第17話 ダンジョン探索開始
「マエリスが危ないかもしれない。あの騎士のボリスのたくらみを暴くために、行こう」
「うん!」
チコと息を合わせ、階段を降りていく。
ランタンの明かりが薄暗く屋内を照らしている。
僕たちは、そのまま奥に入っていく。
うん、ダンジョンだこれ。
——
ぐるるるるるるぅぅぅ。
僕のお腹が鳴って、チコが何か食べようと言い出した。
幸い、周囲に敵の気配はなさそうだ。
【
この魔法は、パンを生成する魔法だ。
失敗することが多いので習得する人は少ない。
もっとも、魔法が使える人はたいてい攻撃魔法など、強い魔法を覚えていく。
「【
『【食料生成】の解析を開始——成功しました。
んんっ?
強化が使える?
今までは、味の付いた普通のパンが現れていたのだが……強化するとどうなるんだ?
「とりあえずYES」
『
ぽん!
と音を立てて、目の前の空中にパンが現れる。
落下する前にパンを受け取って確認する。
「このパン——ハムと野菜が挟まれている……?」
「え? すごい! リィト」
「いや、謎だ。謎すぎる……チコ、何か知らない?」
「チコは何でも知ってるわけじゃないの」
「そっか、ごめんな」
申しわけなさそうにしているので、頭を撫でてあげる。
すると、チコは気持ちよさそうに目を細めた。
そもそも、【水生成】と違って何を元にパンを作るのか不明。
近くのパン屋から転送してるのではとビクビクした時があった。
でも、違うようだし……僕は深く考えるのをやめた。
「美味しいねー、リィト」
「う、うん」
妙に美味しいのも謎だ。誰が作ってるんだ。
まあ良いかと歩きながら食べていると——。
「動くな……そのパンを寄越しなさい!」
背中に誰かが立ち、
チコを守らなければ、と思うのだが身動きが出来ない。
声は女性のもの。
しかも、ふかふかした柔らかいものが僕の背中に触れているし、本気で脅している感じはしない。
でも、逆らわない方がいいだろう。
「わ、わかった」
「よし」
あれ?
でもこの声……?
「あの、もしかして、カトレーヌさん?」
「…………ふぅ、バレたか。油断しすぎよ、リィト君」
なんと、僕の背後にぴったりくっついて声をかけてきたのは、勇者パーティにいた
相変わらずキリッとして綺麗なお姉さんだ。
黒を基調とした露出の高い服装で、妖艶な雰囲気。
スタイルもよくて、男の人をもてあそんでそうに見える。
カトレーヌさんにパンを食べて貰いながら、互いに情報交換をする。
「カトレーヌさん、どうしてここへ?」
「アタシは、連れて行かれたマエリスをこっそり追いかけたの。それで見つけた転送魔方陣を踏んだら、ここに飛ばされて……もぐもぐ」
騎士ボリスか……と腕を組んで考え始めるカトレーヌさん。
集めている情報を頭でまとめているようだ。
「リィト君に会えて良かった。ごめんね……パーティで一緒の時にグスタフの仕打ちに庇ってあげられなくて。お詫びとして、リィト君さえよかったら、私を好きにしても——」
カトレーヌさんが、また僕の後ろにまわりぎゅっと抱き締めてくる。
柔らかさと暖かさが背中に伝わってくる。
「リィト君、遠慮しなくても……私は少しは経験があるから」
「え、ええとですね」
ちょっと妙な雰囲気になりかけたとき、じーっと僕らを見ていたチコが話しかけてくる。
おお、助かる。
「リィト、この人……?」
「……元仲間だよ。マエリスの友達」
『友達? 【
「えっ?」
鑑定魔法が起動した。
いや、チコに起動させられたのだ。
『
鑑定結果
名前:カトレーヌ
年齢:20
性別:女性
身長:165
体重:49
所持品:暗殺者の小刀
以下、追加情報
B・W・H : 89・58・86
リィトに対する感情:好意あり・罪悪感あり
悪意:なし
敵意:なし
男性経験:0
』
『敵じゃなかった。よかった』
僕の魔法を起動することができるのか?
「チコ……鑑定魔法起動してどうした?」
「ん? なあにリィト?」
チコはきょとんとして僕に聞き返した。
無意識だったのかな。
だいたい鑑定内容に、なぜ毎回スリーサイズがあるんだ?
などと悩んでいると、カトレーヌさんが眉をひそめて言う。
「その小さな子誰? ま、ま、まさかっ……マエリスとリィト君のこ、子供?」
「あー、そういうのいいです」
大げさに驚くフリをするカトレーヌさん。
僕は軽くスルーして、リコを紹介し簡単に説明した。
「ふぅん。不思議な子ね。チコちゃんね。よろしく」
「うん! よろしくね」
「あのカトレーヌさん、経験が無いって。あの、無理されていませんでしたか?」
「えっ、なぜそれを……」
あ。
すると、彼女は突然顔を真っ赤にして、反対側を向いた。
「い、いや……あの、その……。リィト君に何かしてあげたくて、アタシはこれくらいしかないから」
「僕は気にしていませんから、無理されなくても——」
「うう……その、そうよ! 全部妄想よ! 本とか読んで男の人が喜ぶかなって思って!」
「は、はい」
カトレーヌさんは、耳の先まで真っ赤にして、白状を始めた。
うん、これなら鑑定魔法要らないな……。
「そ、そんなことより、先に進みましょう。アタシが前に出るから」
「はい……お願いしていいですか?」
「先頭で罠を警戒するもアタシの仕事だし……リィト君に対する罪滅ぼし——」
「え?」
「ううん、何でもないわ。お姉さんに任せなさい」
少しだけ賑やかになった。
僕らはカトレーヌさんを先頭にして、慎重に先に進んでいく。
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