零の討魔師 ~魔力がない事で無能と蔑まれた僕だけど、お陰で最強の一族、妖狐の美少女に憑依されて、魔法の才能が開花しました~ ☆僕を無能だと蔑んだ奴はいつの間にか落ちぶれていましたが、もう知りません。
惟名 瑞希
第1章 『No magic, no life!』
第1話 No magic, no life
「思ったよりも進行が早い…… このままじゃ……」
薄暗い部屋の一角、少女の声が響く。そして、もう1人。話し相手は、年老いた女性。女性はひしゃげた声で、少女に言葉を返す。
「そんなに悪いのかい? 全くそうは見えなかったが……」
「正直もう打つ手は打ったつもりなんだ。可能性があるとしたら……」
………………………………………
解雇通告。
あるときは自らの無力に打ちひしがれ、またあるときは、その理不尽さに腹を立てることもあるかも知れない。だが、そんなものは僕からしたらまだマシなのだ。
なにせ一度は、その人の力を必要とされているのだから。スタートラインには立てているのだから。
それよりももっと辛いこと。それは、そもそもスタートラインに立つことすら出来ないと言うことである。
「うーん…… 熱意は買うんだけどね~~。やっぱり何の魔法も使えないとなると、うちではちょっと厳しいかな……」
「で、でも…… ミドウさんのような英雄だって決して魔法を使うわけでは……」
「ミドウさん? 君は本当に自分がミドウさんのような英雄になれると思っているのかい? この際だからはっきり言うけど、君は
おじさんは少し小馬鹿にしたような笑みで、目の前に座る少年へとそう告げる。少年にとっては、何度も何度も繰り返し聞き続けた言葉。その言葉がまた、無限地獄の如く、少年への耳へと到達した。
「じゃあ、そういうことで。こっちも忙しいんだ。
そそくさと席を立ち、事務所の奥へと姿を消したおじさん。1人取り残された少年は力なくその場を後にする。
いつもと変わらない街並み。いつもと変わらない街の人々の様子。家に帰って家族で団らんを迎えるであろう母子、磨き抜かれた武器を背に堂々と街を歩くお兄さん、隣にはがたいのいい
この世界では、生まれながらにして、人は多かれ少なかれ魔力を持っている。つまりは魔法を使うというのは、この世界に生きる生命にとって、呼吸をすることと同じくらい当たり前のことなのだ。
しかし、リアには生まれながらにして魔力というものがなかった。持たざる者であるリアにとって、この世界は非常に生きづらい、そんな世界だ。
リアの両親はリアが小さい頃、目の前で殺された。そのときの光景を、リアは今でも鮮明に覚えている。悪の道に堕ちた魔法使い。俗に
かつて、お互いに争い合っていた人間とモンスター。だが、人間とモンスターが共生するようになり、シャウン王国の王都フリスディカにも多くのモンスターが住むようになった。お互いに助け合い、協力して暮らす。そんな平和な時代が訪れたのだ。
だが、時代が移り変われば、そこには新たな脅威というものも、生まれるものである。かつて、人間にとって脅威だったモンスターに代わり、新たな脅威となったものは、他でもなく同じ人間であったのだ。それが『堕魔』。自らの私利私欲に駆られ、魔力による暴力を行う者達の総称だ。
もちろん、堕魔となり得る者は人間だけではない。人と良好な関係を築けるようになったモンスター達ではあるが、中には人間と共生することを良しと思わない者も少なからずいる。要は、生まれ持った力の使い道を誤った者達の総称が『堕魔』と呼ばれる存在なのである。
そして、その堕魔達による脅威から、国民達の平和を守る存在。それが『討魔師』である。文字通り、魔を討つ、それは国民にとって正義のヒーローに他ならない存在となっていた。
両親が堕魔によって襲われ、リア自身も堕魔の手にかかってやられようとしたその時、リアにとっての救世主となったのが、討魔師『ミドウ』である。
それからリアは討魔師という者に対し憧れを抱くようになった。自分もミドウのように誰かを救えるような人間になりたい。その一心で、リアは討魔師になるべく、討魔師の事務所を回り続けていたのだ。
だが、現実は非情だった。魔力を持たないリアが、魔力を用いて人を襲う堕魔相手に敵うはずもない。誰もがそう考えるのが普通である。リアだって内心では理解していた。
それでもリアは、ミドウのような討魔師になりたいという憧れと、そしてもうひとつ、自分を信じてくれる少女の存在があったからこそ、ここまで心が折れずに努力をし続けてこれた。
「はあ…… ソールになんて言おう……」
生まれ育った孤児院の玄関の前で、リアは中に入るのを躊躇するようにそう小さく呟く。
両親を亡くしたリアにとって、このアレクサンドラ孤児院で過ごす皆は、血は繋がっていない者の唯一の家族に等しかった。特にリアと同じタイミングでこの孤児院に入ってきたソールという少女。年齢も同じと言うこともあり、リアとソールはいつだって同じようにここまで一緒に過ごしてきた。
リアにとってなによりもかけがえのない存在。そして同時に羨ましくもある存在。何せソールは、この孤児院の中でも一番魔法の才能に恵まれていたのだ。
孤児院のグランドマザーにも将来を期待されていたソール。それでも、リアは決して彼女を疎ましく思う事は無かった。リアがここまで努力して来れたのは間違いなくソールの存在があったからこそだった。
今日だってソールは、「リアなら絶対討魔師になれるよ! 今日こそは大丈夫! 頑張れ」とリアを送り出してくれた。だが、何度も何度も、現実を突きつけられ続けるリアにとって、その言葉は何よりも重くのしかかってくる呪いのような言葉に、いつの間にか変わってしまっていた。
一体ソールになんて言おう。明るく、また駄目だったと言うべきだろうか…… それとも…… いや、折れては駄目だ。せっかく僕を信じて、送り出してくれたんだから!
