第15話 そのザマは何よ?(2) —— sideマエリス



「あなたは聖女になれるんだから、重要なのは変わらないと思うけど……でもリィト君よね。なぜ、重要だと考えているのか……そこまでは私は調べられなかったの」



 リィトは、姫殿下に何らかの力を認められていた……!

 実はこの辺りの事情は、本来はカトレーヌさん自身も知らなかったけど、気になって彼女なりに調べたことらしい。



「そこですよね」


「アタシはぎりぎりパーティに置いて貰っている身でもあるから、グスタフに逆らえなくて。でも本当はもっとかばってあげたかった。マエリス、今さら、許してくれなくてもいい。でもね、アタシは……マエリスがリィト君かばってるのを見る度に、悔しい思いをしていたの」



 カトレーヌさんの立場は当然あって、仕方ないと思う。



「うん。みんな事情あるから、私は気にしていません。そう思ってくれてただけで嬉しいです」


「ああ……。マエリス」



 リィトは必ず、強くなるという確信が私の中にあった。

 それを、他の人も……姫殿下も認めて下さっていたなんて。


 私の独りよがりじゃなかった。



「マエリス、元気が出てきたね」


「はい……!」


「で、リィト君のことだけど、もし彼を好きな人がいたとしたら、どうする?」


「えっ? リィトを好きな人……?」


「リィト君のことになると、顔色が変わるわね。うーん、マエリスとリィト君の愛情の強さを考えると、割って入るのは難しいそうねぇ」



 カトレーヌさんは、やれやれ、という感じで手を振った。



「私たちはそういう関係じゃないですよ。幼馴染みです。でも家族みたいに大切には思っていますけど」


「そうかしら? でももし、私がリィト君を好きになったら……ちゃんとマエリスに言うね」


「は、はあ……えっ好きに?」


「うん。歳下君に甘えて貰うのって嫌いじゃないし」



 ……冗談だよね?


 私とカトレーヌさんは、この仕事が終わったら、リィトを見つけて……誘って、みんなで美味しいものでも食べに行けたらいいねなどと話したのだった。




 私たちは、王国辺境に向かうことになった。

 どうやら、私の働きが認められ、聖女になる日が近いそうだ。


 私は知らなかったのだけど、聖女の儀式を行うことで正式な聖女になれるそうだ。

 

 私やリィトが生まれた村があった場所——ディアトリアの廃墟に、聖女の儀式を行う祭壇があるらしい。

 勇者パーティと傭兵部隊と、王国軍兵士たちで、そこに向かう。


 その途中で、勇者パーティに新しいメンバーが加入した。

 魔術師のマルガという、少し謎めいた少女だ。


 彼女はひたすら無口で、無愛想だった。

 攻撃魔法を得意とするようだ。




 あともう少しで廃墟というところで、私たちは魔物との戦闘に大苦戦する。

 魔物との遭遇は何回かあったけど、その日は大物……突如、巨鬼オーガ・ジャイアントに遭遇してしまった。


 それでも、普段ならグスタフ一人で倒してしまうのだが、彼の剣のキレが悪い。


 うまくスキルが発動せず、戦闘は大混乱になった。

 そして、しまいには私たちを護衛していた傭兵部隊とも離れてしまった。


 新入りの魔術師は魔法を行使するものの、決定打に欠ける。

 

 どうにもならずに、カトレーヌさんが時間を稼ぎ撤退を開始。

 戦闘がはじまって一番最初に逃げはじめたのはグスタフさんだ。



「グスタフ、あなた、そのそのザマは何よ? 今日は一回も剣聖スキルの発動が成功しなかったじゃない!」


「そ、それは……」


「リィト君がいなくなって、もうこのパーティはボロボロじゃない? あなたが勝手なことをしているって、姫殿下が知ったらどうなるかしら……?」


「な、なぜそれを……まあ、それは、なんとかなる……はずだが……」



 さすがに、今日のダメダメさに愛想を尽かしたカトレーヌさんが我慢できなくなったようだ。

 その初めて見る勢いに押されている。

 なんだ、遠慮している相手にしか強く出られないのか。



「お荷物は、リィト君じゃなくて、グスタフ、あなたよ!」



 その日、それまでのリィトに対する仕打ちや鬱憤を晴らすように、カトレーヌさんはグスタフさんを責め続けた。



「はあ、ちょっとスッキリしたけど、物足り無いわねぇ。なんかグスタフ弱ってるし」


「その、大丈夫ですか?」


「いいのいいの。あんなリーダーの下にいたら、いくつ命があっても足りないわ。どうして今までうまくいってたのかしらねぇ」


「それが不思議なんですよね」



 なんとなく思う事がある。

 私の想像上の友達イマジナリーフレンドと、リィトから時々聞こえてきた、少女の声が関係しているのかもしれない。


 あの声が聞こえたときは、たいてい調子がよかった。

 私はその声が聞こえるリィトに向かって、なんとなくお礼を言っていたのだけど、確信があったわけではない。


 今ではリィトもいないし、あの声も聞こえなくなってしまった。



「また、リィト君と会えるといいわね。アタシも会いたくなってきた」



 私の方が、ずっとリィトに会いたいと思ってるよ——。



 ディアトリアの村が地図から消えたあの日。

 両親を失って……収容された孤児院で、食事もとらず毎日泣いて過ごしていた日々。


 リィトが支えてくれたから、今の私がある。

 彼がいなかったら……私はきっと……。



 寂しい……会いたいよ。




 でも、私のその想いは、願いは。

 すぐに叶えられる……。

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