第12話 討魔師に必要なもの


「諸君、試験ご苦労であった! 合格者の発表については、後日君達の家の方に手紙が届く予定になっている! 今日はこれで終了だ!」


 試験終了後、皆に向かってそう告げたミドウ。だが、リアはその説明をしっかりと聞いていられる様な精神状態ではなかった。呆然としたまま、周りの様子を見るリア。笑みを浮かべる者、絶望を顔に浮かべる者、周りの受験者達の表情は様々だった。そして、リアとソールは後者側であった。隣にいたソールは、悔しさからか涙が止まらず、ずっと泣きじゃくっている。


 なにせ、リアもソールも合格は絶望的、かかしはそれぞれ数体倒したものの、最後にガリムに割られた玉、あのペナルティが大きすぎる。


 そして、そんな2人の様子を笑みを浮かべながら眺めるガリム。そのままガリムは勝ち誇ったような顔でその場を後にしていった。3つの玉全てが無事だったガリム。おそらく周りの受験者達の玉の割れ具合からして、ガリムの合格は間違いなさそうな様子だった。


 人がどんどんと減っていく試験会場で、リアもソールもその場を動こうとはしなかった。そんな2人の元にイーナが近づいてくる。


「2人ともお疲れさま!」


「イーナさん…… ごめんなさい……」


 一時は落ち着いてきた様子のソールではあったが、イーナの姿を見て、また涙があふれ出てきたようだ。声はもうすっかりひしゃげてしまっている。


「どうしてソールが謝るのさ!  2人とも頑張ったじゃない! ちゃんと見ていたよ!」


「でも、私もリアも玉を割られちゃって……」


「……ガリムの前に手も足も出なかった…… 強くなったと思って…… でも周りが見えていなかった……」


 悔しい。せっかくルカと一緒になって魔法が使えるようになって、それにイーナさんに修行をつけてもらって、少しは強くなれた気がしていた。だけど、そんなことはなかった。僕達はまだまだ足りなかったのだ。


「まあまあ、今日はさ! 2人とも頑張ったし! 美味しいモノでも食べに行こうよ! それに…… 試験結果は合格発表の時までわからないしね!」


 笑みを浮かべながらそう言ってくれたイーナ。こうして、リアとソールの討魔師養成学園受験は苦い思い出として幕を閉じたのである。


 試験終了後、そのままイーナのところに滞在していたリアとソールの2人。リアもソールも、もはや試験の結果についてはあまり期待はしていなかった。ただそうは言っても、この世の中、もはや子供と言えない2人は働かなければ生きてはいけない。試験の結果を待ちつつ、そのままイーナのところでしばらく手伝いをするという約束の下、しばらく身の世話をしてもらうと言うことになったのだ。


「リア! ソール! 来てたよ!」


 そして、試験終了からおおよそ10日ほどがたった頃、2人の元にそれぞれ一枚の封書が届いた。ミドウのサインが入った封書。試験の合否判定の封書である。


 どうせ見なくても結果なんて分かりきっている。渡された封書をそのまま机へと置いたリア。そんなリアにイーナが話しかける。


「リア、結果…… 見てみないの?」


「見ても見なくても結果は分かりきってるし……」


「でも、2人の約束だったんでしょ! ほらソールも待ってるよ!」


 ソールはリアと一緒に結果を見ようと、封書を手に持ったまま、リアが開けるのを待っていてくれた。仕方無い。一応ソールとは一緒に受けると約束してしまった以上、結果も一緒に見なければなるまい。


 ゆっくりと封書を破る。リアが破るのを見たソールは、丁寧に封書を開けていく。中には紙が何枚も折りたたまれて入っていた。不合格なのに、こんなに紙が入っている事なんてあるのだろうかと疑問に思いつつも、中に入っていた紙を確認するリア。


 中に入っていた紙。一行目には、綺麗な文字で『合格おめでとうございます 』と一言書いてあった。


「そうだよ、どうせガリムの奴に、僕もソールも玉を割られちゃったしさ…… わかってたよ、どうせ、『合格』だって……」


「えっ……?」


 リアとソールの戸惑いの声が重なる。自分の目を疑ったリア。だが、何度見てもそこには『合格おめでとう』の文字が書いてある。宛先が間違っていないか確認するも、何度見ても自分の名前。ソールも同じく、信じられなかったようで、手紙を何度も読み直していた。


「おめでとう、2人とも!」


――おめでとうリア!


