第12話 幼馴染みと一緒に、夜を過ごす…… (2)


「イマジ——?」

「あっ、ええと。その、私だけに見えてた女の子とそっくりでっっ。というか……そっか、この子なら、いいよ? 私は」



 マエリスは真っ赤な顔をしている。


 少女コードと、《グリッチ=コード》の話を伝えると、マエリスは急にニコニコとし始めた。

 表情がころころ変わってかわいい……おもしろい。



「むにゃ……リィト……誰?」



 騒がしくしたからだろう。

 少女コードが目を覚ました。

 目をこすって、マエリスをぼんやりと見つめている。



「この子、名前がコード? うーん、もっと可愛い名前にしない? 例えば——チコ」

「チコ? かわいいか?」

「いいの! ほら、グリッードと関係あるのなら丁度良いでしょ!」

「そうか? まあ、この子が良ければ」



 少女コード。いや、チコは、ガバッと起きマエリスに抱きついた。

 マエリスは、寝ぼけまなこのチコに、耳元で話しかける。



「あなたの名前は、これからチコよ。私はマエリス。よろしくね! お母さんがもし見つからないなら、私が——」

「わたしは……チコ……!」



 その瞬間、チコの体からカッと閃光が放たれた。

 まばゆい光で僕らは視界を失う。


 光の洪水に襲われる中、マエリスが僕に抱きついてくる。

 今度は、ふにっと柔らかいものが僕の手に触れる。


 マエリスって胸がある……などと当たり前のことをこんな時なのに思う。

 いや、むしろグイグイ押しつけてきているような気がする?



「リィト……マエリス……私の名を呼んでくれて……ありがとう」



 チコの声が、妙に大人っぽい感じになって聞こえた。

 まるで、頭の中に響く《グリッチ=コード》の声を、大人にして艶っぽくしたような声。

 光が次第に弱くなっていく。



「すやぁ……リィトぅ……マエリスぅ……チコぉ」



 急に幼い声に戻って、チコは寝てしまった。

 完全に光が消え、ランタンが灯す光だけになり静かになる。



「今のは何だったのかしら……?」



 僕とマエリスはすぅすぅというチコの寝息を聞きながら、しばらく抱き合っていた——。



 マエリスとごろんと毛布に横になって話をする。

 チコは僕と腕を組んで寝ている。


 一方のマエリスは、チコの反対側で僕の方を向いて抱きついてきている。

 彼女の体の柔らかさが伝わって、心地が良い……けど今日は妙にくっついてくるな。


 こういうのを「甘えてくる」と言うのだろうか?



「マエリス、妙にくっついてきてない? チコがいるの忘れないでね」

「いいじゃない。ずっと離れてたんだし」

「離れてたって、一週間やそこらだろ?」



 ぐいぐいと色々押しつけてくるマエリスと、とりとめのない話をする。

 僕たちはくっついたまま眠った。



 ————



 早朝。

 チコはまだ眠っていて、僕とマエリスだけが先に起きた。



「じゃあ、私は帰るね。儀式が終わって聖女になれたら、絶対三人でパーティを組もう。約束ね?」

「わかった。俺は廃墟でちょっと調べ物したら、孤児院にいるから」

「うん。待っててね」



 餞別とばかりに、僕に抱きつくマエリス。

 僕はそっと、彼女の背中に両手を回す。



「じゃあ、夜話してた鑑定魔法を——」

「うん聖女になれるかどうか。お願いね」



 夜に、鑑定魔法のことを話したら、強く食いついて、起きたら使ってあげることになっていたのだ。



「じゃあ行くよ。【鑑定アイデンティファイ】! 改造呪術グリッチ=コード!」


 鑑定結果


 名前:マエリス

 年齢:16

 性別:女性

 身長:158

 体重:47


 職階級クラス:聖女

 LV:20

 所持品:リィトとお揃いの指輪、聖なる守りホーリーアミュレット、聖女着



 追加事項


 B・W・H: 83・57・85

 備考:チコのお母さん

 好きな人:リィ——


「ななななな。ストップ!」

『えー。ちぇっ』

「なになに? どうしたの?」

「マエリス!! チコのお母さんって出たぞ。相手は誰だッ!?」



 僕は思わずマエリスの両肩を掴んだ。



「えっ。私、まだ赤ちゃん産んでないよ……? それに、まだそういう事、経験ないよ……?」



 頬を真っ赤に染めて恥ずかしがるマエリス。

 ふと何かに気付く。



「それに、歳を考えてよぉ! だいたいそんな相手いなかったでしょう? それにもしそうなら……私の旦那さんは……ぶつぶつ……」

「おっ。おう。そうだな」



 僕も人のことを言えないなぁ。

 まあ、チコの願望的な何かだろう。



「ふふっ。でも私のことで興奮してくれて……ふふっ」

「いや、その、気になってさ……あと、マエリスは聖女になれるよ。大丈夫」

「よかった! じゃあそろそろ、私は行くね」

「また、孤児院で会おうな」

「うん!」



 マエリスは、手を振ってテントを去って行った。


 そういえば、職階級クラスが既に聖女になっていた。

 だとしたら、儀式というのは形式的なモノなのかもしれない。

 

 すぐにチコが目を覚ます。



「……おはよう? リィト。マエリスは?」

「おはよう、チコ。マエリスはちょっと用事があるって出かけたよ」

「えー?」

「大丈夫、すぐに戻ってくるから」



 そのためにも、廃墟の調査をとっとと終わらせて孤児院に戻らないとな。

 僕は決意を新たにしてテントを出る。


 ちょうど、そこには傭兵の隊長がいた。



「リィトさん、おはようございます。昨日は、あんな可愛い子とお楽しみで——」

「おはようございます。いやいや、そういうのないから!」



 全然信じていないようだ……。

 でも、楽しい夜を過ごせたのは確かだ。



「リィトぉ。ニヤけてる!」



 僕はどうやっても頬が緩むのを、チコに笑われるのだった。

 

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