第13話 そういう関係では


「やっぱり、行ってしまわれるのですね」


「はい。グスタフに会うと、面倒なことになると思うので。もう勘づいているのかもしれませんが」



 僕とチコは出発の準備をして、キャンプ地の端まで来た。

 傭兵の隊長が、キャンプ地を離れる僕らを見送りに来てくれた。

 


「そうですか。今思えば、正直、あのグスタフさん……勇者候補はあまり……おっと、失礼しました。今さらですね」


「いえ、大丈夫ですよ」


「世話になりましたし、あの聖女候補の彼女さんを気にかけておきます」


「いや、だからそういう関係では——」


「いえいえ、何も言わなくてもわかってますって」



 僕は説得をあきらめた。


 グスタフにバレるということで、隊員さんたちの見送りは無しにしてもらった。

 少し寂しいけど、また会えるだろう。

 さっそく、ディアトリアの廃墟で会えるかもしれない。


 僕は隊長としっかりと握手を交わす。

 チコも続いて「わたしも!」と元気に言って、握手をしていた。



「じゃあ、チコ。行こうか?」


「うん!」


「嬢ちゃん、少し大きくなってないか? いや、気のせいか……?」


「そうですよ、たった一晩で」


「確かに。では、気をつけて!」


「はい。隊長さんも、皆さんも気をつけて」



 勇者パーティは、傭兵部隊と王国軍の兵士を連れているようだ。

 兵士の部隊は、勇者パーティから離れなかったのだろう。



 ——



 まだ日が高く昇る前。

 ディアトリアの廃墟に到着。


 勇者パーティの部隊は大所帯になる分、僕らの方が足が速い。

 チコは大人の足にでも十分着いてくる。



「リィト、すぐ近くだったんだね」


「そうだな。周囲は荒れ地、か」



 僕は六歳の頃までここにいた。

 村全体を焼き尽くす大爆発が起きた、あの時まで……。


 ここにいた時の記憶はかなり曖昧になってきている。

 父さんや母さんの記憶も薄れている。



「景色が記憶と微妙に違うような気がするなぁ」


「リィト、そうなの?」


「うん。建物が崩れていってるからかな」



 廃墟はこうやって、どんどん朽ちていくものかもしれない。

 


 僕らは二人で手をつなぎ、廃墟になった村の中に足を踏み入れていく。

 魔物の気配は感じない。


 大狼ウォーグウルフやオーガが巣を作っていると思ったけど、そうではなさそうだ。



「リィトぉ、あそこ、人がいる!」


「ほんとだ。あの後ろ姿、どこかで見たような気がするな?」


「チコも!」



 チコが見ているのなら、街中か、さっきのキャンプ地か?

 一人だけ偉そうな人物が、数人の護衛を連れている。

 それなりの身分なのだろう。


 変だな?

 勇者パーティの部隊とは別行動をしている?


 このまま帰るつもりだったけど、そういうわけにはいかなくなった。

 僕らは、彼らの後ろをこっそりと着いていく。



「見つかったら、チコを担いで逃げるからな」


「大丈夫、走れるよー!」



 今朝傭兵の隊長が言っていたように、少し大人びた表情を見せるチコ。

 頼もしい。



 ————



「聖女がじきに、ここに儀式を行いに来る。の準備は出来ているか?」


「いえ、もう少しかかります」


「何をしている。急げ! 儂も行く」



 彼らに接近すると、崩れた建物の前で、そんな話をしていた。

 明らかに怪しい。怪しすぎる。


 見覚えのある人物というのは、近づいて誰か分かった。



「あれは、王国騎士の一人で、名はボリスだったかな」


「うん!」



 勇者パーティの管理をしている男。

 チコは見たことないはずだけど、まあいい。


 彼らは建物の中に入っていった。

 僕らも後に続こうと建物に近づく。


 が、彼らが侵入者対策をしていないはずもなく……。



「リィトぉ。くさいよぉ」


「くっ。こいつらは……骸骨スケルトン屍食鬼グール不死者アンデッドか!」



 十体以上のアンデッドが現れた!

 獲物を見つけたスケルトンはカラカラと骨を鳴らし、とびきりのご馳走を前にグールが「グウウウウウルゥ」と、うなっている。


 とはいえ、ここは屋外だ。



「リィトぉ。燃やそ?」


「そうだな。【発火イグニッション】!」


反則強化グリッチ!』



 炎に包まれ叫び声一つあげず、灰になっていくアンデッドたち。



 これで僕たちの存在がボリスにバレたかもしれない。

 そして、奴らが良からぬ事をしているのがこれで確定した。


 アンデッドの使役。

 この世界では、冒涜的な事だと言われている。


 これからの戦いに備えて、自分の能力を確認する。


 

反則呪術グリッチ=コード一覧!」

 自呪術強化:

  (火属性)【発火イグニッション】:強化レベル1

  (水属性)【水生成クリエイトウォーター】:強化レベル1

  (水属性)【浄化パージ】:強化レベル1 (新規!)


  (無属性)【鑑定アイデンティファイ】:強化レベル1

  (無属性)【百発百中トゥルーストライク】:強化レベル1


   他 解析中


 他呪術複写:

  解析中



 【浄化】がグリッチできるようになっている。


 それに……。 他呪術複写?

 今は解析中となっているけど、いずれ使えるようになるのかもしれない。



「ボリスは聖女がどうとか言っていた。マエリスのことだろう。どう見ても、良いことが起きるとは思えない」


「うん、チコもそう思う」



 まっすぐな瞳で、チコは僕を見つめた。

 でもこの子を、これ以上危険な目に合わせても良いのだろうか?


 建物に入れば、逃げ場がなくなるかもしれない。

 かといって、ここで待たせておくのも……。



「今見て見ぬ振りをすると、絶対後悔する——でも、どう考えても、危険だと思う」


「リィト。行こう! マエリスが危ないんでしょ? わたしは大丈夫!」



 不安にさせないようにと思ってだろうか?

 信頼していると、伝えるためだろうか?


 チコは、とびきりの笑顔を僕に向けて言った。

 いつも見る、可愛らしい姿だ。

 僕と同じ色の髪の毛が、美しくなびいている。



「チコ……君は」



 今までも危険なことがあったけど、チコはいつも笑顔で僕の側にいてくれた。

 今だってそうだ。


 僕の手を、その小さな手できゅっと握ってくれている。

 目頭が熱くなる。



「リィト、泣いているの? 大丈夫?」


「いや、チコの気持ちが嬉しくって。ありがとう」


「そっか。じゃあリィトが元気になるのなら……!」



 チコは、また笑顔を僕に見せてくれた。

 ああ、この子は——。



 何があっても、僕はチコを、そしてマエリスを守る。

 僕は、そう決心して扉を開けた。

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