第23話 堕魔との遭遇
パトロールの最中、路地裏を歩いていたリア達一行。今日一日、起きたことと言えば、あの時のコソ泥の一件のみ。事件らしい事件は他には特に起こらず、ただ時だけが流れていた。
「あの一件以外、なーんにも起きないな」
リアへと話しかけてきたのはカシン。退屈そうに、そう言葉にしたカシンにイーナが笑顔を浮かべ言葉を返す。
「まあまあ、カシン。平和で良いじゃない。堕魔なんていない方が良いに決まってるよ!」
「それはそうですけど、やっぱりこう実習に来ている以上、いろいろと経験してみたい? 的なことをおもうんすよ! なあリア?」
「えっ…… まっ? まあ…… 確かに?」
堕魔なんていない方が平和というのはその通りである。だが、こうして実習に来ている以上、何も起きないというのも寂しいというのも一理ある。今日体験したことと言えば…… あのコソ泥の案件一つであり、それも特に先生方が出る幕もなかったのだ。
「あんたら、あんなにびびっててよく言うよ! カシンなんて怯えた子犬みたいだったのに!」
「誰が怯えた子犬だ! まあ、いきなりだったからちょっと緊張はしたがな!」
「ちょっと? ふーん……」
「うっさいな! そう言うファロンだって、すっかりびびってたじゃないか!」
相変わらずのやりとりを繰り広げるカシンとファロン。夫婦漫才かと思うようなやりとりに第5班のメンバーは皆笑顔を浮かべ、そして、担当教官であるルートはすっかり頭を抱えていた。
「ふふふ、まあきっといずれは色々な事件も体験できるだろうからさ! さあそろそろ帰る準備でもしようか!」
「そうだな。大分良い時間だし……」
「あ、だったら、せんせー! 俺トイレ行ってきても良いですか!」
イーナやルートが学園に戻ることを提案した、その矢先、カシンが手を上げて、そう言葉を告げた。あきれかえるように頭を抱えるファロンが、カシンに言葉を返す。
「あんた、少しはデリカシーってもんがないの?」
「そりゃ、漏らすよりは良いだろ! 生理現象は仕方ない! ずっと我慢してたんだこっちは!」
「はいはい、カシンもファロンもいちいち争わないの! いっておいでカシン!」
「だったら、僕も!」
笑顔で2人の言い合いを仲裁したイーナ。もうその場にいた皆が苦笑いを浮かべていた。
慌てて、トイレを探しに行こうとしたカシンに、リアもせっかくだからと付いていくことにした。
「あんまり離れないようにしてね!」
「はーい!」
ちょうど、さっき通ってきた路地には、ちょうど、公衆トイレがあった。あそこならここからそう遠くもないし、少しくらい離れたところで大丈夫だろう。その時はリアも、そして、先生方もすっかり油断しきっていたのだ。
「あ~~ 危なかった!」
「カシン、じゃあ戻ろうか!」
「そうだな!」
トイレを済ませた僕達は、再び先生達と合流するべく、来た道を引き返そうとした。そして、その時、僕とカシンは気付いてしまったのだ。路地裏の方で、怪しげな男の姿を見てしまった。壁に向かってなにやらぶつぶつと唱えていた男の背には、大きなカマのような武器が。こんな街中で、あんな物騒な武器を持っているような連中など、ろくでもない連中に違いないことはすぐにわかる。
「……おい、リア…… あいつ…… 怪しくないか?」
「でも、今は先生達もいないし…… 早く戻った方がいいと……」
そうリアが告げようとした瞬間、男の首がぎょろっとリア達の方へと回転する。この世のものとは思えないような、そんな動きをした男と目線が合う。そして、男は不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩みをはじめた。
「見つけた……」
2人の耳に届いたその声は、まるで地獄の悪魔のささやきとすら思うほどに、不気味な声だった。そして、ひひひ、ひひひと笑いながら一歩ずつ近づいてくる男。
「カシン! 逃げなきゃ!」
本能でもう危険だとわかったリアはそう叫ぶ。早く先生達と…… 先生達と合流しないと! だが、逃げようとしたリアの隣にカシンの姿はなかった。立ち上がれず、腰を抜かしたカシンは、その場を動くことができなかったのだ。
「わりい、リア…… 俺ちょっと…… やべえかもしれない……」
「カシン!」
そして、動けなくなったカシンに向けて、男は距離を詰めようと走りだした。大きなカマが日の光に照らされ不気味に光る。その刃は赤くくすんでおり、それが血に濡れたものであることは一目で明らかだった。
やばい…… このままじゃ…… カシンが殺されちゃう!
カシン目掛けて真っ直ぐに突っ込んでいく長身の男。恐怖する間もなく、僕の身体は動いていた。このままだと、間違いなくカシンが殺されてしまう!
「まずは一人目だあ!!!」
カシン目掛けてカマを一気に振り下ろした男。だが、その大きな命を刈り取るようなカマがカシンを貫くことはなかった。キィンと甲高い音が路地裏に響き渡る。
「ああ? なんだおまえ?」
「……リア……」
半泣きになりながら声を漏らすカシン。カシンの目の前には、自らの剣でカマを食い止めたリアの姿があったのだ。
――目の前にいる奴は間違いなく化け物だ。自分が勝てるかどうかなんてわからない。だけど……! 今この状況で…… 僕がやらないで誰がやる? それに…… イーナ先生に比べれば、こんな奴、きっと、たいしたことない!
そう思いながら、リアは勇気を振り絞って、目の前の男に向かって叫んだ。
「僕が相手だ! カシンは…… 大事な友達が僕が守る!」
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