第11話 実技試験!
「先手必勝!」
試験開始の号令と共に一気に受験生達が『かかし』目掛けて突っ込んでいく。完全に出遅れたリアとソール。だが、二人の前方、既に受験生と、かかしが入り乱れた方向から受験生達の阿鼻叫喚がこだましはじめた。
「なんだこいつ! やたら素早いぞ!」
ただのかかしだと思いきや、流石に零番隊の魔法と言うだけあり、そう一筋縄には行かないような様子である。ひらりひらりと躱し、そして、魔法で反撃してくるのだ。なかなかに厄介そうな相手だ。
そして、問題はそれだけではなかった。案の定、想定していたとおり、受験生同士のつぶし合いが始まっていたのである。
「その玉をつぶせば、てめえは-5ポイントだ! 俺が合格してやる!」
もはや受験生達の標的の的はかかしではなく、別の受験生へと変わっていた。何せかかしを一体倒したところで得られるのは1ポイント、誰かの玉を破壊すれば-5ポイントになるのだ。
受験生、そしてかかしが入り乱れ、既に試験会場は混沌と化していた。
………………………………………
「始まったようだな。なかなか有望そうな者も多そうだが、さてどうなるか……」
試験の行方を見つめながら、笑みを浮かべそう口にしたのはミドウ。
「やはり注目は、アルフレッド・ルシファーレンや、龍人族のスウ・ルウ姉妹ですかね……」
ミドウの近くにいた兵士がそう口にする。実技試験が始まる前、書類審査の時点で、ある程度注目を集める者は既に存在していた。例えば、受験者達の間でも噂になっていたアルフレッド・ルシファーレン。
シャウン王国の中で、3つの名家とされるうちの一つ、ルシファーレン家。父親であるアルトリウスは零番隊のメンバーの1人であり、アルフレッド自身も魔法の才能に恵まれたエリート中のエリートである。
「すでに、アルフレッドはポイントを稼いでいるようだな。このまま行けば、合格は間違いなさそうだ」
事前の噂に違わず、アルフレッドの実力は本物だった。他の受験者には何ら興味無いといった様子で、彼らに攻撃をすることはせず、ひたすらにかかしだけを的確に狙っていくアルフレッド。その姿に、試験の行く末を見ていた兵士達も思わず感嘆の声を上げる。
そして、竜人族のスウとルウ。姉妹である彼女らは、小柄ながら、竜人族特有の圧倒的な魔力で、アルフレッド同様かかしを次々と仕留めていた。
「本当に、面白い。やはり才能溢れる若者というものは良いものだ! なあイーナよ!」
豪快に笑いながら、隣にいたイーナへと話しかけたミドウ。
「そうだね! どんな子が来てくれるか、私は楽しみだよ!」
「それにしても、まさかお主まで生徒を推薦してくるとはな。愛弟子の調子はどうなんだ? まだあまり目立ててはいないようだが」
既に噂に上がっていた上位陣がポイントを稼いでいるのに対し、リアやソールはまだ稼いだポイントは数ポイント。少し後れを取っているようなそんな状況であった。
「大丈夫だよ! あの子達なら! 二人ともなかなかいい連携をとれているしね!」
「ふっ……」
イーナの言葉に不敵に笑みを浮かべるミドウ。試験開始から間もなく半分を迎えようとしているところであった。
………………………………………
試験開始からそろそろ半分。まだ倒せた『かかし』はリアもソールもそこまで多くはなかった。
「リアどうする!? このままじゃ、2人とも……」
焦りを見せるソールに、リアは落ち着いた様子で言葉を返す。まだリアもソールも肩、そして背中の玉は壊されていない。大丈夫、修行のお陰もあり、魔法の使い方は確実に向上している。それにソールと協力をしてきたことで、確実にポイントは稼いできてはいるのだ。
「大丈夫! ポイントは稼げているし! それに皆つぶし合っているから、そこまでポイントは伸びていないはず…… 」
今回の試験はペナルティがあると言うところに肝がある。玉を壊したら-5ポイント、かかし五体分、余分にポイントを稼がねばならないのだ。最初の時点から受験者達はお互いにつぶし合いをしており、マイナスの分は相当になっているはずだ。だったら、僕達がやるべき事は一つ。自分たちの玉を守りつつ…… そして、着実にポイントを稼ぐ!
そう思っていたリア達の前に、1人の少年が立ちはだかる。リアにずっと絡んできていた少年、ガリムである。
「よお、リア! 順調か!」
「……」
ガリムが僕の前に現れた理由なんてもう既にわかりきっている。僕をつぶすつもりなのだろう。ここまで何とか無事に守り続けてきた両肩の玉を見つめる。
「お前、まだその玉残ってるじゃないか。ここまでよく持ったもんだ。だが、ここで終わりだよ。お前も、ソールも」
「ガリム……」
「お前らもバカだよな。協力とか、どうせそういうあまっちょろいこと考えたんだろうが……その分ポイントは半分になるんだぜ?」
「それでも僕は、ソールと約束したんだ。二人で一緒に合格するって! だから僕は……」
「そういうところがお前ら甘いんだよ!」
よほど僕のことが気にくわなかったのか、声を荒げたガリム。ガリムは、完全に僕たちに対する敵意を露にしていた。
「そっちがそういうつもりなら、こっちだって容赦はしない! 合格しなきゃいけないのはこっちだって同じなんだから!」
構えるソール。にやりと笑みを浮かべるのはガリム。
正直、魔法の腕前についてはガリムよりもソールの方が上。それはリアも知っていた。それにイーナと鍛えた日々で確実にソールの魔力も上がっている。だが、ガリムのあの余裕は一体……
「風の術式……」
そして、ガリムが動き出した。ガリムの得意魔法は風。孤児院で一緒に育ったリアもソールも、昔からガリムの魔法については良く知っていた。だが、想定外だったのは…… ガリムが以前よりも遙かに強くなっていたことである。
「水の術式……!」
ガリムの攻撃に備えて、水の魔法で対抗しようとしたソール。だが、その直後、ぱあん!と破裂音が響く。気が付けばソールの両肩の玉は跡形もなく割れていた。一瞬でソールの顔が絶望へと変わる。
「……っ! いつの間に……!」
「お前らなあ……」
――来るよリア!
ルカの声に、慌ててリアも身構えるも、既に時おそし、ソールに続いて、リアの両肩の玉も、激しい音と共にはじける。的確に玉を狙うガリムの魔法に、あっという間にリアとソールの両肩の玉は消え去ってしまったのだ。
「……そんな!」
「お前ら、あのイーナの元で修行してきたんだろう? 合格できると思ったか? 甘いんだよ。俺とお前の違い、それはな、実戦の経験量の違いだ」
そう冷たく言い放ったガリム。未だかつて見たことのないようなガリムの見下すような表情に、ソールもすっかり怯えてしまっていた。
「俺は何体もの堕魔と戦ってきた。力って言うのは使えなきゃ意味が無いんだ。わかるか? なあ、ソール。お前もだ。そんな馬鹿に付き合っていないで、さっさと討魔師になっていればよかったんだ。お前も、そしてリアも…… 終わりだよ」
そして、ガリムがそう口にするのと同時に、再び大きな破裂音が鳴り響いた。頭上には大きな炎の玉。試験始まりの時の合図と同じ。イーナの魔法による、試験終了の合図だった。
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