 笑顔を向けるイーナ。そして、同じくルカも心の中でリアに話しかけてきた。その声で、ようやくリアも、ソールも実感が湧いてきた。夢にまで見た討魔師への道。それが遂に開いた瞬間だった。


「僕が…… 合格……?」


「リア! 私達合格だって!」


「……でも、どうして……? 僕もソールも最後、ガリムに玉を割られて…… -10ポイントになったはずなのに……」


 リアの疑問に、にこりと笑いながら、イーナは答えを返してきた。


「……もう終わったから伝えるけど、あの試験の-5ポイントのペナルティ。あれは罠なんだ」


「罠?」


 言っている事がいまいちわからない。だってあのとき確かにミドウは言っていた。『かかしを倒した者には、一体に付き、1得点、そして玉を破ってしまった者については一個に付き、-5ポイントのペナルティとなる!』と。


 ……いや、待てよ…… まさか……


 ミドウの台詞に違和感を覚えたリア。同じくソールも何かに気付いたようだった。そんな2人の様子を微笑ましく見ながら、イーナが言葉を続ける。


「気付いた? ミドウさんは玉を破ってしまった者って言っただけで、誰がペナルティを受けるとは言っていない……」


「……もしかして、他の受験者の玉を破った人が……」


 ソールがイーナへと問いかける。イーナは頷きながら、ソールに言葉を返した。


「そうだよ、他の人の玉を破ってしまった人は、-5ポイントのペナルティ。それにミドウさんも他の受験者と協力し合ってもらってかまわないってヒントを出してたでしょ!」


 さらにイーナが言葉を続ける。


「今回の試験は、強い魔法使いを選抜するための試験じゃない。討魔師養成学校は、討魔師を育てるための学校、つまりは討魔師としての素質があるかどうか、適正があるかどうかを見る試験。だから、力の使い方を誤ってしまうような子達は、今回の試験には合格できない。そう言う仕組みになっているんだ」


「力の使い方を誤る?」


「そう、ペナルティをちらつかせることによって、他の者を蹴落としても合格したい、そう思う子を罠にかけるミドウさんの考えだった。なにせ、そう思うような子は討魔師には向いていない。討魔師は、市民を堕魔達の魔の手から守る仕事。実践ともなれば、連携をしたり、そう言う戦い方も必要になる。いくら試験とは言え、味方同士、争いあうような…… 味方の足を引っ張ってしまうような子は、討魔師としての素質はない」


 この時、リアが真っ先に思い浮かんだのはガリムの顔。あのとき、してやったりの顔を浮かべていたガリムだったが、そう言う仕組みがあったとしたら…… おそらく彼は不合格。何せ-20ポイントのペナルティは大きすぎる。


「リア、ソール! 君達は、お互い協力し合って、ちゃんとかかしと向き合った。そして誰も傷つけるようなことはしなかった。大丈夫。君達は正真正銘、討魔師としての素質を秘めているよ!」


 ようやく実感が湧いてきたリア。自分がようやく肯定されたような、そんなイーナの言葉に、リアはもう流れる涙をこらえることは出来なかった。そして、隣にいたソールもついに感情を抑えられなかったようで、涙で顔を濡らしながらリアへと抱きついてきた。


「リアぁ…… リアぁぁぁ! 私達やったんだね! 一緒に!」


 喜びを露わにするリアとソール。そんなリアに、ルカが語りかけてくる。


――まあ、私は知ってたけどね! 


――なんで、言ってくれないのさ! そういえば試験の時もずっと黙ったままだったよねルカ!


――だって、言っちゃいけないってイーナ様に言われてたからね。ちゃんと自分たちの力で合格して欲しいって! それに、私だってリアと、そしてソールのこと信じてたから!


 こうして、僕とソールは無事に討魔師養成学園の試験に合格した。討魔師になると言う夢の第一歩を遂に踏み出せた、そんな瞬間であった。

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