そんな事を考えていた折、ふとリアの耳に聞き慣れた明るい声が届く。
「リア!」
「ソール!? どうして!?」
中身が一杯詰まった買い物袋を手に、ソールは無邪気な笑顔を浮かべたまま近づいて来る。
「そろそろ帰ってくる頃かなって思って! ちょっと遅くなっちゃったから急いで帰ってきたんだ!」
「パーティでもするつもり? そんなに気合い入れて買い物して……」
「そりゃね! リアにとって討魔師になるのは夢だったでしょ! リアが夢を叶えられたときには、絶対お祝いしてあげなきゃと思って! それで…… どうだった?」
思いも寄らない場所でのソールとの出会いに、思わず先ほどシミュレートしていた内容は全て飛んでしまったリア。ソールの無邪気な笑顔が残酷にも、リアの心を深く抉る。だが今更、ごまかしたところで仕方は無い。リアは静かにソールに向かって告げる。
「……駄目だったよ。 やっぱり魔法が使えないと厳しいって……」
その言葉を聞いたソールは一瞬残念そうな表情を浮かべたが、すぐに再び明るい表情へと戻り、リアを励まさんと言葉をかける。
「……そっか! じゃあきっと、その事務所とは縁がなかったんだね! 次は大丈夫だよ! リアならきっと討魔師になれるって!」
「無理に決まってるだろ! 馬鹿は休み休み言えよ!」
リアとソールが玄関前で会話をしている様子が見えたのだろう。孤児院の中から、顔を覗かせたのはガリムという男である。リア達と同じくアレクサンドラ孤児院で暮らすガリムは、ソールに匹敵するくらいの魔法の才能を持っており、皆のリーダー格となっていた少年だ。
「ガリム、あなたそんな酷い事を!」
「酷いのはお前の方だソール。魔法も無しでどうやって堕魔達とやり合うつもりなんだ? 一発でやられるのが関の山だろ?」
「そうかも知れないけど…… リアがここまでずっと努力をしてきたのは私がよくわかってる! 身体を鍛えてきたし、それに、一杯勉強だってしてきたし!」
「……お前、何か勘違いをしていないか? これは俺なりの優しさだ。こいつに討魔師になる資格はない。いつまでも叶わない夢を見せている方がよっぽど残酷だ。それに、お前もいつまでもこんな世間知らずの馬鹿にかまってないで自分の心配でもした方が良いんじゃないか? お前も来週事務所の面接なんだろ?」
「……!?」
ガリムが既に討魔師事務所に内定が決まっているというのはリアも知っていた。だが、ソールも事務所を受けていたと言う事を、この時リアは初めて知ったのだ。
――どうして…… どうしてソールは事務所を受けることを僕に言わなかったんだ?
別にソールが討魔師を目指していたと言うこと自体は特段気にはならない。ソールが魔法の才能に溢れていたということはリアが一番よく知っていたし、いつかは討魔師になったとしては何ら不思議ではない。それよりも、リアが気になったのは、どうして事務所を受けていると言うことをリアに内緒にしていたのかと言うことだった。
「ガリム! リアには言わないって約束だったでしょ!」
「僕には言わない…… どうして?」
「それは……」
何かを隠すように、口ごもるソール。僕には言いづらい事情があると言うことは、ソールの様子からしても、明白だった。そして、とどめを刺すように、ガリムが言葉をぶつけてきた。
「そりゃお前には言えないだろ? いつまでも夢を追っているお前に現実を突きつけるだなんて、そんな残酷な言葉」
――そうか、ようやくわかった。
「違う! 違うのリア! 」
必死な様子で叫ぶソール。持っていた買い物袋は足元へといつの間にか落下しており、中身が盛大に飛び散っている。だが、そんな事はもはやどうでもいい。全てがもうどうでもいい。
そう、きっとソールも内心では思っていたのだ。魔力の無い僕が討魔師になれるわけなんかないと。
そのまま、僕は一心に駆けだした。行く当てなんかない。だけど、今は誰とも会いたくない。その一心で、僕はあてもなく駆けだしたのだ。
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