンターを決めようと魔法を構えるグラン。これももう読めている。
「ソール!!」
「わかってる! 水の術式! 水鏡!」
そして先ほどと同じように風の魔法を防ぐソールの水魔法。強力な風の魔法からリアを守った水の盾は、そのまましぶきとなって、地面へと滴った。
「まだまだぁ! 炎の術式! 紅炎!」
そして、再びソンへと襲い掛かるリア。再び声を上げたのは、ミーナ。
「無駄だよ! 氷の術式 盾氷!」
怒濤の勢いで攻め込むリア。だが、ある意味では無理攻めとも言えるようなリアの突撃に、客席の生徒達もざわつく。
「あいつ…… 何を考えているんだ? あんな無理攻めじゃ防がれて…… 体力を使って終わりだろ?」
「いい所を見せようと焦っているんだろ?」
そんな生徒達の声が上がりはじめた中、小さく笑ったアルフレッド。そして、アルフレッドは小さく言葉を漏らす。
「……なるほどな」
………………………………………
「炎の術式! 紅炎!」
「何度やっても同じ! 氷の術式 盾氷!」
再びリアの攻撃を防ぐミーナの魔法。もうすでに、ソールの魔法、そしてリアの炎によって溶かされたミーナの氷魔法で、第4班の足元、そして身体はすっかり水浸しになっていた。
――そろそろだ!
そして、フッと身をひいたリア。ずっと攻めの姿勢を続けていたリアが急に身をひいたことに、一瞬の動揺を見せた第4班。リアが身をひいた瞬間、それがリアからルウへと伝える、必殺技の合図だった。
「氷の術式! 絶対零度!」
ルウが術式を唱えた瞬間、一気に第4班を氷が包む。足元も服もびしょ濡れだった第4班の面々は、動く暇も無く、一気に氷に包まれ、そして身動きが取れなくなったのだ。
「なっ……」
ざわついていた会場は、驚きのあまりシーンと静まりかえる。あまりにも一瞬の出来事。そして、まさに絶対零度の世界の如く、静まりかえった会場内で、イーナの声がこだました。
「4班戦闘不能! 第5班の勝利!」
そして、静寂に包まれた会場は再び熱気にわき上がる。あまりにも一瞬に勝負が付いた事に、皆が驚きの声を上げる。
「何だ今の! 一瞬で凍っちまったぞ!」
「あれが竜人族の力!?」
そして、勝負がすんだ闘技場、頭部を除き氷に包まれた第4班の面々を炎の魔法で溶かしたイーナ。身体に自由が戻った第4班の面々はそのまま地面へと倒れ込んだ。
「……くそ、なるほどな。さっきまでのリアの激しい攻撃は陽動。本当は、僕達の周囲に水を撒いて…… 本命はルウの魔法だったんだな…… やられたよ」
地面に転がったまま、悔しそうにそう口にしたグラン。グランに向かってリアは手をさしのべる。
「そう、ソールの水魔法で、ルウの氷魔法をアシストする。僕達が考え出した、僕達の戦い方だよ! でも、4班の連携も見事だった。ありがとう!」
そして、差しのばされたリアの手に、自らの手を伸ばしたグラン。負けたというのに、悔しいほどに爽やかな笑顔を浮かべながら、グランはリアに言葉を返した。
「次は負けない。良い勝負だった」
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